薩摩の武士たちと台湾進出準備

 山田式部少輔有親たちが志摩に到着したとの報せを受けた、わしは志摩へと向かった。

 志摩の政庁である鳥羽城にて、山田式部少輔を引見すると、年齢は壮年で、がっしりとした雄偉な体格をしており、眼光は鋭く、顔付きからは意思の強さを感じさせられた。

 観るからに豪の者と言った感じの男であるが、本当に仕官を希望しているのだろうか?


 「山田式部少輔にございます」


 山田式部少輔は簡単に名乗り、挨拶をするが言葉数も少ない。

 本当は当家への仕官を望んでいないのではなかろうか?


 「山田式部少輔が、当家に仕えてくれることは、嬉しく思うが、本当は不満に思っているのではないか?」


 わしは、正直に聞いてみることにした。


 「その様なことござりませぬ。

 某は最早、薩摩にも居れぬ身にも関わらず、召し抱えてくださることに感謝いたしております」


 話を聞く限りでは、仕官に不満は無さそうである。

 何故、島津日新斎に所領を献上して降伏したのか聞いてみると、言葉数が足らないながらも、応えてくれた。

 島津家のことを考えると、伊作家と薩州家で争っているのは無益であり、薩摩の将来を考えると、伊作家が薩摩を治めた方が繁栄すると思ったらしい。

 ただ、実久から日置城を貰っておきながら、戦わずして島津日新斎に降伏したことと、今までの自分の人となりから、二心あると疑われても仕方なかったので、弁明もしなかった様である。

 切腹か当家に仕えるか迫られたところ、妻子や家臣たちのことを考えて、当家に仕えることを希望したそうだ。

 もう、薩摩にも居場所は無いし、今更、実久にも仕えられないので、当家でやり直したいとのことであった。


 今回やって来た薩摩の武士たちは百名程であり、その家族も含めると、かなりの人数になる。

 山田式部少輔に当家での待遇を説明し、半年の教育訓練を終えた後は、台湾に向かってもらい、台湾で奉行として植民や統治をしてもらいたいと言うと了承してくれた。

 台湾への植民は薩摩で口減らしされた人々を入植させることを説明したからか、嬉しそうな様子を見せる。

 薩摩を離れても、薩摩の人々のことを気にかけているのだろう。

 薩摩で口減らしされた人々は奴隷として購入するが、台湾で植民に成功したら、普通の民と変わらない生活をしてもらうつもりである。

 今回同行した山田式部少輔の家臣を含め、薩摩の武士たち全員を直臣にし、常備軍に入ってもらうことも了承してくれた。

 薩摩の武士たちには、台湾派遣軍として活動してもらうつもりだ。

 当初は、薩摩の武士たちだけで台湾に行ってもらうが、台湾で家族を受け入れられる様になったら、家族たちを台湾へ送るつもりである。

 山田式部少輔には、台湾派遣軍の指揮官として台湾の奉行を兼ねてもらう。

 山田式部少輔は、仕官して早々に大役を与えられたことに感激していた。

 薩摩の武士たちを平井宮内卿に預け、半年間の教育訓練を受けてもらうのだった。



 琉球に駐在する者からの書状により、台湾東部の蘇澳鎮の場所に拠点を築くことが、出来た様である。

 現地の住民たちとも接触したそうで、彼等は友好的に接してきている様だ。

 生活用品などを中心に物資を欲しがっているそうで、東天竺屋の商人が対応してくれているらしい。

 何か物々交換出来るものがあれば良いが、現地の協力者は必要なので、多少は甘くする必要があるかもしれない。


 その後、馬路玄蕃もアチェ王国へ向けて出発したとの報告を書状にて受けとる。

 台湾の東側を通り、マニラ、ブルネイを経由してアチェへ向かうそうだ。

 持ってきてくれたのは、新たに手に入れたジャンク船である。

 このジャンク船は造船所で修理を受けつつ、新造ジャンク船の参考にされる。

 雑賀の湊衆は、既に大型船の造船施設などが有ったため、建造を開始しているらしい。

 当家も負けていられないな。大工道具はこちらの方が優れているはずなので、船大工たちには頑張ってもらいたい。


 台湾への進出が予想以上に順調なのは驚かされたが、予定よりも植民を早めても良いかもしれないな。

 現地人で日本語を覚え始めている者もいる様なので、通訳として雇えれば、拠点以外の土地へも進出出来るだろう。


 神宮には、事前に宣教師派遣の件は相談してあり、派遣には同意してくれている。

 神宮には、台湾進出の件は極秘にしてもらっているが、口外するつもりなど無い様だ。

 そりゃ、台湾への神道の布教は神宮の利権であり、他勢力にバレれば、他勢力も布教を求めてくるだろうから、話す訳ないだろう。

 神宮が宗教利権を丸々独占出来るんだからな。

 天照皇大神だけでなく、開拓三神として、大国魂命、大己貴命、少彦名命の三柱の神々を奉ることも同意して貰っている。

 寄進だけでなく、神宮へ様々な利権を与えているので、神宮は当家に対して協力的である。


 台湾へ進出すべく、まずは島津日新斎へ口減らしの奴隷購入の打診を書状で送る。

 並行して、神宮宣教師や大工や農家などの技術者たちや物資を含めて、派遣する準備をしなければならない。

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