和解成らず

 豊州家の島津忠朝、北郷忠相、新納忠勝、禰寝清年、肝付兼演、本田薫親、樺山善久、島津運久(日新斎の義父)、島津秀久、阿多忠雄たちは、鹿児島清水城へ赴き、島津勝久に伊作家と和解するよう求めることとなった。


 「諸将等よ、本日は何用じゃ?」


 島津勝久は押し掛けてきた同族や国人たちに、気怠そうに問いかけた。


 「本日は、修理大夫様にお願いしたきことが在り参りました」


 島津忠朝が代表して、島津勝久に応えた。


 「願いのぅ。何ぞ、申してみよ。

 どうせ、伊東攻めの援軍か何かであろう」


 島津勝久は諸々の国人領主が集っているので、伊東攻めと勘違いしている様だ。


 「いえ、違いまする。

 我々は、修理大夫様に伊作家との和解をお願いしたくございます」


 島津忠朝は島津勝久に対し、伊作家と和解するよう願った。


 「伊作家と和解せよだと!?ふざけるな!

 奴等は、わしを騙し、わしから守護の地位を奪おうとしたのだぞ!」


 島津勝久は島津忠朝たちからの和解の進言に激昂した。


 「しかし、修理大夫様は貴久殿を養子に迎え、家督を譲られたのは確かにございますし、修理大夫様も同意して譲られたはず」


「五月蝿い!五月蝿い!わしは伊作家に騙されたのじゃ!!」


 「しかしながら、今は伊作家と争っている場合ではございませぬ。

 この機に乗じて、伊東は南進しておりまする。

 このままでは、日向を失うことになるやもしれませぬぞ」


 「伊作家を倒し、わしが守護であると認めぬ者たちを打ち倒せば、伊東なぞ簡単に捻り潰してやるわ!」


 諸将は島津勝久の発言に唖然とする。島津勝久が当主になっても伊東の南進を止められたことが無いのに、大言壮語を吐いたことに驚いていた。


 「しかしながら、貴久殿の元に関白近衛稙家様の御実子から、関白様の紹介状を携え、使者が参ったそうですぞ。

 御実子は琉球渡海認可状を求めてのことで、貴久殿は琉球渡海認可状を発行し、案内人をつけて琉球王に会ったと聞き及んでおります」


 「何だと!?」


 関白の実子の使者が島津貴久の元へ現れ、認可状を発行し、琉球王に会ったという事実を聞き、島津勝久は驚愕し、顔を青ざめさせた。

 近衛家は元々は島津家の主筋であり、琉球渡海認可状を島津貴久に求めたという事実は、島津勝久にとっても衝撃的であった。

 島津貴久に一時的に家督を譲ったとは言え、守護や官位は任命されていない。

 まだ、守護と官位は自分にあるはずなのに、中央の認識では島津貴久が島津家当主として認知されているということかと思い至った。

 そして、案内人をつけて琉球王に会ったと言うことは琉球も島津貴久を島津家当主として認めたと言うことではなかろうか。


 「えぇい、中央や琉球は島津貴久を島津家当主と認めていると言うことか!!

 斯くなる上は、伊作家を叩き潰し、誰が真の島津家当主であるかを中央や琉球に知らしめねばならん!!

 わしは決して、伊作家と和解なぞせんぞ!!」


 島津勝久は改めて伊作家を倒すことを強く決意し、諸将からの和解の進言を拒否したのであった。


 諸将の進言を聞き入れず、和解を拒否したことで、一同は憤激するとともに、島津勝久に付くべきか、島津貴久に付くべきか悩むこととなる。


 島津忠朝は、北郷忠相と新納忠勝が相容れないことを分かっているので、この両者はそれぞれ違う陣営に付くことになるだろうと思っている。

 伊東の南進も含め、どちらに付くべきか決断しなければならないのであった。

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