馬路宮内④琉球訪問

 俺たちは、島津家家臣の園田実明殿の案内の下、琉球へ向かい薩摩を出発した。

 薩摩まで付いてきた神代殿は琉球に行く機会など、そうそう無いということで、一緒に付いてきてくれている。


 奄美なるところに停泊したが、伊勢や美濃とは全く違う風土で驚きを隠せない。暖かくて、とても過ごしやすそうである。しかし、言葉が分かりづらいのが難点である。


 琉球の那覇なる湊に到着すると、首里という琉球の都へと案内された。琉球へ来ると、言葉は殆ど何を言っているのか分からない。琉球の役人と島津の家臣で言葉が分かる人が案内してくれるのが救いだ。衣装もまた日本とは少し違う。

 首里の城は、日本の城とは随分異なっており、正殿など華やかな色彩で彩られている。


 琉球国王の尚清王様に拝謁を賜る。まずは、園田殿が挨拶し、今回の訪問について説明してくれた。

続いて、俺が殿から預かった書状を渡す。近衛家の前当主の近衛尚通様と殿からの書状である。

 琉球の通訳の役人が尚通様の書状について読み上げると、琉球王を始めとして家臣の方たちは驚いておられる。

 尚通様は准三宮で在らせられるかららしい。そして、殿の書状について読み上げると、琉球王たちは困惑していた。


 「准三宮様の御孫様の西村殿の家臣よ。西村殿の書状については理解をした。

 西村殿との継続的な取引については、琉球として喜ばしいことである。

 しかし、シャムやアチェと取引したいので、読み書き出来る者を雇うことと、西村殿への船の売却は些か難しい」


 役人が琉球王の言葉を通訳してくれる。


 「マラッカがポルトガルなる国に滅ぼされてより、琉球もマラッカまで行くことは少なくなってしまった。近頃では、ポルトガルなる国の者たちが琉球にまで現れる始末である。

 西村殿が求める人材をすぐに見つけるのは困難だが、琉球にはシャムやマラッカの言葉が分かる者がおり、アチェの言葉も少しなら分かる者もおる。誰か人を置いて、学ばせてはどうか?」


 琉球王は南蛮の言葉を分かる者が殿に仕えるのは難しいと言うが、琉球に滞在して言葉を教えることは出来ると言う。


 「船については、琉球も明から購入した船を少し持っているだけなので、譲ることは出来ない。

 しかしながら、琉球の近くには明が取締りを命じている倭冦がおり、彼等は明の船に乗っているので、彼等を討伐してくれるなら、船や品物は好きにすると良い。

 ポルトガルの船を討伐してくれても構わない。」


 琉球王は、船が欲しかったら、倭冦やポルトガル人から奪えと仰った。

 船の件は持ち帰るとして、南蛮の言葉を覚える者として、独断で倅の正頼を残すこととした。殿は早く通訳を欲しがっていたので、戻って人を再度派遣するのでは遅いかもしれないからな。琉球王へ感謝の言葉を述べる。

 続いて、平手殿も織田弾正忠様の書状を渡し、琉球王から弾正忠家とも取引する旨の言葉を頂戴していた。

 琉球王との拝謁を終えた後、園田殿と平手殿から西村家は南蛮へ行くつもりかと問い詰められたので、俺が話せることは話したが、余り納得していなかった。


 琉球で歓待を受け、琉球の町並みを見学しつつ、大橋家の家人の取引が終わるのを待つ。

 束刀は良い値で売れたようだ。胡椒、蘇木、象牙、香木、砂糖、薬種など良い物も手に入り、良い取引が出来たようだ。

 雑賀の湊衆たちも良い取引が出来たのか笑顔である。


 数日間、琉球で歓待された後、俺は倅の正頼を残し、日本へ戻ることとなった。殿のためにも、南蛮の言葉を身に付けてもらいたい。

 帰りの船の中で、神代殿が美濃へ行ってみたいと言ってくれたので、快く承諾した。

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