焼かれても仕方ないわ
瀬田左京を美濃に送り出した後、黒田重隆と二人で近江の国坂本の比叡山延暦寺横川恵心院へと向かった。
横川恵心院では、世話役の坊主が出迎えてくれた。
「ようこそ、御出くださりました。近衛多幸丸様。私が横川恵心院で若様のお世話をさせていただきます」
「うむ、よろしく頼む」
世話役に横川恵心院を案内してもらい、ここでの生活について説明を受ける。坊主になるための修業が主なようだが、空いた時間は好きにして言いようだ。
「ところで、天台座主に御挨拶したいのだが、いつ頃お伺いすればよろしいか確認してもらえぬか?」
「天台座主にでございますか?天台座主はこちらにはおられません」
「では、天台座主は山上におられるのかな?」
「いえ、天台座主は山上にもおられません。京の都におられます」
「京の都におられると?何か御用事があって御不在ということか」
「いえ、ずっと京の都におられます。何か重要な儀式があるときだけ延暦寺に参られるのです。」
その言葉に思わず驚いた。比叡山延暦寺の貫主である天台座主が比叡山にそもそもいないのだから。
「歴代の天台座主は大体は京の都におられますよ。ですから、若様も気負わずに御修行ください。空いたお時間はお好きになされてよろしいですし」
「天台座主がおられぬのは分かった。では、山上を観に行きたいのだが問題なかろうか?」
「問題ありませぬが、山上に行っても何もありませぬよ。根本中堂と大講堂ぐらいしかございませぬし、そこを管理する者ぐらいしかおりません。明応8年(1499年)に管領細川政元に焼き討ちされた際に、根本中堂・大講堂・常行堂・法華堂・延命院・四王院・経蔵・鐘楼などの山上の主要伽藍は焼け落ちまして、再建されたのは根本中堂と大講堂のみです。残りの主要な伽藍は坂本へ降りてきております。まぁ、若様も御修行に御励みになさってください」
世話役の坊主の言葉に唖然とした。山上には主要な伽藍はなく、坂本に降りてきており、山上の伽藍を再建する気はなさそうである。
こうして、比叡山延暦寺での生活が始まった。
延暦寺の僧たちは大半がやる気がなく、坂本の町で遊び呆けているものが多かった。そのため、私の生活も最低限の修行以外は自由である。瀬田左京が帰ってくるのが待ち遠しい。
近江の国坂本の町中を歩いていると、見事な石積か散見される。確か、築城で有名な穴太衆がいたはずだ。織田信長の安土城や豊臣秀吉の大坂城の石垣を手掛けていたはず。
穴太衆が修築している様子を観ていると、棟梁らしきおっさんが話しかけてきた。
「おぅ、若様。石積に興味があるのかい?」
「えぇ、この石垣は見事なモノです。穴太衆の石積の技は天下一でしょうね」
「天下一とは嬉しいこと言ってくれるねぇ」
誉められたおっさんは照れながらも、私の称賛を喜んでいる。
「この石積を築城に利用したら、素晴らしい城になりそうです」
「ほぅ、若様は御武家様の子かい?」
「いえ、武家では無いですが、何れは伝手を辿って、武士になるつもりです」
「そりゃ、御大層なこった。もし城持ちになるんなら、声掛けてくれや。城の石積してやるよ」
「えぇ、是非ともお願いします」
穴太衆の棟梁は冗談のつもりだろうが、鳥峰城を築城するときは、呼び出して作らせようと心に誓うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます