近衛稙家③

関白・近衛稙家


 宮中を辞し、屋敷へと戻ったわしは、黒田重隆たちを呼んだ。


 「多幸丸の白粉を主上に献上してまいった。

 主上は多幸丸の献身に大層お喜びになり、白粉に「牡丹白粉」との名を賜った。

 以後、「牡丹白粉」は近衛家と多幸丸で扱うこととなったので、多幸丸には定期的に京へ送るよう伝えよ」


 「かしこまりました!まさか、主上直々に名を賜るとは、主も喜びましょう」


 黒田重隆も驚いたようだが、粛々と受け入れておる。


 「また、主上は多幸丸に宸筆を下賜されるおつもりじゃ。そなたらはいつまで都におるつもりじゃ?」


 「宸筆をいただいてから美濃に戻りたいと思いますが、その前に主に紀伊国の雑賀に行く用をたまわっておりますれば、一度雑賀へ行っても、よろしゅうございますか?」


 「構わぬ。雑賀に行って用を済ませてまいれ。

 雑賀に用など、多幸丸は戦でもするつもりか?無茶なことは仕出かさないで欲しいものよ。」


 「まだ城も出来ていないので、戦など出来ようもございません」


 「まぁ、良い。多幸丸が、頼んできたことも時間がかかる故、美濃に戻るまで、しばらくかかることになろうぞ」




一条邸


 わしは今、摂家の一条邸に来ておる。

 多幸丸が土佐一条家の紹介状が欲しいと言ってきたから、当主の一条房通殿に話を通しに来たのだ。


 「関白殿下、よう参られました。此度はどの様なご用件で?」


 「実は、息子の多幸丸が美濃で西村某の養子になり、領主になったらしくてな。

 土佐一条家への紹介状を書いてくれと頼まれたのじゃ」


 「多幸丸殿が美濃で領主になったとは。確かに、公家より向いてるかもしれませんな。

 多幸丸殿が土佐の父への紹介状なんて、何をするんでしょう?」


 房通殿と多幸丸は年が近いから、何度か会ったことがあるので、多幸丸のことを覚えていたようだ。

 房通殿は土佐一条家から婿養子に入った身ゆえ、土佐一条家の当主一条房家殿は実の父親である。


 「土佐一条家の紹介状が欲しいとしか伝えて来なかったから、よう分からんが、何かしらの便宜を図ってもらいたいのだろう」


 「まぁ、そういうことでしたら、多幸丸殿のことは知らぬ仲ではないので、私からも紹介状を書きましょう」


 「済まぬのぅ。多幸丸には余り迷惑をかけるなと言っておく」


 「いえいえ。ところで・・・」


 その後、房通殿に色々尋ねられ、紹介状の見返りは貸しにしておくと言われてしまった。

 多幸丸のせいで、余計な借りを作ってしまったわ。


 諸大名や寺社への紹介状は良いとして、琉球への紹介状なんぞ、どうしたものかのぅ。

 島津が琉球渡航朱印状を発給しているので、島津に投げてしまおうかのぅ。

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