九鬼宮内大輔定隆(台湾拠点造り)

◆九鬼宮内大輔定隆


 俺は今、倭寇狩りの命を受けており、船団の船の指揮を任されている。

 倭寇狩りの長は、川俣十郎殿が任されており、川俣十郎殿と神代勝利殿は、海兵を率いて倭寇の船に乗り込んで戦う役目を負っていた。

 川俣十郎殿も神代勝利殿もまだ若いが、兵たちを見事に率いるとともに、慕われている。

 川俣十郎殿など、倭寇狩りで有名になり、伊勢では「伊勢一の兵」などの呼ばれているらしい。

 伊勢は小勢力が林立しており、大きな戦も少ないから、異国の地での活躍などに憧れるのだろう。


 そんな俺も、志摩の地頭の倅だった頃に比べれば、生活は大きく変わっている。

 志摩も小さな地頭たちが林立していたが、神宮の支持を得た殿が、尾張の織田弾正忠や佐治水軍を率いて攻めてきた。

 志摩の地頭の取り纏め役である橘氏を奇襲で降伏させ、次に俺たちの波切城を陸兵や佐治水軍に囲まれた時は驚いたぜ。

 橘氏と九鬼が降伏したと知り、他の地頭たちも降伏することとなったが、海から離されて、美濃の山の中で訓練させられた時は地獄だった。

 今まで、海で生きてきた連中が、いきなり山に送られたら、不安でどうしようもなくなる。

 俺たち九鬼は、殿は尋常じゃない御方だと思い、大人しく従ってたが、橘や他に不満を持つ奴等は、教官の大島殿に随分と絞られて、心を折られていた。

 九鬼の者は、大人しく従ったので、評価も高く、訓練は早く終わり、志摩海軍に配属され、こうやって倭寇狩りに参加させてもらっている。

 志摩の沿岸で水軍稼業をやってた頃じゃ考えられないことだ。


 殿は船で航海するにあたって、船に雄猫を乗せて飼うことや、水瓶に木炭や竹炭を入れる様に命じておられる。

 船の中の鼠を退治してくれるから乗せるらしいが、雌でも良いんじゃないかと思ったら、猫が住み着いたらいけない島などがあるらしく、増える可能性が無いように、雄だけと定めているらしい。

 水瓶に木炭や竹炭を入れるのは、水が長持ちするからだそうだ。

 確かに水が長持ちしている様に感じる。

 後は、停泊する旅に、野菜を食べる様にってところか。

 殿は変わった掟を御決めになるが、家中の人間は慣れてるのか気にしていない様だ。

 まぁ、俺も大分慣れてきたがな。


 前回の倭寇狩りでは、四隻の倭寇の明船を奪ったが、半分は雑賀の湊衆に持っていかれちまった。

 まぁ、琉球まで行ける大型船を志摩海軍も佐治水軍も持ってないから仕方ない。

 雑賀の湊衆も、船への損傷や大型船を派遣し続ける利が少ないからか、二隻で満足した様だ。

 当家は答志島に建てている造船所で、明船を作るつもりらしいが、雑賀の湊衆も同じことを考えているのだろう。

 薩摩から志摩へ戻る船には、日向や土佐の木材を積んでいる様だから、これから明船が増えるはずだ。


 再び倭寇狩りに行くにあたり、琉球の西にある大きな島に拠点を築けと命じられたときは驚いた。

 琉球の人間でさえ、あの大きな島には行かないらしい。

 危険で未開の蛮族が住んでいるし、島の西側には倭寇の拠点が点在しているらしいからだ。

 川俣十郎殿の指示で、島の東側にある湊に適した場所に停泊する。

 その場所には、蛮族も住んでない様で、この場所を最初の拠点にする様だ。

 周辺を探索するが、殿からはこの島の蚊は病気を持っているかもしれないと言うことで、蚊には気を付ける様に言われている。

 将校たちには蚊帳が与えられているくらいだ。

 周辺に沼や水地があったら、汚い沼は埋め立て、綺麗な水地には川の小魚を入れる様に言われている。

 これが蚊を減らす対策になるらしい。

 取り敢えず、拠点の周辺で水場を見つけたので、飲み水には困らなそうだ。

 水は煮出してから飲ませる様にする。

 日向などから買い込んだ木材を積載しているので、それを使って建物を建て始める。

 水軍だと大工仕事もあったから、海軍の者たちにとっては手慣れたものだ。

 建物を建てていると、北の方から人が数名近付いてくる。

 彼等が琉球人たちが恐れる蛮族であろうか。

 我々は蛮族を警戒するが、蛮族たちには敵意はなさそうだが、警戒をしつつも此方に話し掛けてくる。

 何を言ってるか分からないので、川俣十郎殿が明語を話せる琉球人を見やるが、蛮族の言葉は分からない様である。

 取り敢えず、身振り手振りでやり取りを試みるが、分かったのは、我々が持っている物に興味があるくらいだ。

 川俣十郎殿は、煮炊きした我々の食事を与えると、喜んでいる。

 次の日以降も、蛮族たちは現れたのだが、魚や獣の肉を持って現れ、身振り手振りから、我々の穀物と交換して欲しい様だ。

 それから、蛮族たちとのやり取りが始まることとなるのだった。


 拠点もそこそこ形になってきたので、暫定的な名前として「東湊」と名付けられる。

 後のことは、留守の海軍の者たちに任せることにした。

 この島で食料を得るべく、粟や稗のを撒いて育てさせるのだ。

 留守の者たちには、拠点から遠く離れないことや、蚊や蛮族に気を付ける様に命じ、我々は倭寇狩りへ向かうこととなった。


 倭寇の船を一隻奪って拠点に戻ると、拠点の周りに蛮族が数名彷徨いている。

 留守の者たちに聞くと、我々が倭寇狩りに行ってからも、頻繁に現れているらしく、食料の交換などしているらしい。

 頻繁に現れる者の中には、徐々に我々の言葉を覚え始めている者もいる様だ。

 新たに手に入れた船を、待機していた船員たちに引き渡し、訓練がてら琉球まで向かわせる。倭寇たちの引き渡しがあるからだ。

 蛮族たちが、我々の持ち物で欲しいものがあるらしく、鍋など生活に必要な物が欲しいらしい。

 彼等を味方につけるためにも、琉球へ物資の調達をしてもらう。

 川俣十郎殿は、殿へ宛てた書状を送る様だ。

 拠点の人員を増やすことになるだろう。

 拠点で物資の補給と休息を終えた我々は、再び倭寇狩りへ向かった。


 再び倭寇の船を一隻奪って戻ったところ、拠点には、更に蛮族が増えていた。

 新しい船は琉球と拠点を往復したらしく、東天竺屋の者も来ており、蛮族たちと取引をしている様だ。

 蛮族たちが求める様な生活の品々を持ってきているからか、来訪する蛮族が増えているらしい。

 我々の言葉を学ぼうとする者も増え、拙いながらも話が出来るようになった者もいる様だ。


 賑わう拠点を眺めていると東天竺屋の者が現れ、琉球にいる馬路正頼殿からの書状を持ってきた。

 川俣十郎殿が書状を読むと、アチェへ向かうことになったので、船を出して欲しいとのことである。

 海兵と海軍の将校で話し合い、新しい船二隻は残し、倭寇狩りに参加していた二隻で、アチェへ向かうべく、琉球へ向かうのだった。

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