私のミステリーを探して

片瀬智子

第1話 エッセイ

 三周年。

 それはカクヨムの記念と同時に、私のミステリー執筆の足跡。



 私はたぶん生まれる前から読書が好きなんだと思う。それは、母の趣味が読書だったから。

 母は日本文学が好きで、私とはジャンルが異なるが昔から本をよく読む人だった。

「今は何を読んでるの?」

 小さい頃から、常に何かを読んでいる私。いつも母に問われるセリフだ。

 物心ついた私は決まって、ミステリー小説家の名前を言う。大体、海外の作家さんが多い。例えば……。


「アガサ・クリスティー」

「また読んでるの? 同じのばっかり」

「違うよ。だってクリスティーの本って、いっぱい出てるんだもん。しかも同じ本も何回でも読みたいの」

「犯人、わかってるのに?」

「犯人だけがミステリーの醍醐味じゃないの! 行間も読んでるのよ。心理描写やトリックや伏線やどんでん返しが好きなの(ここでは言わないが、大抵犯人は速攻忘れる。だから何回読んでも毎回新鮮)」

 

 私は海外の古典的小説(ミステリー問わず)を読んでいた時期があった。特にイギリスやフランスの作家さんが好きだ。雰囲気のある可愛らしさを所々に感じる。

 以前、ヨーロッパの作家の書くものは、国において血みどろの歴史が長いから闇が深いと聞いたことがある。確かに重々しい雰囲気を感じる作風は多い。


 例えば、ラブストーリーだったら『嵐が丘』。

 荒涼とした土地による、重厚でひんやりとした質感が底辺に漂う。大人になって再読して、やっと素晴らしさに気付いた。

 アメリカ南部・女性の気性が強い『風と共に去りぬ』と比べる(比べちゃいけない)とやっぱり空気感は全然違う。でも、みんな違ってみんないい……みたいな。


 わあ、サガンやフィッツジェラルド、サマセット・モームやデュ・モーリア……など、出身地関係なくすでに亡くなった大好きな人がいっぱい頭に溢れてきた。偉大な亡霊たちだ。アルレーはご存命で嬉しい。

 ちなみに、現代の作家についてはあんまり詳しくない。ニューヨーク出身の大好きなミステリー作家さんがいるけれど。誰かは内緒です。笑


 そうそう、それで三年前、私はカクヨムというWeb小説サイトでミステリーを執筆し始めた。

 初めてでした。その前に三作ほどショートショートを書いたことはあったけれど、人の死ぬミステリーを書いたのは生まれて初めて。でも、書くならミステリーと決めていた。

 それが、『ペット探偵と謎解きカフェ』の第一話「ペット探偵登場」。


 それまでちゃんと小説を書いたことがなかったので、短編じゃないと完結出来ないなとは思っていた。

 で、連作で書けたらいいなと思い、動かないで謎解きできる形式の安楽椅子探偵を選んで、自分ちの犬の顔を見て何となくペット探偵にした。すごーく安易。


 頭の中でぐるぐると動機やトリック、伏線を絡ませて、自分で創造したキャラクターを動かし、一万文字程度だったが頑張って構想を練り上げてキーボードを叩く。

 そして緊張しながら、カクヨムに投稿した。

 初めての1PV。

 初めての☆レビュー。(当時は応援マークとかなかったので)

 初めての近況ノート。

 初めてづくしの楽しい日々が始まった。


 それから三年間。今まで、PVが伸びないこととか遅筆とか悩みは常にある(笑)けれど、素晴らしいお仲間のWeb作家さんたちにも恵まれて書いてこられた。

 実は今までで『ペット探偵と謎解きカフェ』の第二話「消えた少女と回想の月」が一番心に残っている。


 なぜなら、一話目はまぐれで書けたのかなってちょっと思ってる部分があったから。

 二話目はまぐれでは書けないし、ここで書けなかったらミステリーはきっともう私には書けない。

 だから、二話目を書いて投稿出来た時、本当にこれ以上にないほどの安堵感があった。これからもまた書けるかもしれないっていう安堵と書けた幸福感。


 そして、初めての公式レビューを頂いた。スーパーでお買い物中、立ち止まって感動したのを覚えてる。

 なので私の中では、今後誰に酷評されようが揺るがない思い出の作品になった。


 私は基本天然で、物事も言葉もよく知らない。自分で言うのも何だけど人あたりが良くて頑張り屋なだけで、おつむも素朴。

 だけど、カクヨムの歴史と共にミステリーを書いてこられたことが、私の少しばかりの誇りになっている。


 そして、いつか自分だけの探偵が欲しかった。

 そんな夢を叶えてくれたのも、ここカクヨムという場所。

 ワクワクして、刺激的。確かに存在する、もうひとつの居場所。


 これまでに『ペット探偵』シリーズに区切りがついたり、日常の謎の長編にチャレンジしたり……と私的に内容の濃い三年間だった。

 でも過去はここに置いて、私は再び身軽になる。


 この先も私たちは書いていく民族で、放牧しながら、それぞれの方向に流れていくだろう。

 何度も日は昇り、恵みの雨に打たれ、悲しい思いは土に還り、また巡る。

 

 これからも。

 この一ページに感謝を込めて、明日からもまたみんなと進んでいきたいと心から願っている。

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