馬路宮内⑤薩摩にて日新斎と

◇馬路宮内


 鳥羽が落ち着いたことで、琉球との交易を再開することとなり、俺は殿に呼ばれ、島津家と琉球への外交のやり取りについて指示を受け、津島と鳥羽で荷を積み、薩摩へと向けて出航した。


 前回の交易でなかなかの利益が出たのか、今回はより規模が大きくなっていた。

 鳥羽攻めで交易に行けなかった分、今回の交易に対して大橋家の商人や湊衆の期待は大きいようだ。

 弾正忠家は今回の船旅では外交を担当出来るような地位の方はいらっしゃらないようで、大橋家と一緒に商いを担当する役人が乗るとのことである。


 今回は鳥羽でも積荷を乗せている。志摩の水軍衆がかき集めたものだ。

 近隣で売却するよりも、西国に持って行った方が利になりそうな物を積んでいる。


 変わったことと言えば、志摩で荷積みを行っていたところ、近隣に住まう松本七郎次郎元秀なる若者が、船乗りになりたいから乗せてくれと湊衆に頼んでいたことだろうか。

 湊衆は乗せられないと言っていたが、なかなか面白そうな若者なので、話を聞いてみると、船乗りになりたくて大湊に移住したばかりらしく、鳥羽に大きな船が泊まってると聞いてやってきたそうだ。

 なかなか良い顔つきをしており、殿が気に入りそうな気がしたので、俺の独断で西村家の者として乗せることにした。

 航海の間は、湊衆に引っ付いて、船乗りとして学んでいるようだ。真摯な態度に、徐々に湊衆に受け入れられているようである。


 俺たちの船は土佐、日向、大隅を経て、薩摩に到着した。

 勿論、大橋家の商人が停泊した湊で商売をしながらの船旅であった。

 坊津に到着した俺は、坊津にいた役人に話をし、伊作城の島津日新斎様にお会いしたい旨を伝えた。

 日新斎様の都合が良ければ、数日の内にお目にかかれるだろう。


 夕に坊津の宿にて過ごしていると、役人が来て、明日にはお目にかかれるとの連絡をいただいたので、伊作城を訪れる準備をし、翌日に伊作城を訪問した。


 城の家臣に通された城内の一室にて待っていると、現れたのは島津日新斎様御一人であった。

 こちらの用件も、当主である貴久様に直接伝えることでは無いので、一通りの挨拶をすると、日新斎様も用件がある様で、その内容についてお話になられた。


 「馬路殿、実はお願いしたいことがあってな。

 そろそろ戦が始まりそうなのだ。その為、食料が更に欲しい。

 今回も結構な量を持ってきてくれた様だが、より多くの食料が欲しいのだ」


 「今回、持ち込んだ食料より多くにございますか?

 可能だとは思いますが、主に話をしてみなければ確実とは申せませぬ」


 「より多くの食料が欲しいのは確かだが、次回に大量にと言う訳ではない。

 定期的にかつ安定的に食料を持ち込んで貰い、無理ない程度に量を増やして欲しいのだ。

 今回は、前回の交易より少し時間が経った様だが、一月に一回ぐらいの頻度で来てもらえないだろうか?」


 「前回とは時間が少し空いてしまいましたが、一月に一回ぐらいとのことですが、志摩と薩摩ならば可能かと思われますが、琉球との交易も含めると厳しいかと。

 薩摩に交易の拠点があればと主は申しておりました。

 拠点があれば、そこを中継地とし、志摩と薩摩、薩摩と志摩を行き来することで、野分の季節は出すことは難しいかもしれませぬが、一月に一回は出来るやもしれませぬ」


 「それは誠か?」


 日新斎様は喜色を浮かべている。戦が迫っている中、兵糧の不安があったのだろう。


 「当家としては、西村殿と同盟を結びたいと考えておる。織田弾正忠家とは同盟を結んでおるのであろう?

 当家としては、安定的に食料が欲しい。見返りとしては、西村殿に交易や拠点を含め、様々な便宜を図る故、どうであろうか?」


 日新斎様が当家と同盟を結びたいと言う話をしたので、俺も驚いた。薩摩の国主である島津家が当家と同盟を結びたいだなんて驚かない方が無理だ。


 「主の判断を仰がねば分かりかねますので、その話は持ち帰りたく思いまする」


 「そうであろう。今回も案内人を付ける故、戻ってきた際に西村殿への書状をお渡しいたそう」


 今回も島津家が案内人を出してくれる様だ。島津家も交易に便乗したいのだろう。

 しかし、案内人がいてくれた方が、琉球側も便宜を図ってくれるので、ありがたい話だ。

 殿宛の書状を戻ってきた後にいただけるという事で、大事な書状を琉球まで持っていかなくて済んだことに胸を撫で下ろした。


 その後、当家の用件として、肥後の国にある蜜柑の苗木が欲しいと行ったところ、手に入れることを承諾してくれ、伊作城を後にした。


 しかし、馬路宮内は、蜜柑の苗木を要望した際に、日新斎が目を光らせたことに気付くことは無かったのであった。

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