甲賀の投資
多羅尾光吉
今日は、甲賀五十三家の会合を急遽開いてもらった。
近衛多幸丸様が当家に逗留なさっている。そして、若様が優秀な乱波を召し抱えたいという話をするためだ。少しでも、若様のお力になりたいのだ。
甲賀五十三家が筆頭である望月家に集う。わしから、この度の多幸丸様がいらしてからの経緯を話した。
その話を聞いて、五十三家の各当主は様々な思いを抱いたようだ。
「関白様の御子息様が春日明神のお告げで甲賀までいらして、乱波を求めておられるとはのぅ」
五十三家筆頭の望月家当主の望月出雲守が感慨深そうに呟く。
「多羅尾家からは嫡男の光俊を出すそうだが、甲賀としてはどうするべきか。多幸丸様は美濃の西村の元で武士になるとは、まだ城持ちにすらなっておらん。他に若様に一族の者を仕えさせたい者などおるか?」
「関白様の御子息とは言え、まだ武士にもなっておらず、禄も払えぬのでは話にもならんわ」
五十三家の大半は否定的な意見であった。
「皆は甲賀から出すことに否定的なようだのぅ。わしは出しても構わんと思う。しかし、望月家として出したいのは山々であるが、今は出せるものがおらん」
望月出雲守が悔しそうに出せないことを告げる。
「なら、うちから孫六を出そう」
鵜飼家の当主が驚きの発言をした。
「孫六を!?本気か?」
五十三家の当主達が鵜飼家の当主の発言に驚く。
鵜飼家の孫六は一流の乱波であり、大名家にも雇われることがあるような凄腕の乱波だ。一族の稼ぎ頭を出すという鵜飼家の当主の言葉は五十三家にとって衝撃的なものだった。
「甲賀として出さんとまずいのだろう?ましてや、関白様の御子息ならば、半端もんは出せん。それに、多羅尾家の嫡男はまだ若造だから、指導する者も必要であろう」
「本当に良いのか?」
思わず、声が震えてしまった。
「あぁ、構わん。それに、孫六が働いても貧しいことには変わりない。若様がご出世すれば、武士として取り立ててもらえるのだろう?それに期待するしかあるまい」
「かたじけない」
「うちの孫六も乱波働きの扱いが悪いから、腐り始めておる。丁度良いわ」
こうして、甲賀五十三家としては、鵜飼家の孫六を出すこととなったのだった。
△
多羅尾光吉殿に呼ばれると、光吉殿の隣には一人の男性がいた。
何だかボンヤリしたような雰囲気を感じさせられる様で、印象の残らなそうな男だ。あまりにも異質である。
「若様、お呼び立てて申し訳ございません。実は、若様のお話を甲賀五十三家の会合で話し合いまして、倅の光俊の他にも、甲賀としてお仕えする者を出させていただきました。
こちらの鵜飼孫六が甲賀として若様にお仕えさせていただきます」
「鵜飼孫六にございます。甲賀を代表してお仕えさせていただきます」
鵜飼孫六が私に仕えることになったと聞いてビックリした。鵜飼孫六って甲賀でも有名な忍者だったはず。そんな人が私に仕えてくれるなんて。
「鵜飼孫六殿と言えば、高名な乱波のはず。本当によろしいのですか?」
「若様も孫六をご存知でしたか。それほど名を売っておったとは。
孫六を若様にお仕えさせるのは、甲賀の総意にございます。
それだけ、若様に甲賀の者たちがご期待しているとお思いください」
甲賀の人たちに期待されてるなんて・・・。
期待を裏切らないよう頑張ろう。
「分かりました。孫六よ、よろしく頼むぞ」
こうして、鵜飼孫六が家臣となることとなった。
「そう言えば、鵜飼孫六と言えば名が通ってる故、表に出るときは、その名ではまずいのでは?」
気付いたことを述べると、孫六が問うてきた。
「表に出るときですと?若様は乱波を表に出すおつもりか?」
「表に出してはまずいのか?家臣の数も少ない故、陰に潜まれても困るのだが」
「今まで、表に出て働くことがございませんでしたので、都合に合わせて名を変えておりました」
表の名が無いのか。家臣の少ない今は、表に出て働いてもらうつもりだから、名を与えてやろう。
「表の名が無いのなら、私が付けてやろう。私の側に仕えるときは、長良孫四郎吉幸と名乗るがよかろう」
鵜飼と言えば、長良川が有名だからという安直な名付けであった。
「ありがたき幸せ。若様の側に仕えさせていただくときは、長良孫四郎吉幸と名乗らせていただきます」
鵜飼孫六はニヤリと笑って感謝の言葉を述べた。
こうして、新たに増えた二人を加えた私たち一行は、翌日甲賀を発ち、美濃へと向かうのであった。
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