魔王と勇者の終末創世日記

本多 敬一郎

第1話 魔王と勇者の終末創世日記

魔王「さて、今日も研究に勤しむとしよう」


勇者「へいへいへい、遂に来たぜ玉座の間」


魔王「む」


勇者「ん」


魔王「君は誰かね」


勇者「勇者だよ。そう言うアンタは魔王さん?」


魔王「いかにも」


勇者「ガキンチョじゃねぇか」


魔王「不敬だな君。王の御前だ。控えたまえよ」


勇者「やなこったい」


魔王「……私を第三世界の魔王、独欲の王と知っての狼藉か。勇者とは聞くに及びし蛮勇な生き物だな」


勇者「そりゃどーも」


魔王「私は名乗りを上げたぞ。君も出自を語ったらどうかね」


魔王「その粗暴な振る舞いから考えうるに、第一世界にて武威を振るう火竜の勇者か。或いは第六世界の魔王、破戒の王を悉く辟易させ頭髪を薄くさせたと逸話のある不滅の勇者か。それとも」


勇者「旧世界、雷の勇者だ」


魔王「なんと」



★ ★ ★



魔王「旧世界といえば、とうの昔に滅びの一途を辿り神に捨てられた世界ではないか」


勇者「あんまアナクロだって馬鹿にしてくれるなよ。腐っても故郷なんだ」


魔王「む……非礼を詫びよう」


勇者「いいって」


魔王「しかし解せんな。旧世界の勇者が何故、時空を超えてまで第三世界へ来たのか?」


勇者「勇者のする事なんて古来から一つだけだろ」


魔王「ふむ?」


勇者「魔王退治、だよ」



★ ★ ★



勇者「なぁ」


魔王「なにかね」


勇者「なんで俺は魔王と一緒に茶をしばいてんだ?」


魔王「私は戦闘などした事がないのだ。話し合いで解決出来るのならそれに越した事はない」


勇者「正直かよ」


魔王「素直なのが私の可愛いところだ」


勇者「魔王っぽくねぇなぁ」



★ ★ ★



魔王「では全霊を賭して──命乞いを始めよう」


勇者「プライドはねぇのかよ」


魔王「まだ死にたくはないのだよ。やりたい事も大いにある」


勇者「その心は?」


魔王「世界再興だ」


勇者「やっぱコイツ魔王じゃねぇだろ」



★ ★ ★



魔王「君は見たかね。この城の眼下に広がる不毛の大地を」


勇者「まぁ、な。草木の一本も生えちゃいない。ウチの世界によく似てるよ」


魔王「うむ……。このままでは近い将来、この世界も滅びの道を辿るだろう」


勇者「だろうなぁ」


魔王「そこでだ!私はある計画を立てたのだよ。この絵を見たまえ」


勇者「……絵?」


魔王「一筆入魂の自信作だ」


勇者「ヴォイニッチ手稿か?」



★ ★ ★



魔王「絵のクオリティは捨て置け。大事なのはここだ」


勇者「わっかんねぇっての」


魔王「ええい、いちいち説明せねばならんとは、たわけめ」


勇者「ぷっちーん」


魔王「いいかね?燦然と輝く太陽。灰色の大地を覆い尽くす深緑の木々。それを見て笑顔が溢れる人々。ここだ!」


勇者「……笑顔の人々?」


魔王「そうだ。そここそがこの計画の最終目標に繋がる。この退廃した終末世界を復興し、人々の笑顔に囲まれながら死にゆく事こそが私の夢なのだよ」


勇者「お前もう魔王辞めたらどうだ?」



★ ★ ★



魔王「そんな訳で、私はまだ死ねないのだ。どうか見逃してほしい」


勇者「いやぁ、そんな話を聞いて切り捨てる奴がいたらそれこそ魔王だろ。いいよ、見逃すよ」


魔王「……恩にきる」


勇者「……ん」


魔王「では、仲良しになったところで早速一つ頼みがあるのだがね」


勇者「図々しい奴だなぁ。しんみりした俺が馬鹿みてぇだよ」



★ ★ ★



魔王「だめか?」


勇者「んまぁ、言うだけ言ってみ」


魔王「私の世界再興計画を手伝ってほしいのだよ」


勇者「俺がぁ?」


魔王「そう。他ならぬ君にだよ」


勇者「それなら俺よりも適任がいるだろ。第八世界の森羅の勇者に頼むといい。アイツならニョキニョキと草木を生やすぞ」


魔王「あやつではダメなのだ」


勇者「なんで」


魔王「かつて異界千望鏡にて第八世界を観測した事があったのだがね。あやつは精神に異常をきたしている」


勇者「そうだったのか」


魔王「魔王が滅ぼすより前に、世界を丸ごと樹海に変えた女だぞ」


勇者「あぁ……」



★ ★ ★



勇者「勇者ってのは何処かしらに異常がある奴ばっかだからなぁ」


魔王「その点、君なら安心だ。話が通じる。仲間になってくれるのであれば、これほど心強いものもない」


勇者「でもなぁ、俺は雷の勇者なんだぜ?」


魔王「能力の問題ではないよ。君の人徳に惚れたのだ」


勇者「惚れたのか」


魔王「惚れたのだ」


勇者「……なーんでお前はガキンチョなんだろうなぁ?」


魔王「無礼だなぁ君」



★ ★ ★



勇者「まぁ、いいさ。暫くはこの城で厄介になるよ」


魔王「ふむ、では仲間になってくれるのかね?」


勇者「だいぶ長旅だったしな。そろそろ何処かに根を下ろそうと思ってたんだ。故郷も無くなっちまったし」


魔王「……暗い話は嫌いだ。どうせなら明るい話にしてくれ」


勇者「明るい話ぃ?」


魔王「正義が悪を滅ぼす勧善懲悪の話がいいな」


勇者「……お前、ボコられる側だって気づいてる?」


魔王「む?」



★ ★ ★



勇者「そういやぁ、この世界に来てからまだ人に会ってないな」


魔王「……?」


勇者「いや、お前は別としてよ」


魔王「なんだ、びっくりした。てっきり人扱いされていないのかと」


勇者「魔王が人かどうかってのも割と怪しいとこだけどな」


魔王「しかし、そうだな……。文献によると、人々は大地に溢れる瘴気から逃れるため地下へ潜ったとあるが、ふむ……」


勇者「……ん。ひょっとしてお前、人に会ったことないのか?」


魔王「……?」


勇者「いや、俺も別としてよ」


魔王「あぁ、うむ。恥ずかしながら君が初めてだよ。正直、今も少しドキドキしている」


勇者「そうか……ずっと一人だったのか」


魔王「……?」



★ ★ ★



勇者「なぁ、魔王ってのはどうやって産まれるんだ?」


魔王「ふむ?」


勇者「いや、勇者ってのは神が創り出したキャラクターみたいなもんだろ?魔王はどうなのかなって」


魔王「魔王とて変わらん。創造主たる神が勇者に対抗させる為に創り出したキャラクターにすぎんよ。世界と一緒にな」


勇者「へぇ、よく知ってんな」


魔王「と、この説明書に書いてあった」


勇者「なんだそりゃ」


魔王「外に落ちていたのだ」


勇者「……信憑性は薄いな」


魔王「む?」



★ ★ ★



勇者「少し腹が減ったな」


魔王「む、では食事にしよう」


勇者「食べられる物あるのか?」


魔王「無論だ。広い食料庫がある。城の地下では自家栽培もしているしな」


勇者「家庭菜園に精を出す魔王かぁ……」


魔王「付いてくるといい。案内しよう」




勇者「なぁ……」


魔王「む?」


勇者「なんで貴重なスペースの三分の一を費やしてまで花なんか育ててんだ」


魔王「花の蜜は甘いぞ」


勇者「腹は膨れねぇだろうよ」


魔王「いつかこの花を地面いっぱいに咲かせる事もまた、一つの夢なのだよ」


勇者「……そうか。叶うといいな」


魔王「うむ」



★ ★ ★



勇者「さて、世界再興とは言うものの何か具体的な計画はあるのか?」


魔王「その点については抜かりない。常日頃から研究を続けているからな」


勇者「ほー」


魔王「問題です。ちゃらーん」


勇者「急になんか始まったな」


魔王「植物が成長する為に必要な要素は何でしょう」


勇者「はぁ?んなもん簡単だろ。水、日光、土壌、新鮮な空気と、あぁ、それに温度も重要だな」


魔王「……?」


勇者「不思議そうな顔すんな。さてはお前、俺の事バカだと思ってたろ」



★ ★ ★



魔王「……こほん。ともあれ正解だ。そしてその要素の内、水は既に解決済みと言える。刮目せよっ!」


勇者「なんだぁ?この……顔のついたクラゲみたいなのは?」


魔王「ふっふっふ。知らずとも恥じる事はない。古文書に描かれていた物を参考に、私が作り上げたのだよ」


勇者「勿体ぶらずに教えてくれ」


魔王「うむ。これは雨雲呼びの偶像である。」


勇者「ただの布の塊にしか見えないけど」


魔王「あまり礼を失するなよ。古文書に拠れば、彼を逆さにして窓辺に吊るし、祈祷を捧げれば雨が降るとの事だ」


勇者「……。ちなみにそれ、制作時間は?」


魔王「三分だ」


勇者「結果は見えてるな……」



★ ★ ★



魔王「…………」


勇者「なぁ、そう落ち込むなよ」


魔王「古代人は嘘つきだ……」


勇者「そりゃ今回は残念だったけど次があるって」


魔王「…………」


勇者「重症だなこりゃ。ん〜……」



勇者「…………。サンダーラ」


ゴロゴロゴロ……

カッ!!

ザーーー


魔王「なっ、なんだなんだ!なにがおきた!?」


勇者「さぁ。今更になって雨乞いが通じたんじゃねぇの」



★ ★ ★



魔王「水問題は解決した。他ならぬ、この私の手によってな」


勇者「…………」


魔王「どうした君。なにやら複雑な顔だな」


勇者「いや、気にしないでくれ。好きでやった事だ」


魔王「ふむ。では気にせずに続けるぞ」


勇者「…………」


魔王「水については解決しようとも、まだまだ問題は山積みだ。時に勇者よ」


勇者「はい」


魔王「植林に於いて最も重要な要素は何か分かるかね」


勇者「そりゃあ土壌じゃねぇの。土が悪けりゃいくら水とか日光があっても育たねぇし」


魔王「……?」


勇者「不思議そうな顔やめろっての。少なくともお前よりは頭いい自信あるんだぞ俺は」



★ ★ ★



勇者「で、一度外に出て状況を再確認との事だが」


魔王「うむ」


勇者「見事になーんもねぇよな。人っ子一人いねぇし。空もずっと灰色だしよ」


勇者「……お前は、大地の瘴気ってのに当てられたりしないのか?俺は神の加護が残ってるからいいけどさ」


魔王「問題ないが。なんだ、心配してくれているのか?」


勇者「いや、別に」


魔王「可愛げのないヤツだなぁ」


勇者「そっくりそのまま返すぜ馬鹿野郎」



★ ★ ★



勇者「見てはみたものの、サッパリだな。正直、土の善し悪しなんて分かんねぇよ」


魔王「むぅ。やはり瘴気をなんとかするのが急務か」


勇者「そうしろ。俺にはお手上げだ」


魔王「しばらくはまた研究の日々か。歯痒いことだ」


勇者「まぁ、手伝えることがあれば言ってくれ」


魔王「心強いな」


勇者「つっても、俺に出来ることなんて天候の操作くらいだけどさ」


魔王「それでも、その心遣いが身にしみる……ん?」


勇者「あ、やっべ」



★ ★ ★



勇者「この世界にも魔物っているのか?」


魔王「うむ。たまーに外をウロついているのを見かけるぞ」


魔王「一ツ目の猩々や、双頭の犬鷲とかな。危険な奴らだ」


勇者「あれ、お前が支配してる訳じゃなくって?」


魔王「他の世界の魔王ならいざ知らず、私にそんな力は無いよ」


勇者「つくづく魔王っぽくねぇなぁ。何か、らしい事は出来ないのか?」


魔王「む、そうだな……先日、三時のおやつを二時に食べてやったのだが、どうだ、これは魔王っぽいか?」


勇者「……いいよ。お前はそのままでいてくれ」


魔王「む?」



★ ★ ★



魔王「君、なにを読んでいるのかね」


勇者「そこにあった古文書」


魔王「……面白いか?」


勇者「割とな。文字は読めんが絵が笑える」


魔王「そうか」


勇者「ん」


魔王「……」


勇者「……」


魔王「…………。文字、教えてやろうか?」


勇者「え?いやぁ、いいよ。お前に教わるのってなんか癪だし」


魔王「…………」


勇者「あっ!?おい、奪うなよ!」



★ ★ ★



魔王「勇者は何才なのだ?」


勇者「十八だけど。そう言うお前は?」


魔王「あまり淑女レディに年を訊くものではないぞ」


勇者「少女ガールにしか見えねぇから訊いてんだけどな」


魔王「相変わらず無神経だなぁ君は。だがお生憎様だ。私も知らん」


勇者「あー……今までずっと一人だったんだもんな。無理もないか」


魔王「うむ」


勇者「……お誕生パーティーしてみるか?」


魔王「む?」



★ ★ ★



魔王「お誕生パーティとは一体なんだ」


勇者「そのまんまだよ。誕生日に開くパーティーだ。食べたり、遊んだり」


魔王「つまり祭事か。血湧き肉躍るな」


勇者「物騒なこと言いやがる」


魔王「だが困ったぞ。そもそも私の誕生日が不明だ」


勇者「思い立ったが吉日……って言うには少し早いか。まぁ明日でいいだろ」


魔王「些か急ではあるが」


勇者「勇者と魔王だぞ?常識なんて糞食らえだ」


魔王「それもそうだ」



★ ★ ★



勇者「ヘイお待ちィ。食料庫にあったもので拵えた勇者特製アラカルトだ」


魔王「な、なんだこの洒落た料理は……普段食べていたものがまるでゴミではないか!」


勇者「料理なんて工夫次第だよ。そんな大層なモンじゃないぜ」


魔王「なんだか負けた気分だな……」


勇者「一応お前の誕生日なんだから喜べよ」


魔王「うむ、そうだな……失礼した。いただこう」


勇者「おう、食え食え。デザートもあるぞ」


魔王「う、うぅ……!」


勇者「ん?」


魔王「うまい!!」


勇者「そりゃなにより」



★ ★ ★



勇者「なんだこりゃ、召喚符か?」


魔王「ふっふっふ、無知な君に教えてやろう。これは多人数用の遊戯札なのだよ」


勇者「ほー、どう遊ぶんだ?」


魔王「まずは五十二枚の札をシャッフルし均等に配る」


勇者「ふんふん」


魔王「手札を確認した後に一定距離を取る。互いの合意が取れたところで選手宣誓。それで戦闘開始だ」


勇者「ん、戦闘?」


魔王「互いのLPライフポイントは五十だ。自陣の中から数字札を相手に当てる事でそれを削っていくのだが、ここからがこの遊戯の奥深いところでな?」


勇者「……うん」


魔王「絵札を当てられたらアンアウト。スリーアウトで永久退場だ。数字札にも五スキップや八切り等の効果があるのだが、それは追々だな。それとジョーカーを当てられたらオフサイドとなり」


勇者「なぁ」


魔王「む?」


勇者「それ本当に遊び方あってる?」



★ ★ ★



勇者「さて、見よう見まねのお誕生パーティだったが、楽しめたか?」


魔王「うむ。実に心踊る催しであった。こんなにも楽しかったのは初めてだな」


勇者「そりゃあ開催した甲斐があるってもんだな。それと……ほれ」


魔王「む、これは……クマのぬいぐるみ、か?」


勇者「こんなんで悪いけどな。昨日の内に作ったんだよ。あー、なんだ……プレゼントってやつだな」


魔王「…………」


勇者「…………」


魔王「勇者」


勇者「ん?」


魔王「ありがとう」


勇者「……らしくないな。いつもの憎まれ口はどこいったんだ?」


魔王「それでも。今は素直にありがとうと言わせてほしい」


勇者「……んじゃあ、俺も素直に受け取っておいてやるよ。まぁ、今日くらいは、な」


魔王「ふふっ」



★ ★ ★



魔王「つまりだね、愛称をつけようと思うのだよ」


勇者「いきなりなんの話だ?」


魔王「本で読んだのだ。親しい間柄では、お互い愛称で呼び合うのが様式美らしい」


勇者「まーた妙なこと思い付きやがって」


魔王「ニックネームと言うやつだよ君。蠱惑的な響きだなぁ」


勇者「蠱惑的かどうかは置いといて、何か候補はあるのか」


魔王「もちろんだ。昨夜、寝ずに考えたとも」


勇者「ほー、一応言ってみ」


魔王「ゆうちゃん、まおちゃん、でどうだろうか?」


勇者「却下だ、まおちゃん」


★ ★ ★



魔王「勇者よ」


勇者「なんだ」


魔王「私に料理を教えてほしい」


勇者「お前が料理ぃ?いいだろ、これまで通り俺がやれば」


魔王「いや……気づいてしまったのだよ。私には女子力というものが欠如している」


勇者「魔王がんなもん気にすんなよ。つーか俺が来る前はどうしてたんだ?」


魔王「素材を丸かじりだ」


勇者「悪い冗談だぜ」


魔王「冗談なものか。なにせ研究でいとまが無くてな」


勇者「教えるのは別にいいけどよ」


魔王「よし、では厨房へ行こう」




勇者「で、可燃ゴミが出来た訳だが」


魔王「解せん」



★ ★ ★



魔王「おはようございます、むにゃむにゃ……」


勇者「はい、おはようさん。お前、頭すげぇことになってんぞ」


魔王「朝はいつもこうだ……」


勇者「その右手に掴んでるクマさん人形はなんだよ」


魔王「これがないと眠れない体になってしまったのだよ……」


勇者「……相変わらずガキンチョだな」


魔王「うるさいぞ君……むにゃ」


勇者「お前も眠気覚ましにコーヒー飲むか?」


魔王「のむ……」


勇者「角砂糖は?」


魔王「四つで、むにゃ……」


勇者「はいよ」



★ ★ ★



Let it be, let it be──



魔王「…………」


勇者「おっ、いたいた。つーかなんだよこのガラクタ部屋は」


魔王「……む、君か。ガラクタ部屋とはご挨拶だな。我が城が誇る宝物庫だぞ」


勇者「いい趣味してるよ。……これ、なんて曲だ?」


魔王「タイトルまでは分からん。まだ修めていない言語だしな。何を歌っているのかも」


勇者「なんにせよ、いい曲だな」


魔王「うむ」



Whisper words of wisdom, let it be──ブツッ



魔王「…………」


勇者「…………」




魔王「音楽、とは」


勇者「ん?」


魔王「音楽とは、人類が生み出した最も美しい文化だな」


勇者「かもな」


魔王「これまで幾度となく、いっそ全てを終わらせてしまおうかとも思ってきたが」


魔王「優しい音色と人の声を聴くだけで」


魔王「一人では無いのだと思えるよ」


勇者「…………」


魔王「…………」


勇者「あ、あー……」


魔王「…………?」


勇者「今はもう一人じゃないだろ」


魔王「む?」


勇者「俺がいる」


魔王「…………」


勇者「…………」


魔王「ふふっ」


勇者「なんだよ」


魔王「いや」


魔王「似合わん台詞だな」


勇者「…………」




勇者「うっせ」



★ ★ ★



勇者「にしたって色々あるな、この部屋」


魔王「あまり無闇に触れてくれるなよ」


勇者「これなんてなんだよ。帽子被って口が大きく開いた人形?」


魔王「恐らくそれは小物置きだろうな。口の部分に貴金属等を納めて鑑賞するのだよ」


勇者「……違うと思うんだけどなぁ」


勇者「ん、これは地図か?」


魔王「こんな丸い地図があるものか、たわけめ。これはボール遊びに使うのだ」


勇者「こんな無駄に装飾のついたボールがあるかよ、たわけ。そうじゃなくって、これたぶん天球儀だぜ」


魔王「てんきゅーぎ?」


勇者「世界地図だよ。この星の全体像を表してるんだ」


魔王「何を言っているんだ君は。世界は平らだぞ。でなければ端の方にいる人が落っこちてしまうだろう」


勇者「いや、そりゃ重力ってもんがあって……あー、いいや。ガキンチョには理解できる話じゃねぇし」


魔王「なにぃ!?」


勇者「あっ、おい宝なんだろ!?振りかざすなよ!」


魔王「うるさぁい!いつもいつもガキンチョ扱いしおってからに!」


勇者「根に持ってたのかよ……」


魔王「これはボールなのだ!ボールは投げるものなのだ!」


勇者「言ってる事が無茶苦茶だぜ?」


魔王「てぇい!」


勇者「あっぶねぇ!」


魔王「う、うぅ……!」


勇者「ったく……おい魔王」



バチッ!!



勇者「ん?」


魔王「む?」



ザーーー……



勇者「…………」


魔王「…………」


勇者「おい、これは何だ」


魔王「分からん。が、恐らくは円盤の再生機と同じように音を出す機器だったのだろう。今まではうんともすんとも言わなかったが」


勇者「そういやぁ俺ちょっと触れたな。ひょっとして雷の力に反応したのか?」


魔王「かもしれん」


勇者「使い方は分かるか?」


魔王「まぁ待て。たぶんここの捻りを回せば……」



ザザッ……



























──聞こえていますか?



勇者「!」


魔王「?」








──私はここにいます




──誰でもいい




──どうかこの世界を




























──地球を救ってください











To be continued...?

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