馬路玄蕃②アチェ王国での外交
◆馬路玄蕃正頼
野分の季節も終わり、俺は再びアチェへと向かい出発した。
今回は、正式な外交の使者としてアチェへ訪問する。
琉球王府も南蛮との交易を取り戻したいらしく、外交の使者を送ることに同意し、当家と合同でアチェへと向かう。
今回も川俣十郎殿たちに船団を率いてもっているので、海賊が現れても、何とかなるだろう。
前回と同じくマニラとブルネイを経由し、アチェ王国の都のクタラジャへと到着する。
クタラジャの湊のて、湊の役人に琉球王府と日ノ本の使者であり、スルタンへの謁見を望む旨を伝えると、役人は慌てて役所へと戻っていった。
その後、役人の上役らしき数名の男たちが現れ、役所へと通される。
琉球はかつてマラッカで交易していたので、アチェ王国方も存在は知っている様で、身分など確認するべく、マレー語で色々聞き取りされていた。
問題は当家の方で、日ノ本の存在自体は知られているが、外交の使者など南蛮に来たことも無く、どう対応すれば良いか困っている様だ。
日ノ本は、波斯(ペルシャ)の言葉で「ワクワク」と言うらしく、日ノ本について色々尋ねられた。
その後、当家の身分はどの様な身分かと聞かれたので、こう言う時は、舐められたらいけないと、誇張して名乗ることにする。
殿は関白様の御子息なので、ワクワクのワズィール(アラビア語で宰相)の息子の使者であることを伝えると、琉球王府方も後押しをしてくれ、俺は日ノ本のワズィールの子息が派遣した使者となったのであった。俺は嘘は言ってないぞ。
取り敢えず、琉球と日ノ本からの使者と認められた様なので、我々は使者が泊まる屋敷へと案内される。
その後、アチェ王国の外交を担う役人が何度か訪れ、琉球や日ノ本のことを尋ねてくる。
スルタンとの謁見の日取りを調整しているらしく、まだまだかかりそうだ。
アチェ王国の役人が来ない日は、クタラジャを歩き、散策をするとともに、以前世話になった商家を訪れる。
使者に何かあってはいけないと、アチェ王国方から護衛の兵が付いてきているので、商家の者たちは驚いていた。
以前に訪れてから半年ぐらいなので、頼んだ品々はまだ揃っていない様だが、幾つかの種などは手に入れてくれた様だ。
今回、積んできた交易品を売り、積んで帰りたい交易品を注文しておく。
アチェ王国のスルタンの謁見まで、まだまだ時間がかかるだろうから、揃えてもらう時間は十分にあるだろう。
クタラジャに到着して、一週間ほど経った頃、役人からスルタンへの謁見の日取りが決まったと連絡を受ける。
思っていたより早いと思ったが、スルタンも琉球や日ノ本に興味がある様で、謁見の日取りを割り込ませてくれた様だ。
そして、遂にスルタンとの謁見の日となる。
石造りの豪華なスルタンの御所へと入り、謁見の間に通される。
予め、謁見の際の礼法を役人に聞いていたので、スルタンがいらっしゃっても、礼を失することは無かった。
スルタン・サラディンへの挨拶を終え、スルタンは家臣を通じて、琉球の使者と俺に言葉を掛けてくる。
そして、琉球や日ノ本のことを色々と尋ねられた。
スルタンからの問いに応えた後、我々の目的を尋ねられ、琉球はアチェと相互に交易をしたいことを伝える。
俺は殿から事前に伝えるように言われたことをスルタンに言上する。
ポルトガルの脅威が明国や日ノ本に及んでいることに言及し、オスマン帝国へ使者として赴きたいので、オスマン帝国との仲介と、オスマン帝国の言葉や礼法を教えて欲しいと伝えた。
殿のアチェ王国へ使者を送る目的は、更にその先にあるオスマン帝国へ使者を送るため、オスマン帝国との仲介と家臣に言葉と礼法を学ばせることだったのだ。
ポルトガルの問題は、アチェ王国にとっても深刻な問題であり、その毒牙が明国や日ノ本に及んでいると知り、スルタンも驚いていた。
まだ、ポルトガルの船は日ノ本に至っていないが、明国では武力行使をして鎮圧されていると、琉球で聞いていたので、あながち間違いでは無いだろう。
スルタンは、アチェ王国がオスマン帝国と国交があり、オスマン帝国のパーディーシャー(皇帝)もポルトガルの南蛮進出を苦々しく思っていることを述べる。
オスマン帝国へは定期的に使者を送っているらしく、仲介することも吝かではないそうだが、オスマン帝国の使者もアチェ王国に度々訪れるので、紹介してくれると言ってくれた。
そのため、オスマン帝国の言葉や礼法を学ぶ必要があるだろうと、滞在の拠点や師を用意してくれるそうだ。
斯くして、アチェ王国のスルタンへの謁見は終わり、用意された屋敷へと戻る。
俺が命じられた役目を果たすことが出来たが、オスマン帝国の言葉と礼法を学ぶと言う新たな役目がある。
俺と数名の文官はクタラジャに残ることとなったのだった。
後に、外交を担う役人から聞いた話だが、スルタンは日ノ本の贈り物を大層気に入っているそうで、謁見の際にはおくびにも出さなかったが、日ノ本の甲冑を飾らせたり、螺鈿細工の品々を愛用しているらしい。
俺がクタラジャに滞在している間も、度々呼び出され、日ノ本の話をさせられることになるのは、まだ先の話であった。
注文していた交易品が揃い、殿への報告書を書き終えたので、それらを川俣十郎殿たちに託し、琉球の使者とともに日ノ本へと帰っていった。
元々は甲賀に住んでいた俺が、南蛮で外交の使者をするなど、人の生とは数奇なものだ。
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