馬路玄蕃正頼(南蛮紀行)

◆馬路玄蕃正頼


 俺は琉球王府の世話になり、マレー語を学んでいたが、武家出身の文官たちが部下として付けられた。

 琉球王府の役人から、マレー語が大分上手くなったので、アチェまで取引に行かないかと誘われる。

 琉球も単独で南蛮に行くのは、危険が多いから、倭寇狩りを実施している当家の海軍と一緒に行きたいのだろう。

 殿に許可を求めたところ、すんなりと許可を得ることが出来た。

 殿からは、他国へ行くのだから、今後は玄蕃と名乗る様に申し付けられ、これからは馬路玄蕃と名乗ることになった。


 昨年、西にある島の拠点から、新たに一隻の志摩海軍の明船が到着した。

 琉球へ倭寇を引き渡した後、海軍の者たちに話を聞くと、拠点の近くの蛮族たちが集まり始め、様々な品々を欲しているらしい。

 特に生活に使う物が欲しいらしく、琉球に駐在する東天竺屋の者たちは、琉球で物資を調達し、拠点へ商人を派遣する様だ。

 拠点に戻る船に、川俣十郎殿たちへの書状を持たせた、帰還させる。



 その後、川俣十郎殿たちの船が到着したので、琉球王府と調整し、出発の時期を決め、我々は船に積み荷を乗せ、出発した。

 留守の船の内、一隻は志摩へ向かわせる様に、琉球に残る者に指示をしておく。


 琉球を出発した船団は、琉球の船の案内に従い、まずはマニラへと向かう。

 マニラは六千人規模の交易地らしく、ブルネイのスルタンの娘を妻にしており、同盟関係にあるそうだ。主な交易は金、蜜蝋、蜂蜜、蘇木等であり、陶磁器、織物、金物を欲しているらしい。

 マニラに到着すると、明国の密交易商人も頻繁に訪れているらしく、とても栄えている。

 マニラでは、帰りに交易品を買うつもりなので、どんな品物があるか、相場などを確認し、物資を補給した。


 我々はマニラの次に、ブルネイへと向かった。

 ブルネイには、湊に多くの水上の家屋があり、陸上に住むのは王族だけだそうだ。

 ブルネイも交易地として栄えており、天竺や南蛮の物で溢れていた。

 交易地の印象としては、マニラに比べると、明の商人が少なく、回教の商人が多い様に見受けられる。

 そして、殿が仰っていたポルトガル人やポルトガルの船を観ることとなった。

 ポルトガル人は、南蛮の人々とは随分異なった容姿をしており、肌も異様に白い。

 南蛮の船は大きく、不思議な形をしていた。

 川俣十郎殿たちは、近い内にポルトガルの船を襲うこととなるので、ポルトガル人やポルトガルの船を注意深く観察していた。

 我々は、ブルネイでも相場を確認し、物資を補給するだけにし、目的地のアチェへと出発する。


 目的地であるアチェの都クタラジャへ到着した我々は、滞在する宿を確保し、クタラジャの都を歩き回る。

 アチェは回教の国であり、サラディンと言うスルタンが治めているそうだ。

 回教の国だけあって、回教の商人が多かった。

 ポルトガルがマラッカを占領した際に、回教の商人たちを虐殺したことから、回教の商人たちはアチェで交易する様になったらしい。

 アチェの交易品は、胡椒、肉荳蔲、丁香と言った香辛料や生薬らしく、日ノ本に持ち帰れば、高値で売れるだろう。

 相場を確認しつつ、信頼出来そうな商家を探す。

 宿屋や飯屋などで、信頼出来そうな商家を聞いているので、それらの商家を回る。

 その内の何軒かの信頼出来そうな商家に、我々が持ち込んだ螺鈿細工や漆器、刀剣など様々な日ノ本の交易品を持ち込み、品を見てもらうと、アチェでは珍しい物らしく高値を付けてもらうことが出来た。

 殿から頼まれた品々があるか尋ねたところ、すぐに手に入る物もあれば、取り寄せてみないといけない物も多い様だ。

 殿から頼まれた品では、オスマン帝国と言う国の金貨と銀貨は手に入れることが出来た。

 天竺栴檀とやらは、その植物の特徴や効能を伝えると、アチェでも栽培しているらしく、苗木を手に入れられるそうなので、数を揃えてくれる様に頼む。

 栴檀は日ノ本でも九州などで生えているらしく、殿も島津から取り寄せておられ、志摩に植えている様だが、天竺栴檀の方が効能が高いらしい。

 栴檀の葉を煎じた物を虫除けとして、琉球の西の大きな島の拠点でも使っている。

天竺栴檀は日ノ本では育つか分からないので、まずは拠点で栽培させるそうだ。病を持つ虫除けに使うらしい。

 ポルトガル人たちが持つ武器の鳥銃の様な物も欲しいと言うことで、商家に頼むと、難しいが手に入れてくれるそうだ。玉薬も合わせて調達を頼む。

 殿が頼んだ品々の中には、天竺より西のオスマン帝国などで手に入れなければならない物が多い様で、回教の商人を通じて調達してもらうことになり、前金を渡して、取り寄せてもらうことになった。

 アチェで手に入る物は、購入したが、作物などの苗が多い。

 東天竺屋の商人たちは、琉球で手に入らず、日ノ本で高値で売れそうな物を見繕い購入していた。

 アチェでの交易を終え、交易品を積んだ我々は、ブルネイ、マニラを経由し、琉球へ戻ることとなった。


 琉球へ戻るまでの途中の交易地で、日ノ本で売れそうな物を買い集め、アチェで手に入らなかった物やアチェより安かった物を買い集める。

 その中には、砂糖黍や様々な椰子の苗を手に入れ、大型の山羊を番で複数買い付けた。

 苗を多く買ったので、枯れない様に注意したり、山羊の世話をするのが至極面倒である。

 途中で、何度も海賊に襲われたが、海軍の巧みな操船で逃げ延びることが出来て、何とか琉球へ帰ることが出来た。


 拠点へ送る物資は、拠点行きの船へ載せ、出発させる。

 殿へ向けた物資は、志摩へ向けて出発させるつもりだが、出港までに報告の書状を書かなければならないと思うと、憂鬱である。

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