薩摩情勢と長野氏の到着
気付けば、既に冬を迎えており、美濃も志摩も平穏である。
冬の頭に、御南が懐妊したと女科医から告げられ、家中では喜びの声が上がった。
第一夫人、第二夫人ともに懐妊と、主君が子宝に恵まれるのは喜ばしいことなのだろう。
これで、伊作家との繋がりもより深まるだろうな。
そんな薩摩の情勢だが、島津勝久は自らの手で政務を執ろうとしたが、歴代の家臣を遠ざけ、結果的に俗曲戯芸に興じ、政務を怠っていた。
島津勝久の家臣たちは、連判の上、これを諫めたが聞き入れられず、老中の川上昌久は、勝久の寵臣である末弘忠重を誅殺する。島津勝久はこれを恐れて、大隅国根占の禰寝重就に逃亡したらしい。
島津家の状況は、まだまだ混迷を極めそうである。
上野国から追放された長野氏の一族が兼山に到着したとの報せを受ける。
長野氏に同行していた鵜飼孫六の手の者から、逐次連絡が入っており、二百名程の武士たちと、その家族がいるそうだ。
事前に、長野氏たちが住まう住居の準備はさせていたので、ギリギリながらも住居は足りるはずだ。
箕輪長野家の当主である長野方業とその甥の長野信濃守業政を迎え入れる。
「領地を失った我等を迎え入れていただき、忝ない」
長野方業が、受け入れたことの礼を言う。
彼等と話すと、当家に仕官するのではなく、取り敢えずは客将として扱って欲しいとのことであった。
突然のことで行く当ても無く、受け入れてくれるのが当家しか無かったから来たらしい。
実際に、当家に仕えるかどうかは、同行した一族や家臣たちに決めさせたいそうだ。
「箕輪長野氏の家督は、甥の信濃守に譲ろうと思います」
関東管領家の内紛で徐々に頭角を現し始めた長野信濃守は、壮年で目付きの鋭い男であった。
長野方業は疲れきっているのだろう。甥に跡を託したいらしい。
「叔父の跡を継ぎ、箕輪長野氏の行く末を決めたいと思っております。
暫くは、客将としてお使いください」
長野信濃守も当面は客将として滞在するつもりの様だ。
本当なら、召し抱えたいところだが、無理をしても何処かに行ってしまうだけだろう。
長野氏たちを客将として迎え入れることとなった。
長野方業たちと会い、彼等が落ち着いた頃、わしは上泉伊勢守秀綱を呼び出した。
上泉伊勢守と言えば、新陰流の創設者であり、剣聖と呼ばれる程の人物である。
今はまだ若いが、彼の家は代々諸流を修める程の剣の腕前で、彼の剣術の才能は相当な物らしい。
現在は、当家に客として滞在しているが、家臣たちに兵法を教えてもらえないかと頼んだところ、世話になっているからと了承してくれた。
長野氏をまだ召し抱えることは出来なかったが、客分として迎え入れることが出来たので、東美濃回復の戦力として活躍してくれると期待しよう。
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