明船騒動と伊勢一の兵

 伊勢湾では、明船が現れたと大騒ぎの様である。

 弾正忠家、津島、佐治水軍にはジャンク船を伊勢湾に持ち込む話は事前にしていたが、それぞれの勢力から、見学の希望を寄せられている。

 目敏い伊勢商人たちも、明船に接触すべく、近くまでやってきたが、持ち主が志摩海軍と知ると、北畠家に睨まれるのを恐れた多くの商人たちは去っていった。

 それでも、諦めきれない商人は、何とか接触しようと試みた様である。

 そんなこと言っても、明船では無く、海軍の所有する船なので、何がしたいのやら。

 前々から、津島を中心に琉球と交易をしているのは知られていたので、交易に噛みたかった様だが、ジャンク船を観て、その思いが強くなったのかもしれない。

 取り敢えず、伊勢商人たちは無視することにして、接触してきた商人たちのことは、神宮を通じて北畠に情報を流しておこう。


 川俣十郎には、伊勢楠木氏の次期当主でありながら、琉球まで行ってもらったので、川俣忠盛殿へ御礼を兼ねて、琉球の交易品を土産に持たせて、馬路宮内や坂倉正利とともに、一時的に里帰りさせた。

 伊勢の国人たちの間でも、明船が現れたと話題になっている様で、川俣十郎が海兵を率いて鹵獲して来た船だと楠城で話すと、大騒ぎになったらしい。

 近郊の楠木一族を呼んで宴を催したらしく、川俣十郎の活躍や馬路親子の活躍も話題になり、一族での誉れだと讃えられたと、馬路宮内が照れ臭そうに教えてくれた。

 琉球の土産や馬路宮内、坂倉正利を同行させたからか、嫡男を倭寇狩りに送ったことへ文句を言われることは無かったので、ホッとした。

 今後とも、川俣十郎や馬路親子たちに活躍の与えていただきたいと書状をいただいたくらいだ。

 その後、明船は川俣十郎が倭寇から鹵獲した船だと、伊勢国中で話題になったそうで、「伊勢国一の兵」など様々な称賛が入り乱れている様である。

 川俣十郎への縁談の話も来ている様だが、本人は倭寇狩りを続けるからと断ったらしい。

 史実では、川俣十郎が神戸家の娘と結婚することで、川俣氏は北畠家に従属し、川俣十郎は北畠家に仕えることなった。

 しかし、この世界では、川俣十郎は当家に仕えているし、神戸と結婚していないので、川俣氏は北畠に従属していない。

 今回の縁談でも、神戸は縁談の話を出していないらしく、当家と対立する北畠が出さなかったのだろう。

 神戸との婚姻関係に無いことで、川俣氏は一応、関氏側に属したままらしい。

 北畠と対立する関氏や長野工藤氏からも接触があったのだが、北畠を相手にする余裕が無いので、勘弁願いたいところである。


 神宮にも志摩の利益を寄進しており、琉球の交易品を奉納しているから、神宮が後ろ楯になってくれていることで、下手なちょっかいを出してくることは無いだろうが、志摩海軍や佐治水軍には、警戒を厳にしてもらわないといけないかもしれない。


 伊勢湾にジャンク船を持ち帰ったことで、思っていた以上の騒ぎになってしまった様だ。

 伊勢の勢力図にも多少の影響を与えてしまいそうだが、なるべくなら当家を巻き込まないで欲しい。

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