蟹江でのお話し合い

 栄子との新婚生活を楽しんでいるなか、志摩攻めをしなければならないので、関係する人たちと話し合いをしなければならないので、蟹江へ向かうこととなった。

 弾正忠や雑賀とは、ある程度話がついているのだが、伊勢湾が絡むということで、佐治水軍も交えなくてはならなくなったのだ。


 黒田下野守、平井宮内卿を連れて、蟹江に到着する。

 弾正忠としばらく話をしていると、雑賀の鈴木孫一と湊衆の長、そして佐治対馬守殿が現れた。


 今回の志摩攻めの当事者である、わしから皆の前に志摩を攻めることを話す。

 伊勢神宮の承諾を得ており、志摩を獲得した際には、志摩の代官として、事実上の国主となることを説明した。

 弾正忠たちも、雑賀衆は驚くことなく聞いていた。

 佐治殿も事前に話を聞いていたのだろうが、やや渋い顔をしている。


 ここで、志摩を獲得した際の、利益分配の話をしなければならない。

 弾正忠家は、当家と婚姻同盟を結んでいるので、差し出す物は少なくて済むが、利権としては、志摩沖の関銭を免除となる。

 鳥羽湊などの津料は港湾の維持費に当てるので、免除出来ないが、琉球との交易の活発化を考えると、旨味のある利権と言える。

 雑賀衆は、傭兵と水軍を雇う費用を支払うとともに、同じく志摩沖の関銭を免除とする。

 関銭免除については、当家と敵対していない限りとした。

 関銭免除にした分、傭兵や水軍を雇う金額を安くしてもらっている。また、志摩統治などで治安維持のために継続した契約も結んでいる。

 雑賀衆にとって、結構な額が動くとともに、安定した収益が得られるので、旨味があると言えよう。


 そして、佐治水軍への利益分配である。

 佐治水軍には、今回の作戦に参加してもらうに当たって、当分の間の志摩沖の警備と関銭徴収の代行を利権として差し出す。

 関銭徴収は佐治水軍が志摩海域で徴収した額から、当家の分を纏めて支払うこととなる。佐治水軍が多少誤魔化すのは分かっているし、追及するつもりもない。その分が佐治水軍の利益となる。

 海域の支配権を一時的とは言え渡すのは、志摩の者たちにとって屈辱的であり、関銭徴収を失うことは生活に支障を来すだろう。

 しかし、わしの考えでは、志摩の水軍は全て取り纏めて再教育する必要がある。

 その間の志摩の海域の支配権が空白となることは避けなければならないので、佐治水軍に維持を代行してもうのは、双方にとって都合が良いはずだ。

 佐治殿には、弾正忠を通じて、事前にもっと利益の少ない案を提示していたが、案の定吹っ掛けてきた。

 そして、今回の案を提示したところ、佐治殿も納得したのか、同意してくれた。


 一応、お互いの利益分配の話が終わったことで、今回の作戦について、平井宮内卿から説明を行った。

 お互いの役割を理解してくれたようだ。

 また、この戦では乱妨取りを禁止することを徹底する。ただでさえ少ない志摩の人口を減らすわけにはいかないからな。

 そして、平井宮内卿が、雑賀衆が蟹江に傭兵と水軍を率いて来れる時期を確認し、そこから作戦開始の日を各々に周知させた。


 いよいよ、初めての領土拡張の戦争が始まるのであった。

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