農業と家畜の諸々改革?

 そろそろ、田植えの準備を考える頃なので、農民たちを集めて、塩水選別法と正条植について説明することにした。


 塩水選別法は、中身の詰まった良い種籾を選ぶための技術であり、明治15年に考案された。

 やり方としては、塩水に入れて比重の軽い種籾を排除する。濃い目の塩水に種籾を入れて、徐々に水を加え行く。2/3が沈んだ辺りが大体の目安だ。

 種籾をより厳選する場合は、より濃度が高い塩水で行う必要があるだろう。簡単なやり方だが効果は大きく、収穫量が大体1割ぐらい増えるそうだ。


 正条植は、大岡利右衛門という近江の人が明治時代に考えた方法であり、苗を等間隔に植える、21世紀の人間が思い浮かべるような田植えの状態である。明治以前までの田植えは、田んぼの形に合わせて、回り植や車田植が一般的であった。

 しかし、苗を等間隔に植えることで、水田内の日当たり、風通しが良くなり収穫量を増大させる。

 また、等間隔に整理された田植えは除草、害虫の駆除が容易になる。稲作で特に過酷な除草作業の負担を軽減することが出来るだろう。

 正条植を効率的にやるため、算術を学ばせている公家たちと農民に指示して、田植定規を作らせておいた。田植えの間隔は一尺ずつにした木枠を三、四、五、六角柱状にしたものを作らせた。どの形が良いかは、実際に使わせて良いものを選ぶことにする。

 現在の歪で細切れな田でも使用可能であるが、いずれは耕地整理が必要だろうな。湿田から乾田に変えないといけないし、そのためには灌漑が必要になるしな。

 また、田を取り巻く畦地の木については、稲への日光を遮るので伐採する必要がある。その代わりに、畦地で大豆栽培を推奨しよう。


 今すぐにでも簡単に出来る農業改革を説明したら、農民たちは不安そうな顔をしていた。そりゃ新しいことやるのは不安だろう。

 すると、黒田下野守が表に出て来て、塩水選別法は全部の家でやってみて、正条植については一部の田で実験的にやろうと取り纏めると、農民たちは納得して帰っていった。解せぬ。


 正条植については、今年に開墾する新しい田を乾田にしてやりましょうと下野守が言うので、一反は三百歩だぞと言っておいた。

 まぁ、政の細かいことは家宰の下野守に投げているから仕方ないか。



 ある日、村の牛が死んだということなので、家臣たちと観に行く。話を聞くと、病で死んだわけでは無さそうなので、食おうと言ったら、家臣から農民まで驚愕しておった。

 明や朝鮮でも食べていることを力説すると、渋々ながら協力してくれることとなった。

 持ち主の農民には、わしから銭を渡したが、複雑な表情を浮かべておった。すまんな。


 死んだばかりなので、血抜きをする。血は壺に貯めておく。後で御倉所に渡すのだ。

 日頃から狩りをしている者に解体をしてもらう。内臓を見ると、農民が怖がっておったが、野生の獣のは平気なのは解せぬ。

 内臓の下処理はよく分からないので、内臓は食べるのをやめて、肉とタンを食べることにする。

 結構年をいった牛なので、肉が硬そうだ。鉄板は無いかと尋ねると、御倉所にあるらしく、持ってきて貰った。

 その間に農民たちに肉を薄く切らせて行く。その肉を味噌に絡めて置いておき、届いた鉄板を温める。

 鉄板が温まったら、牛脂を鉄板に塗り、味噌に絡めた肉を焼く。何とも良い匂いがする。

 いざ焼けたものを食べてみると、肉が硬くあまり旨くない。味噌があるから何とか食えるなと思った。

 次にタンを食べると、なかなか旨かった。

 わしの微妙な表情に家臣や農民は不安な表情を浮かべるので、食べて良いぞと言うと、恐る恐る食い始めた。

 農民たちは食べ始めると、口々に旨い旨いと言い始めておる。

 家臣たちも同様だ。日頃食べてる猪や鹿の方が旨いと思うのだが、下野守に聞くと、普段良い肉を食べれるのは、わし等ぐらいらしく、家臣や農民にとってはご馳走なのだろうということだった。

 皆が満足したようなので、後片付けと革の処理を頼んで、屋敷に戻った。

 後で、下野守に聞いた話だと、村での焼き肉パーティー以来、村人たちが牛を観ては、また食べたいと呟いているそうだ。

 そんな目で見られているとは、飼われてる牛たちも可哀想だな。



 21世紀と違い、牛の種付けや出産が管理されている訳では無いので、牛が生まれたと聞き、その家を訪ねた。

 乳をくれと言い、家人に幾ばくかの銭を渡すと、持ってきた壺に乳を入れていく。

 乳をどうするのかと言われたので、飲むのだと言うと、驚愕された。

 昔は朝廷の典薬寮に乳牛院というのがあって、牛乳を薬として御所に納めていたと話すと驚いておる。

 その家人の家の鍋で、牛乳を温めて飲ませてやると、意外と旨いのか、家人たちは驚いておった。

 翌日も買おうと思って、母牛の家を訪ねると、仔牛と家人で飲んでしまったと言われた。解せぬ。

 それ以来、牛乳が普及したのか、牛が出産するとその家の家人が飲む習慣がついてしまったので、牛の牧場を作ることを検討しなければならないかもしれない。


 わしは、津島から卵を良く産む鶏を取り寄せた。先日、鶏小屋を作ったので、卵を食べようと思うのだ。

 下野守や宮内卿がまた妙なことをしていると言うような表情をしているので、数日後、鶏が産んだ卵を目玉焼きにして食わせようとすると、残酷だと言われた。

 鶏小屋には雌しかいないことを説明し、明の書物に雄がいない状態で産まれた卵は孵らないと説明すると、渋々食べた。

 しかし、目玉焼きの旨さに気付いたようで、二人とも興奮している。

 数日後、二人の屋敷にも鶏小屋が建っておった。解せぬ。


 少しずつ、領民の意識を変えて、食生活を改善しておるが、本格的に変えるとなると、時間がかかるだろうな。

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