第1話 「タンクトップパイセン」
カタカタとキーボードを叩く音が鳴り響く。
時計の針は就業開始時間の10時の回ろうとするとオフィスの扉が開く音がする
「おはざーす」
「おはようございますっ!」
タカシの次に現れたのはアダルトコミック編集長。
白髪が目立つ頭は初老を感じさせる。
「気合入ってるね。」
「新入社員ですから!」
「定時出社、定時退社がいいよ。体壊しちゃうからね、ははは。」
そう言いながら腰掛けた編集長は自らのPCを起動させる。
そして、会話の途切れたタイミングでまた1人出社してくる。
「新人に変な事言わないでくださいね?編集長。」
「あっ、カツマさん。おはようございますっ!」
「おはよう。タカシくん、なんか変なこと言われなかった?」
「えっと...いやそんな事は...。」
BL編集局のカツマ。
出版社フォーカスライト唯一の女性編集者でBLレーベルは全て彼女の管理下にある。
美人でありながら、独身。
そして彼女にとってこの話題は禁句なのである。
「なに、イヤミですか?カツマさん。」
「いえ、お時間ぴったしの編集長は素晴らしいですから?さぞかし実になる話をされていたんではないでしょうか。」
「長い時間働く事は偉くもなんともないからね?結婚相手は見つかんないの?」
数行前の地雷を早速編集長が踏んだ所で言い争いは過熱。
そう、編集長とカツマは犬猿の仲。
朝の口論はフォーカスライトの名物らしいが、入社して一週間のタカシは慌てて止めに入ろうとするが、取り付く島もない。
「あわわ........。」
タカシが頭を抱えていると、三度扉が開かれる。
「おはようございま〜す。」
間の抜けた声で挨拶した男は中肉中背で頭はボサついている。
それから言い争う二人の間を何事もなく通過して、タカシに語りかける。
「タカシくん、今日もよろしくね〜。」
「テルさん。おはようございます。あの、助けてください...。」
SOSを伝えるタカシだが、男はピンと来ない顔で首を傾げる。
「テルさん!編集長どうにかしてください!」
「おい!テル!このカタブツどうにかしろよ!」
言い争う2人の声が重なり、2人は男に判断を促す。
「ちょっと待って。暑いから脱ぎます。」
2人の口論を無視して徐に上着を脱ぎ出した男は、上着を脱衣するなりまた間の抜けた声でつぶやく。
「ひゃー。暑いわぁ。」
暦は10月を指し、そろそろアウターを羽織る季節になる中、テルと呼ばれる男はタンクトップ姿になる。
「テルさん...。もういいや。仕事しよ。」
「お前社内でその格好やめろって。ラ○ボーじゃないんだから...。」
業火の如く争っていた2人はあまりのマイペースさを前にあっという間に鎮火。
この男のテルと言い、タカシは心の中でタンクトップパイセンと呼んでいる。
タカシの直属の上司に当たる先輩社員だ。
呆然とするタカシを見てテルはにこやかに今日の課題を告げる。
「さぁ!タカシくん!今日はケシのお勉強だね!!」
「ケシですか!?」
新入社員タカシの今日の実務が始まろうとしていた。
エロ漫画編集はじめました ロールキャベツ牛乳 @roll_cabbage
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