多幸丸に転生しました

 私の最期の記憶は、真夏の暑い日に倒れ意識を失う直前の記憶だった。

 再び目を覚ました時は、赤ん坊で、日本史の教科書に出てくる平安時代の貴族の屋敷のようなところであった。

 よくある転生モノで、和風な世界観のファンタジーだと喜んでいたのだが、周りの大人たちの会話を聞くと、自分が今いるところは『近衛邸』というところらしく、近衛家の子供として生まれたようだ。

 最近流行りのタイムスリップ転生か?

 近衛家といえば、戦前に総理大臣の近衛文麿を出した摂家筆頭の名門中の名門である。

 イージーモードにタイムスリップ転生キター!


 と思ってた頃が私にもありました。


 近衛家次期当主である近衛稙家の長男に生まれ、多幸丸という名前をいただきました。

 長男に生まれたから、何れは関白だと喜んでいたら、父稙家が若気の至りで、近衛家に仕える女房に手を出して生まれてしまった庶子らしい。


 当初は公家内政チートしてやると思ったものの、時は戦国時代で、応仁の乱の影響で京の都は荒れ果てている。

 公家は困窮に喘いでおり、摂関家の近衛家もまだマシとは言え、かつて栄華を極めた頃の様に贅沢三昧は出来ない状況であった。


 戦国時代の近衛家の庶子で多幸丸って、何処かで聞いたことのある名前な気がする。

 前世はそこそこの歴史好きだったが、岐阜出身のマニアが近衛家の庶子なのに、斎藤道三の養子になった武将がいるって聞いて、インターネットで調べたことがあった。


 その人物の名は『斎籐大納言正義』


 斎藤道三の養子だったが、配下の久々利某に酒宴に誘われて行ったら殺されてしまった男である。

 しかも、養父の斎藤道三の指示で!

 斎藤道三の意に沿わず、勢力を拡大してしまったから殺されてしまったらしい。


 養父の指示で配下に殺されてしまう人生って、どうなのかと思うが、殺されるのを回避して何とか生きるしかない。


 ネットで調べた斎藤正義は、13歳の時、比叡山横川恵心院に出家させられる。その際に付けられた家臣の瀬田左京の姉が斎藤道三の愛妾となっていた縁で、道三を頼ってその養子となったはず。

 確か、初陣飾った後に、美濃金山城の基となる鳥峰城を築城させられて、城主にされたはずだ。


 そして、養父道三との意見の食い違いと正義の勢力が大きくなりすぎたから配下に殺される。


 地理的に、木曽川の流域と東濃の抑えを任されてたんだろうなぁ。

 従順ではない東濃を従わせるために出したら、東濃への影響力が大きくなりすぎて邪魔になったってところかな。

 はっきり言って、自分で任せておいて、強くなったから殺されるなんて、たまったもんじゃない。


 取り敢えず、公家の名門中の名門の近衛家で得られる知識や技能は役に立つはずだから、頑張って勉強しよう。





 庶子だから好きな勉強ばかり出来るだろうと思ったら、現実は全然違いました(涙)


 庶子とは言え、近衛家の子であり、近衛稙家の一番最初の子である。

 近衛家の親戚を見渡しても、世嗣ぎ以外は出家させられるとは言え、門跡やら住持になる訳ですよ。そうなると高い教養が求められる。


 という訳で、有識故実やら蹴鞠やら和歌やらの近衛家の子息として必要な教養を身に付けさせられてます。近衛家の家名を貶めるようなことの無いように厳しく教育されてますよ(涙)


 しかも、祖父である近衛尚通にとっては初孫なので、とても可愛がられている。

 祖父尚通もとてもスゴい人で、戦国時代って名付けられたのは、祖父の日記の中で、中国の戦国時代のようだって書かれていたのを参考に、後世の人が戦国時代と名付けたらしい。

 そんな祖父尚通は、自宅である近衛邸を公家や武家、知識人に開放し、文化交流の場としているらしい。そのため、近衛邸は一種のサロンと化し、祖父尚通はサロンの主となっていた。

 そして、可愛い初孫を他の文化人に見せたいのか、サロンに連れて行かれる訳です。

 名だたる公家、武家や文化人との縁が結べた上に、教養の押し売りを受けて、私の教養レベルはどんどん急上昇しております。


 しかし、この戦国時代は教養だけでは生き残れない。しかも、出家させられるの分かってるから、勝手に還俗しても公家に戻れる訳ないから、武家になるか商人になるか。

 どちらにせよ、武芸は出来ないと生き残れないのよね。この時代、商人も普通に戦に参加しますから。

という訳で、父稙家に武芸を習いたいと申し出たら、馬術、弓、剣術、鷹狩が増えて更にハードスケジュールな生活になりました。


 取り敢えず、身体づくりして戦国時代を生き残る力を身に付けてやる!

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