馬路宮内⑥琉球と再会

 薩摩を出航し、琉球へ辿り着いた我々は、島津家の案内人を通じて、琉球の役人に倭寇退治の件について、話し合いの取り次ぎを頼んだ。

 今回は、琉球王では無く、親方の一人が対応してくれる様で、数日はかかる様だ。


 数日空くので、息子の馬路正頼に会いに行くことにした。

 正頼は現在主命によって、琉球においてマレーの言葉とかいう地域の言葉を学んでいる。

 殿から正頼への書状や伝言などもあるので、それも伝えなければならない。


 「父上、よく来てくださいました。」


 正頼は若干疲れた顔をして出迎えてくれた。


 「お役目の方はどうだ?」


 「大変難儀してますよ。マレー語ってのは日ノ本の言葉と全然違うんですから。琉球の人の言葉も我々とは随分違いますし、噛み合わないこともよくあるんですよ」


 その後も、正頼は苦労話を語ってくれた。慣れない環境の中で、随分励んでいる様だ。


 「殿からの書状と当座の金だ。引き続きお役目に励んでくれとののことと、欲しいものがあるらしく、細部は書状に書いてあるらしい」


 早速、正頼が書状を読むと、困った表情を浮かべている。


 「どうかしたのか?」


 「南蛮の先にある国の銭と物産を手に入れろって書いてある。

 南蛮の商人(東南アジアの商人)なら手に入るとか」


 正頼はため息を吐いている。殿も相変わらず無茶を仰る。

 俺は正頼を励まし、その場を後にした。



 親方から呼び出しがあるまで宿で過ごしていると、松本七郎次郎がいたので、彼と話をする。


 「船旅はどうだ?慣れたか?」


 「えぇ、大分慣れました。楽しくて仕方ありませんよ」


 松本七郎次郎は満面の笑みで応える。船乗りとして船旅に出れたことが嬉しいのだろう。

 今まで訪れた場所での思い出や琉球の感想を話してくれる。

 俺は松本七郎次郎が話終えたのを見計らって尋ねる。


 「このまま、湊衆で船乗りになるのか?」


 俺が問うと、松本七郎次郎は押し黙った。


 「迷っております。湊衆の方々は誘ってくださっておりますが、当初は断られました。

 今回の船旅に船乗りとして乗れたのも、馬路様のお陰です」


 松本七郎次郎は絞り出すように語った。


 「俺としては、七郎次郎には当家に仕えてもらいたいと思っている。

 殿は何れ、湊衆とは違う直属の船団を欲するはずだ。

 御主には、その船団で働いてもらいたい」


 俺が松本七郎次郎への思いを語る。


 「馬路様が、そう仰ってくれるなら嬉しいです。

 俺、西村家にお仕えしたいです」


 俺は松本七郎次郎の言葉が嬉しかった。


 「分かった。俺が必ず仕官を叶えてみせよう」


 俺は殿を絶対に説得して、松本七郎次郎の仕官を叶えてみせようと誓うのだった。



 今回の担当の親方の都合が合ったことで、琉球城を訪問して、親方の一人が対応してくれた。

 前回、琉球王が提案してくれた倭寇退治を実行する旨を伝えると親方は喜び、条件などを詰めていく。

 捕らえた船は当家が貰えることは了承され、捕らえた倭寇は琉球へ引き渡す。

 琉球は明へ倭寇を引き渡すことで、明の信頼を得ようとしているようだ。

 倭寇狩りのための、兵の滞在の許可や船の停泊を認めてもらえた。

 殿が求める外交の成果は得られたと言えるだろ。


 俺は意気揚々として殿の元へ戻るべく帰路を往くのであった。

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