目が覚めても異世界じゃないんだが

最上へきさ

とある少女の日記

■三月十七日

 今朝もダメだった。

 目を覚ますと、いつも通りの自分の部屋。

 やっぱり枕の下にイラストを挟んだぐらいでは、異世界に転移できない。

 新しい方法を考えなきゃ。


 追記:もうページがない。週末に新しい日記用のノートを買う


■三月十八日

 今日は枕の下に挟むイラストの量を五倍にして、設定資料集も挟んだ。

 結果はダメ。

 枕の高さが変わったせいか、悪夢まで見た。

 現実よりもっとひどかった。頭が痛い。

 学校に行きたくない。


■三月十九日

 今日は最悪だった。

 エリカの取り巻きが絡んできて、カバンを一つダメにされた。

 もう嫌だ。

 怒りに任せて恥ずかしくて出せなかった抱きまくらを出した。

 一ヶ月のバイト代をすべて注ぎ込んだやつ。

 これでもダメなんだろうか。


■三月二十日

 テストの結果で母親がうるさい。

 死ねばいい。

 抱きまくらでもダメだった。

 動画を流しながら寝る。


■三月二十一日

 夢を見た。

 彼らと話ができた。

 すごい。

 もっと長く滞在する方法は無いか?

 動画の再生スピードを上げてみる。


■三月二十二日

 少し時間が伸びた。

 向こうの世界のことが分かってきた。

 もっと長くいたい。

 より深い睡眠に入ればいいんじゃないか、と思い立つ。

 ネットで調べた入眠ヨガという奴を試してみる。

 あと、ロフトで売ってたお香も炊いてみる。


■三月二十三日

 また滞在時間が伸びた!

 夢を見ている時間=滞在時間なんだ。

 それなら話は早い。

 父親はどうせ家にいない。

 引き出しにしまってある薬を使おう。

  

 追記:寝坊したので学校には行かなかった。

 


■三月二十四日

 薬についてネットで調べた。

 体重によって量が決まっているらしい。

 ギリギリの量を図った。


 もしかするとこれが最後の日記になるかもしれない。

 いや、そうであってほしい。

 私はもうこの世界にウンザリしている。


 母さん、さよなら。あなたのことはどうしても愛せなかった。

 父さん、さよなら。どうして興味が無いのにわたしみたいな人間を作ったの?

 その他学校のクソども。

 全員死ね。できる限り苦しんでのたうち回ってから死ね。


 ツトム。

 何も話せなくてごめん。

 恥ずかしかった。あなたに情けないところを見てほしくなかった。

 元気でいて。わたしは楽しくやっているから。


 メモ:もし明日起きて何も変わってなかったら、このページは破いて捨てる。



---------



四月一日

 ごめん、メグミ。

 最後の一ページ、勝手に使う。


 俺の方こそごめん。

 もっと助けになればよかった。

 メグミは一人で大丈夫なんだって、思い込もうとしてた。


 メグミがいなくなって、俺はいろんな事を考えた。

 メグミの親は混乱してる。当たり前か。

 娘がいきなり消えたんだ。死体もなく。

 

 学校の連中は相変わらず。

 どこかで死んでるとか、逃げたとか、適当な噂ばかり。

 アゲマキエリカのグループは、気にもとめてない。

 

 どいつもこいつも最低だ。 


 俺はやっぱり、納得がいかない。

 メグミが消えても、世界は何も変わらなかった。

 それが許せない。

 メグミがいなきゃ何の意味もないのに。


 きっと異世界では、メグミは最高な人生を送ってるだろう。

 ずっと好きだった世界で、ずっと好きだった人達に囲まれて。

 俺はいらないのかも。

 

 メグミの幸せが確かめられたら、それでいい。

 もちろん、もし目が覚めてメグミがそばにいたら、それ以上に嬉しいことなんて無いけど。



 メモ:明日起きて何も変わってなかったら、このノートは焼いて捨てる。



 最後にこのノートを見つけた人へ

 焼いて捨ててくれ。異世界に行けるなんて、本気で信じてないよな?

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目が覚めても異世界じゃないんだが 最上へきさ @straysheep7

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