耐火煉瓦作り

 妻木殿に連房式登窯を作って貰うべく、昨年から度々、妻木城を訪れていた。

 妻木殿に以前、連房式登窯の話をし、訪問する度に、分かる限りの修正をして、今年の始めた頃には、何とか出来上がってはいたのだ。


 「一応、出来上がったのですが、どうすれば良いですか?」


 「多分、何回か使ったら壊れるので、次のを作る準備をしましょう」


 「えぇ!?」


 今、作ったのは壊れると言うと、妻木殿と職人たちが驚きの声をあげる。

 連房式登窯って、高温になるから、耐火煉瓦が必要なのだ。耐火煉瓦を作るため、高温で焼ける窯が必要なのと、試作を兼ねて作ってもらった。

 今までの窖窯だと熱の通りが悪いのと、連房式登窯に比べ、高温にならないので、煉瓦の説明をして、普通の煉瓦を作らせていた。普通の煉瓦を作ることにも、最初のうちは戸惑っていからな。


 妻木殿の領内から、久々利一帯にかけては、良質な陶土が取れるとともに、耐火煉瓦及び耐火モルタル用の土が取れる。

 それだけでも、美濃という土地は素晴らしい利点がある。

 本当は、陶器作りも自分でやりたかったが、まだ久々利頼興は当主になってないし、養父の道三も美濃を取れていないから、久々利氏を滅ぼして奪う訳には行かない。

 そもそも、久々利では陶器を作っていないから、職人がいないしな。

 ある目的の為には、早く磁器を完成させなければならないのだが、その為には、職人やノウハウを持つ妻木殿に作ってもらうしか無いのだ。

 琉球から船が帰って来て、弾正忠家との祝言をするまでは、比較的、手が空いているので、妻木殿に付き合うとするか。


 取り敢えず、妻木殿の領内で陶土が取れる場所を見せて貰う。

 地層を観ると、暗灰または褐色の木節粘土を見付けることが出来た。職人たちに木節粘土の陶土を掘り出させる。

 そして、普通の煉瓦と同じく、採取した粘土は、まず破砕し水簸(すいひ)にかける。これは大量の水と粘土を混ぜて、まずは余計な不純物を篩いのける作業をいう。

 余計なゴミなどを取り除いたら、布の上に粘土を移し、そのまま何日かかけて水気を切る。

 その後、以前に作った煉瓦用の木枠に入れて、煉瓦の原型を作り、日干しをして水分を抜いてもらう。水分が抜けたものを、連房式登窯(仮)で焼くのである。

 初めて焼いた耐火煉瓦は、火の通りが良くなかったり、合格と言えるものは、余り出来なかった。合格と言える耐火煉瓦は叩くと、金属を叩いたような澄んだ高い音がする。

 しかし、失敗した耐火煉瓦も無駄にはしない。耐火煉瓦の原料は耐火煉瓦だからだ。

 失敗した耐火煉瓦を粉砕し、耐火粘土に混ぜて、新たな耐火煉瓦を焼かせる。

 それを連房式登窯(仮)が壊れるまで作らせた。妻木の職人たちは、流石にプロなので、連房式登窯(仮)を使ううちに、問題点や使い方を把握していた。普通の窖窯よりは大量に焼けるので、合格品質の煉瓦の数もそれなりにあり、量も増えていった。

 連房式登窯(仮)が壊れる頃には、新たに連房式登窯を作るための耐火煉瓦を焼き上げることが出来た。


 職人たちが、感じた問題点などを考慮して、新たに窯を組み上げて行くのだが、実は耐火煉瓦だけでは不十分なのである。

 耐火煉瓦の繋ぎに、耐火モルタルが必要なのだ。耐火モルタルには、粘土やシルトを多く含む土壌であるロームを混ぜると良いので、ロームの特徴を伝え土壌を用意しておいてもらった。

 流石、職人だけあって、ロームの特徴を伝えると分かってくれた。

 そのロームを目の細かい篩いにかけて余計なゴミを取り除くき、耐火粘土と水、を混ぜ合わせ、骨材として川砂を適宜混ぜてゆく。

 そして、出来上がった耐火モルタルを繋ぎに、連房式登窯を組み上げることが出来た。しかし、耐火モルタルは自然乾燥ではなく、焼き上げなければならないので、火入れをする。

 職人たちは火入れをし、温度を高めて行くが、崩れやしないか心配だったが、崩れることはなかった。

火入れをしている最中、職人たちは連房式登窯(仮)より温度が高いだの、高い温度に対応した土を使わないといけないなど、口にしていたが、専門的なことは分からないので、職人たちに任せるとしよう。

 何とか完成したようで、妻木殿も職人たちも涙を流して感動していた。これからは、大量に良質な陶器を作って貰いたい。

 妻木殿と職人には、新たに磁器や釉薬の話を教えておいたので、磁器作りにも取り掛かってもらう。磁器で花を作ってもらいたいので、一応花を書いた絵を渡しておく。

 妻木殿は、「連房式登窯作りを手伝ってもらっただけでなく、磁器作りの秘伝まで教えてもらえるなんて」と大層感謝された。

 本当は自分で作りたいんだけど、急いでるから、貴方に作らせてるなんて言えない。


 また、耐火煉瓦は製鉄に使うので、今後とも作って貰う。何れは、日本規格のサイズの煉瓦を安定的に、作れるようになって欲しいものだ。

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