鷹大好きおじさん
瀬田左京が美濃へ向かって、一月ほど経った頃、瀬田左京は坂本へ戻ってきた。
「左京、よくぞ戻った。西村殿からの返答はどうであった?」
「若様、西村勘九郎様から、美濃にお迎えいただけるとのことです」
「左京、良くやった!左京の疲れが取れ次第、美濃へ向かうとしよう。なお、美濃に向かう途中、甲賀に寄りたい」
「甲賀でございますか?」
黒田重隆が不思議そうに尋ねる。
「うむ、夢で春日明神がお出ましになられてな。甲賀に多羅尾なる家があるそうで、その家は近衛から分かれたので、そこを立ち寄るようにとのことであった」
「また、春日明神から御神託があったのですか!?」
黒田重隆と瀬田左京は驚き、左京は言葉も出ないようであった。
「なので、甲賀に寄りたいのだが、重隆には先触れで甲賀に行ってもらいたいのだが良いか?」
「承知しました。元々、黒田家は近江の出でございますので、甲賀での手筈は整えておきます。」
「うむ、頼んだぞ」
こうして、黒田重隆には先行して甲賀へ向かってもらった。
還俗します!って言っても、引き留められるし、実家の近衛家に連絡されてしまうので、書き置きを残して、左京とこっそり抜け出した。
甲賀へ向かって歩いていると、どこぞの軍勢が休憩をしていた。旗の家紋が三盛木瓜なので、朝倉の軍勢であろう。
後に両細川の乱と呼ばれる戦に参加していた朝倉宗滴の軍勢に違いない。
通り過ぎようと思ったところ、侍に声を掛けられる。
「どこかの身分高き家柄の御子息とお見受けいたします。よろしければ、当家の主がお話をしたいとのことです」
流石に、狩衣着ていたら、貴族の子弟だとバレてしまうか。
バレたなら仕方ないので、開き直ろう。
「貴殿の主は朝倉太郎左衛門尉殿か?」
「如何にも」
「朝倉太郎左衛門尉殿とは以前お会いしたことがあるので、ご挨拶させていただこう」
朝倉宗滴が京の都にいた頃に、近衛邸を訪ねてきたことがあったので、面識があったので挨拶しに行くことにした。面倒くさいけど。
「朝倉太郎左衛門尉殿、御久しゅうございます。近衛多幸丸にございます。」
「おぉ、何処の貴人の御子息かとおもえば、近衛家の多幸丸殿でござったか。どうしてその様な格好で、供を一人しか付けずに、この様なところを歩いておられるのか?」
「実は、比叡山に出家させられたのですが、僧になりたくなかったので、還俗して武士になろうと思っております」
その応えに、朝倉宗滴も想定外だったのか、大層驚いた様子だった。
「何と!?行く宛は決まっておられるのか?」
「えぇ、相模の北條へ行こうと思っております。御当主の北條氏綱殿に伯母が嫁いでおります故」
本当は美濃の西村正利のところだけど、朝倉は土岐頼芸と対立してるので、適当に誤魔化しておく。
「相模の北條へ参られるか。行く宛がなければ、当家にてと思ったのですが」
一応、心配してくれていたらしい。
「ありがとうございます。北條で受け入れていただけなかったときは、太郎左衛門尉殿を頼らせていただきます」
社交辞令を交わした後は、武家の心構えやらを語ってくれた。
朝倉宗滴は人工孵化させてしまうくらい鷹狩が大好きだったはずなので、鷹の話をしたら、止まらなくなってしまった。しかし、話を聞いてると、人工孵化の話は出てこなかったので、まだ人工孵化は出来てないのかもしれない。
「人の手で孵化させた鷹だったら、より人に懐くかもしれませんなぁ」
「何ですと!?」
此方が引くくらいに、予想以上の食い付きであった。
そこからは、前世の知識を少しだけ活かして、人工孵化について話してみたら、越前に戻ったら、早速やってみるとのこと。
そして、人工孵化の経過を伝えたいので、文のやり取りをしようということになり、半強制的に文通相手にさせられてしまった。
爺さんの文通友達より、可愛い女の子の文通友達が欲しい・・・。
こうして、朝倉宗滴から解放された私たちは、甲賀へ向かうのだった。
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