享禄3年(1530年)の中間方針

 当家の中間の方針を決めるべく、黒田下野守、平井宮内卿、多羅尾光俊、鵜飼孫六、馬路宮内と言ったお馴染みの家臣たちを集め、話し合うことにした。


 まずは、先日、跡継ぎである嫡男の多幸丸が産まれたことで、重臣一同も心配の種が一つ減った様である。

 黒田下野守が実家に報告に行ったところ、祝いの言葉を貰い、傅役についても探してみると言うことである。

 傅役が必要になるのも、早くて三歳ぐらいらしいので、まだ時間の余裕はある様だ。

 多幸丸も順調に育っているので、一安心である。


 当家も着実に領土を増やしているが、急激な領土拡張もあり、暫くは、落ち着いて地固めをしなければならなそうである。

 公家官僚は、わしが関白の息子であることや、元々困窮していたことから、従順である様だが、それに比べると武家官僚にはまだ教育を施さなければならないらしい。

 武家官僚だと松永弾正が突出しており、向上心も高いらしい。

 積極的に公家官僚と交流を持ったり、教養を身に付けるべく、師事をしているそうだ。

 九條稙通卿には、以前から家臣の教養の指導をお願いしているのだが、その集まりにもしっかり参加しているらしい。

 九條卿の指導の場合、公家官僚が恐縮してしまい、武家官僚の方が積極的に学んでいる様だ。

 九條卿から、九條門流の公家の子弟も公家官僚として雇ってもらえないかと提案されているので、引き受けるつもりである。

 公武ともに文官を増やすことで、統治を確実かつ円滑なものにしたい。



 平井宮内卿からは、軍事の増強を提案されている。

 そもそも、わしが兼山の地を与えられたのは、兼山が最前線だからであった。

 兼山から上流は、信濃の松尾小笠原に従う国人領主たちの領域なのである。

 兼山より上流になると、山間部になるため、攻めるのも難しかった。

 そもそも、応仁の乱の際に松尾小笠原が美濃に攻め入ってから、東美濃のかなりの部分が松尾小笠原の領域なのである。

 美濃恵那郡の大井城が松尾小笠原の美濃における最大拠点であり、そこを基点に北側の国人領主たちの殆どは、松尾小笠原に従っていた。

 遠山七頭で最も豊かな苗木遠山も例外で無く、大井城と苗木を押さえられていることで、苗木から木曽川下流の国人たちは、松尾小笠原に従わねばならなかったのだ。

 兼山から程近い御嵩城周辺まで、松尾小笠原の従属化にある。

 兼山を任されていると言うことは、木曽川流域を任されていると言っても過言では無く、何れは上流の国人を押さえるためにも、苗木の地を押さえねばならないのだ。

 そのためには、大井城も押さえねばならないのだが、松尾小笠原は本家の信濃守護小笠原家と対立しており、東美濃回復も不可能とは言えない状況である。

 そのため、東美濃回復のためにも軍備増強は不可欠であった。

 1534年には、松尾小笠原が本家に敗れてしまうので、それまでには大井城と苗木を攻略したい。

 積極的に軍備を増強するしかないだろう。


 志摩海軍についても、倭寇狩りでジャンク船を増やしたいと要望される。

 現状としては、所有するジャンク船で、志摩海軍を訓練している様だ。

 東南アジアへの商船団を組織するためにも、ジャンク船はもっと欲しい。


 また、大林菅助を西国に派遣して、現地の城や戦を学ばせたいと要望された。

 戦史研究をする上で、研究旅行は大切である。

 当分、戦をする予定も無いので、西国での人材探しや諜報網を構築させるためにも、忍衆を同行させることで、研究旅行を許可した。



 馬路宮内からは、手に入れた坂倉の町で刀鍛冶を営む弟の坂倉正利が、当家に正式に協力してくれることになったと報告を受ける。

 当家お抱えの鍛冶師となってくれる様で、坂倉の鍛冶に大きな影響力のある彼を通じて、坂倉の鍛冶を支配下に治めることが出来た。

 支配下に置いた坂倉の鍛冶師たちに、現代で使っていた大工工具や土工具などを作らせるつもりだ。


 また、島津家を通じて、蜜柑の苗木を手に入れたので、志摩で蜜柑を植えている。

 紀州蜜柑の様に種の有る蜜柑であることは分かっているのだが、もし種無しの蜜柑の苗木が手に入るなら欲しいと、馬路宮内を通じて伝えた。


 黒田下野守と鵜飼孫六には、引き続き畿内や関東で人材探しをする様に命じ、中間の話し合いを終えたのだった。

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