山田式部少輔有親④噶瑪蘭族との交渉と農地開発

◆山田式部少輔有親


 俺が高砂国奉行として、高砂国に到着してから、先に高砂国に到着していた者たちや、元々住む者たちの話を聞き、高砂国のことを調べていた。


 我々に協力する噶瑪蘭族者たちに話を聞くと、噶瑪蘭族は海沿いを拠点として漁業中心の生活をしている様であり、それに付随する土地で小規模に農作をしている様だ。

 また、噶瑪蘭(クヴァラン)族は自分たちは、狡賢く、愚かであると言う。

 彼等は、雨の時に使う蓑笠を用いて踊るらしく、その行いが自分たちでも愚かだと思いつつも、楽しんでいるらしい。

 噶瑪蘭族も高砂国の他の部族の様に、首狩りの習慣があるらしいが、彼等の縄張りから外れていたことや、武装した海軍の兵が常に複数名で行動していたため、首狩りは止めたらしい。

 また、こちらが食料や生活雑貨を持っていたため、自分たちを狡賢いと言う彼等は、それを戦って奪うより、交易して手に入れたいと思ったことも、我々を攻撃しなかった理由だそうだ。

 噶瑪蘭族の中には、噶瑪蘭湊に殆ど住み着いている様な者もや湊の仕事を手伝っている者もおり、それらの者たちは、我々の貴重な協力者となっている。


 俺は、噶瑪蘭族の協力者たちの仲介を得て、噶瑪蘭族の族長たちと話し合いをすることが出来た。

 我々の耕作地を作りたいので、空いている土地を使って良いかどうか交渉をする。

 噶瑪蘭族は沿岸部や川沿いを主に住んでいるため、噶瑪蘭湊の一帯の平野は耕して良いらしい。

 噶瑪蘭湊の辺りは、泰雅(タイヤル)族と言う首狩りを好む勇猛な民との境目らしく、泰雅族との諍いを怖れて、住まない様にしているらしい。

 その泰雅族が殿が仰っていた首狩り族とやらだろう。

 まだ、我々が遭遇していないのは幸いであるが、噶瑪蘭湊に戻った後、皆に伝えねばならないな。

 噶瑪蘭湊の北にある山を越えると、噶瑪蘭族の部族たちが住まう土地だそうで、そこには近付かないで欲しいそうだ。

 我々に協力的な部族も居れば、我々を警戒している部族もいるらしく、お互いに近付きすぎない方が良いと判断したらしい。

 ただ、彼等も交易を望んでいるらしく、交易をする者や仕事を手伝って品物を得ようとする者などは受け入れて欲しいとのことであった。

 俺は、その話を了承し、当家の者たちに噶瑪蘭族の土地に近付かないことと泰雅族に気を付ける様に伝えたのだった。


 噶瑪蘭湊一帯を耕作することが出来るようになったので、殿が美濃から送ってくれた灌漑や乾田作りを指導出来る農民に、何処に灌漑や乾田を作るかを考えてもらう。

 湊の側に河川があるので、田畑も作りやすいだろう。

 灌漑や乾田に影響の無いところに、日ノ本から持ち込んだ野菜や南蛮から取り寄せた野菜の畑を作る。

 特に、サトウキビは現地で育て方を聞いてきた東天竺屋の者と農民が話し合って、植えるところを決めていた。

 その他にも、ココヤシ、サゴヤシ、オウギヤシ、サラカヤシ、ナツメヤシ、天竺ナツメ(インドナツメ)、バナナ、マンゴー、無花果、天竺栴檀(インドセンダン)等の椰子や果樹などの樹木の苗を植えていく。

 南蛮から取り寄せた、スイカ、カボチャ、トウモロコシ、ニガウリ、トウガラシなどの種は、まだ季節では無いそうなので、来年に種を蒔くそうだ。

 番の山羊は囲いをして飼育している。早く子供が生まれて欲しいものだ。

 食料は船で送られてくるが、不足することがないように、粟、稗、稷の種も蒔いていた。

 これらの作業は、薩摩から口減らしや戦で奴隷になってきた者たちが送られており、働かせる者には事欠いていない。


 栴檀は高砂国にも自生しているため、噶瑪蘭族に頼み、栴檀の葉を取ってきてもらい、その葉を煎じたものを虫除けに撒いている。

 先に到着した海軍の者たちの様に、殿の指示で汚い沼地の埋め立てや比較的綺麗な沼には川で取れた小魚を入れる様にしていた。

 沼から蚊が産まれてくるのを防ぐためらしい。

 噶瑪蘭族にも、自分たちの領域で同じようにすることを勧めておいた。

 彼等も蚊がもたらす病に困っているそうなので、族長たちと話し合ってみるとのことだ。


 当家の家臣たちが働く奉行所、神宮の神官のための神明社、職人たちの作業場なども作らなければらない。

 今あるのは、寝泊まりする家と東天竺屋の倉庫くらいだ。

 薩摩から奴隷が送られて来ているので、彼等の家も作らなければらなかった。

 日向の木材が送られてきているが、自分たちで木材を調達出来る様にしなければならない。

 俺は奴隷たちに木の伐採を命じることにした。


 この木材伐採の指示が、我々に新たな出来事をもたらすこととなったのだった。

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