魔女

第39話 六角の塔

 サブら弓月のメシュード3匹 ( クロチィーも三度笠に道中合羽という揃いの出で立ちが板に付きすっかり見た目はもうメシュードの一員である ) とカゲフミと新宿エチュードの猫達は地下下水道を抜けようやく地上へと迷い出た。


「 モンジ ここは?」

「 下水道の保全の為の場所だと思います 追っ手が地上からくるかも知れないしこの雨だから人間が下水道の様子を見にくるかも知れません ここを離れましょう」

 サブの問い掛けにモンジが答える。

 外はまさにバケツをひっくり返した様な猛烈な雨に見舞われていた。


 クロチィーら弓月組は三度笠と道中合羽という雨風をしのぐ衣装がこういう時に役に立つが他の猫達は打ち付ける雨に視界を遮られ進むのもままならない状況に四苦八苦の様子である、とは言っても三度笠をかぶっていても水しぶきで白く霞んで1m先すらよく見えない状況だ、舗装された地面はもはや川のように流れ足元さえもおぼつかない。堪らず猫達は目についた上方にある鉄道の架橋下に逃げ込む。


「 堪んねぇなぁこりゃ まぁここ迄来れば大丈夫だろ 少し休むか 」

「 何が大丈夫だ こちとらずぶ濡れじゃねぇかよ お前ら何で濡れてねぇんだよ 」


 ブルブルと身体を揺さぶり水を払いながらバッテンがサブに悪態をつく。


「 その為の旅装束だ 結界が張ってあるから布が水で重くなることもねぇ って あっちでやれよ 水がかかるだろ それでだ モンジ カゲフミ 俺らはアナキー おまえらがメシアスと呼ぶ猫のとこに行かなきゃなんねぇ どこに行けばいい 」

「 弓月はメシアス様をいったいどうするつもりなんだい 」

 サブの言葉にカゲフミが返す。

「 俺らはただこのクロチィーをヤツのとこに連れてくだけだ 」

「 その化け猫使いをかい 」


 エチュードの猫達がクロチィーを見て一歩後退る。どうやら先程の式猫達を使い巨大なワニを退けた光景に怖れを抱いているようだ。


「 ぅにゃぉ 」

「 ヒィッ 」

 クロチィーの声にアカスケが腰を抜かしす。


「 こら クロチィー いたずらしてんじゃねぇぞ さっきのは弓月でもかなり特殊な猫の術だがクロチィー自体はいたって普通の猫だぞ アナキーに会うのはこいつの失われた友達を取り返す為なんだ 俺らはその手伝いをしてる 」

「 おどかしてごめんなさい 額縁の中のアペルピシアって猫を知らない? 」

 クロチィーがサブに続けカゲフミに話しかける。


「 噂は聞いた事あるよ 絶望の猫 アペルピシア 額の中のその猫は絶望の象徴なんだとか その美しい猫を見た者は希望に辿り着くとか…… 単なる狂信的なヤツらの都市伝説だと思っていたけど 私らはメシアスの居場所は知らないさ 姿さえ半年くらい見てないよ その代わりムツメって赤い着物羽織ったメス猫が時折顔を出すみたいだ 多分連絡係なんだろうさ 」

「 またムツメか こりゃムツメとっ捕まえて直接アナキーんとこに案内させるしか無さそうだな カゲフミ おめぇらは西東京の六ヶ村に行け そこにムチャクつうシャム猫の六ヶ村会の若頭がいるから事情を話して匿ってもらえ 事が済んだら必ず弓月に連れて行く オヤジさんとの約束だ 」

「 あんたの指図は受けないよ と言いたいとこだが仕方無いねぇ バツ みんなを連れて西東京に行きな 」

「 頭 行きなって 頭はどうすんです 」

 バッテンが深刻な顔でカゲフミに問いかける。


「 私はコクモンカゲシロの娘として見届けなくちゃいけない コイツらと一緒に行く 」

「 ならおいら達も 」

「 そんな大人数じゃかえって邪魔だよ モンジがいるんだ 心配しなくていいよ だろ モンジ 」

「 はい みんなは先に西東京で待ってて下さい 頭は必ず僕が連れて帰りますから 」

「 バツ みんなの事は頼んだよ 」

「 ちッ しゃあねぇなぁ 頭 約束ですよ 絶対帰って来て下せぇよ 」

「 あゝ 私がおまえ達との約束破った事あるかい 」

「 モンジ てめぇわかってんだろうな 」

「 任せて下さい 」

「 何か話が勝手に進んでんだけど まぁいいか その代わり付いて来んなら指示には従ってもらう 俺の判断次第ではモンジと一緒に即撤退 それが同行の条件だ 」

「 あゝ わかったよ 」

 サブの言葉にそっぽを向いてカゲフミが同意する。いつの間にか雨は小降りになり薄っすらと夕日が差し始めていた。


 バッテンらエチュードの猫達と別れ サブ クロチィー カササギ モンジ カゲフミの5匹の猫は休息出来るような場所を探して人間の通れそうにないビルとビルの隙間に入り込んだ。隙間は薄暗く猫1匹が通り抜けれる程の幅しか無い、出来上がったビルを他所から持ってきて置いた訳でもあるまいに どうやってこんなに近接したビルを建造したのかが謎である、更に不思議な事にビルとビルの間に一つの鉄製の扉があった。


「 ちょい待ち 誰がこんなとこから出入りするんでやんすか これ 人間用のドアっすよねぇ 」

 扉の前を通過する時にカササギが思わず立ち止まる。


「 人間が設計段階かビルを造る時に間違えて付けたんだよ それか隣のビルが後から密接して建築されてしまいその前までは普通に使えてたかだろう 」


 モンジがカササギの疑問に面倒くさそうに答えてやる。

「 じゃあ あの壁のペンキは?」


 カササギに言われて視線を追うと扉の横に赤いペンキでデカデカと文字らしきものが描かれている、そして向かい合わせたビルの壁にも。

 これにはモンジも少し戸惑い顔にならざるを得ない。


「 これ 人間の文字っすよね 何て書いてるんすか 」

「 えっとぉ "証言その1 すべては上手くいっている" で向かい側が "証言その2 私は私を忘れない" だな 」

「 モンジは人間の字 読めるんすか?」

「 少しはな ってカササギ ある程度は読めないと車のナンバープレートや標識なんかわかんなくて旅に苦労するだろ オマエ弓月で何教わったんだ 」

「 いやいや 目的地までの経路の重要な文字はその時その時 記号として覚えてやすよ 」

「 何 言ってんだオマエら 字なんか読めなくったって旅は気合いと勘でどうにかなるもんだろ 」

「 出た 脳筋メシュード それでよく毎回弓月に帰って来れますよねぇ 」

「 あんだとカササギ それよりオマエら何ごちゃごちゃやってんだ ただの使われてねぇドアだろ 」

「 そうなんですけど 何か気味が悪くって 」

「 確かにカササギの言うように気にはなりますねぇ この字を誰が何の為にどうやって描いたのか 」

「 ビルの中からドア開けて内側から描いたんじゃないのかい 」

 一列に並んだサブの後ろからカゲフミが声を掛ける。カゲフミの後ろの最後尾のクロチィーは前方で何の話をしているのかも分からず背伸びしながら前の様子を必死に伺う。


「 やっぱそうですよね 意味のわからない事するのが人間だ 僕らが気にする事じゃないですよね 行きましょう 」


 モンジの言葉にカササギもしゅんとして再び一同は一列に進み始めた。


 クロチィーが仲間外れにされた例の扉を興味津々に眺めながら通過する、扉を通り過ぎる時、扉の内側で " ザリッ " っと何かか蠢く音がしたような気がした。


 ビルの間の一番奥は六角形に切り取られた四畳半程の広さの袋小路になっており赤いレンガに囲まれていた。


「 ちッ 行き止まりか いったいどういう構造りになってんだよここは 」

「 上も飛び越えれる高さじゃないですね 」

 そう言ってモンジがジャンプしてレンガ塀を駆け上がるが3m程の高さで断念する、塀の高さは30mくらいだろうか。


「 まぁしゃぁない 今更引き返すのもなんだし今日はここで休むとするか 」

「 えっ マジっすか こんな訳わかんねぇとこで休むんでやんすか 気味悪いんすけど 」

 サブの言葉にカササギが辺りを見廻しながら体を小さくする。


「 私達の側から見ると訳わかんないもんでも私達の外側から見ればきっとなんかの意味があるんだよ さっきの扉もきっとそういうものさ 」

 カゲフミが冷静にこの場の状況を分析した。


「 今塔の上で何かが動いたよ 」

 囲まれたれたレンガ塀の上部を見上げながらクロチィーが小さくつぶやく。

「 鳥か何かだろ てかクロチィー これ塔の中なのか 」

「 そうですね 頭やクロチィーの言うように外側から見たら何かの目的のある塔なのかも知れませんね 」

 クロチィーの代わりに答えたのはモンジであった。


 塔の中から見上げた六角形に切り取られた空は夕闇から夜の闇へと黒い膜が降りて行く。

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KuroQi on the run oga @ogas

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