クズ勇者のお人好し魔王

蟲崎 まゆみ

第1話 最高の目覚め

 人間達との戦争が始まって10年…初めは拮抗していた戦いも、勇者の出現により徐々に形勢が傾き始めた。

 そして現在、魔王城の周りは無数の兵士に包囲され、勇者が今まさに謁見の間まで乗り込んで来ようとしている。

 この10年間部下達の多くが戦いの中命を落としていった…。

人間達に家を焼かれ住む場所を失った魔物達や領土を奪われた者も少なくない。

 特に勇者が現れてからは酷かった…前線の部下達が一瞬で殺される様は今も脳裏に焼きついている…。

 それももうすぐ終わる…。

 魔王城に残ると言い張った部下達は何とか説得して包囲される前に秘密の抜け道から逃がした。

 城には魔王と側近の二人しか残っていない…。

 魔王はゆっくりと椅子に腰掛けると天見上げて呟いた。

「いよいよか…」

 その言葉を合図とするかのように謁見の間の扉が吹き飛ぶ…そして。

「魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォっ!!」

 勇者の憎悪に満ちた叫び声がこだまする。

「ふんっよく来たな勇者よ我が名は…」

 魔王が言い終わらないうちに勇者は地面を蹴り一気に距離を詰めると剣を一気に振り下ろす。

 ガキィンという金属と金属が触れ合う音が謁見の間に響き渡る。

 魔力を凝縮させて作った剣が勇者の一撃を阻んでいる。

「まだ話している最中だというのに本当に礼儀がなってない…」

「お前を殺す!」

「それしか言えないのか貴様はっ」

魔王が思いっきり剣を弾く、勇者は勢い良く吹き飛ばされたが空中で体勢を立て直すと地面に着地する。

 その瞬間を狙って魔王が光弾を浴びせかける。

 砂埃が晴れると無傷の勇者がそこに立っていた。

 周りには結界のが張られておりそれが勇者を守っている。

「大丈夫ですか勇者様!?」

結界を張ったであろう少女が後ろから声をかける、服装からしておそらく仲間の賢者だろう。

「ちょっとあんたっ先走らないでよ」

「私達を置いていくとはまったく」

 後ろからさらに二人の少女…魔法使いと戦士が現れる。

「まずいな…」

勇者一人なら何とかなるが流石に四人の相手は分が悪い…。

「魔王は俺が殺すっ」

そう言いながら勇者が再び飛び出す。

「ちょっと」

「私達はサポートに回ろう」

「はい」

賢者、魔法使い、戦士の三人が距離を取り出方を伺う。

「うらぁぁぁぁ」

 勇者が繰り出す斬撃を魔王は横に飛んで避ける、その隙を狙って魔法使いが炎の魔法を放ってくる。

「ぐっ」

 魔法盾で防御するとそこに戦士がすかさず切り込んでくる。

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

「甘いっ」

 その剣を弾いた直後再び勇者が魔王の首を狙う。

 連携が取れた攻撃に徐々に追い詰められる魔王そして。

「ぐあっ」

 勇者が馬乗りになる形で剣を振り下ろし魔王はそれをかろうじて受け止めている。

 剣と剣がこすれ合い火花を散らす。

「終わりだ魔王!」

 勇者がジリジリと剣を押し付けていくその時。

 強烈な閃光が二人を包み込む。

 勇者は一瞬目を背けたがすぐに魔王に向きなおるそして硬直する。

「な…なんだこ…」

 先に動いたのは魔王だった持っていた剣で勇者の腕を切り落とす。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 勇者は悲痛の叫びを上げながら床を転がる。

「畳み掛けろぉぉぉぉ」

 その声を合図にあらゆる魔法、が勇者を襲った。

「ぎぁやぁぁぁっぁぁぁ」

 床を這うように逃げる勇者に魔王が剣を振り下ろし首を断ち切る。

「終わった」

それだけ言うと魔王の意識は闇の中に溶けていった。

・・・



「勇者さまっ起きてください」

その言葉を聞いて混濁していた魔王の意識が一気に覚醒する。

「ゆうしゃっどこだ勇者っ」

メイドらしき少女が不思議そうに言う

「勇者はあなたでしょう」

魔王は、はっとする。

「そ…そうだったな…我が勇者だったな…ははっ」

「ご気分が優れないのですかでしたら医者を呼んでまいりますが」

「いや大丈夫だ…すまない少し一人にしてくれないか」

かしこまりましたと言ってメイドの少女が出て行く。

一人になった部屋の中で魔王は呟いた。

「最低で最高の目覚めだ…」

だがこれで…これで奪われたものを取り戻せる。


終わり



 

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クズ勇者のお人好し魔王 蟲崎 まゆみ @zako_musi

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