第17話 デリンジャー、次の殺人機会を夢想すること

 ハイスタンダード・デリンジャーD一〇〇は悩んでいた。


 デリンジャーはその引金を引かれるために産まれた。だから己の機能が正しく果たされる日を待ち望んでいる。しかしながら、一般に拳銃であるデリンジャー単体ではそれを達成することができない。射撃には弾丸の存在が不可欠だ。

 幸いにしてデリンジャーは、その複銃身式の胎の中に銃弾を抱え込んでいる。二発。

 二発。それが人間を殺すのに十分な弾数であることは、既に証明している。一発でも十分だ。当たりどころさえ良ければ。


 だが二発という数は、やはり「二発しかない」と捉えるべき数だ。

 もちろんデリンジャーはただのデリンジャーではなく、呪われた銃であり、その引金が引かれさえすれば——十一キログラム重を超える引金引張力(トリガープル)さえ満たしてくれれば、魔法の弾丸は殺すべき相手を狙い違わず撃ち抜くことができる。だが、二発というのは心もとない。弾丸が当たるかどうか、ではなく、射手が尻込みしないでくれるかどうか、だ。「二発しかない」と弾数の少なさを危惧しすぎて、いざ撃つべきときになって引き金を引いてくれないと困る。人間の命を左右するだけの想いがなければ、呪われたデリンジャーの引き金は引けない。


(いや、いつかきっと………)

現在の所有者は、人間の命を左右するだけの想いがある。デリンジャーは現在の所有者が好きだ。だから自分の仕事は果たしてやりたい。死をもたらす魔法の弾丸を撃ち込ませてやりたい。

 デリンジャーは、現在の所有者の殺意を信じることにした。かつてその指が引金を引いたとき、それは体験したことがないほどの力を持っていた。本来であれば足りない引金引張力を満たしさえしたのだ。その指は、以前よりも力をつけている。

 だからきっと、この指はまたデリンジャーの引金を引いてくれるだろう。いや、必ず撃つだろう。人間の命を左右するその刻を夢見ながら、デリンジャーは眠った。

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