馬路宮内②土佐訪問

 俺は今、倅の正頼とともに、雑賀の湊衆の船で薩摩へと向かっている。

 当家の使者は、俺たち親子だが、織田弾正忠家からは家老の平手五郎左衛門殿がおられる。

 尾張の富裕な領主だそうで、その所作は洗練されており、高い教養の持ち主だと分かる。

 平手殿は、今度殿の元に嫁がれる弾正忠様の妹君の送り役を命ぜられているらしく、とても忙しい御方のようだ。

 領地の運営も家人に任せることが多くなるようで、主家に仕えながらの領地運営の難しさを語られた。

 当家はまだ中井戸村しかないが、津島との交易で、地域一帯では富裕であり、禄は銭で払われている。

 殿の領地が増えれば、土地を貰えるのだろうか?と考えたこともあったが、家臣筆頭の黒田下野守殿を始め、先に仕えている方々は土地を欲しがっていないようだ。

 確かに、土地を自分で運営する手間を考えると、銭で支払ってもらったほうが、お役目に専念出来るしな。


 船旅の間は、平手殿や大橋家の家人、湊衆と話をし、親睦を深めあった。

 大橋家の家人は、今回の船旅の間、各地で積み荷の商いを担当してくれるようだ。流石に、商いは平手殿も俺も難しいからな。

 雑賀の湊衆も、今回の船旅に便乗して船を出してるようで、船の数が予定されていた数より多い。

 島津の琉球渡海認可状を手に入れることが出来ていないようなので、琉球へ行けるかもしれないのが楽しみのようだ。積み荷は、米や束刀、扇、屏風などを積んでいるらしい。


 今回の船旅は、結構な規模の船団のためか、小さい水軍はちょっかいをかけて来ないし、熊野水軍もやたら警戒しておった。しかし、特に問題も無く、土佐の浦戸へと着くことが出来た。


 土佐の浦戸では、大橋家の家人が商いをしており、土佐は耕作地が少ないからか、米や雑穀を欲しがる商人が多く、そこそこ良い値で売れたようだ。

 殿が宝石珊瑚を欲しがっていたので、地元の商人に帰りに買うので、集めてくれるよう頼んでいた。


 四万十川の河口にある下田湊に到着し、湊の者で、土佐一条家に仕える者に頼み、当主である一条房家様に御挨拶したい旨を伝えてもらう。

 土佐幡多荘は土佐一条家の本拠地であり、中村御所という館を構えているようだ。

 暫くすると、土佐一条家の使いで、敷地藤安殿という方が、中村御所へ案内してくれた。

 中村の町並みは、以前に訪れた都の町並みに似ている。一条家の当主が都に似せて作ったのだろう。


 中村御所に着くと、当主一条房家様の元へ案内される。一条房家様の他にも、嫡男の房冬様、房家様の弟で家老の土居宗珊殿、敷地殿が臨席されている。

 房家様に挨拶をし、殿より預かった関白様と一条房通様、我が殿の書状をお渡しする。

 書状を読まれた房家様は機嫌良く、都のことや、我が殿のことを訪ねられた。

 これからも交易をしたい旨をお伝えすると、快く承諾してくださった。

 平手殿も織田弾正忠様の書状をお渡し、房家様は快く受け取るとともに、平手殿の作法を誉めてらっしゃった。

 その後、土佐一条家で歓待を受けた後、下田湊へ戻り、薩摩へ向かうこととなった。

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