第2球 リリーフ投手は塁上に
翌日、また負けゲームだった。
「おい、マサ(俺のあだ名)、助監のノブが呼んでるぞ」
斎藤優佳(男)リリーフコーチから呼ばれた。
「わかりました、すぐに行きます」
登板の指名は必ず助監督から伝えられる、このチームの掟のようなものだった、当然俺もなんども呼ばれて登板する、今回もそうだろうと思っていた。
ところが向田さんからは意外なことを伝えられた。
「次に誰かが四球で出塁したら、お前を代走として起用する、責任は俺が取る、グリーンライトで行ってこい」と言われた。
何故か、と聞くと
「だって、お前いつも盗塁練習してただろ?それ見てたら行けそうだと思ってな」
たしかに毎日盗塁練習を投げ込みと同じくらい欠かさず行っていたが…それだけ?
「あと、マサ以外走れそうな人間がいないから」
ものすごく納得する意見だった。
今回はエースの登板だったのでなんとか0-0になっていたが、エースの球数は
8回裏2死の場面でようやく四球で出塁した。
代走が助監督からコールされ俺が一塁のランナーについた
相手ファンがざわめき、監督は露骨に失笑していた。(もちろん自軍の監督だ)
俺も苦々しい顔をしながら、『あとでビールおごってもらおう』そう思っていた
こういうことなら早々に切り上げてしまおうとしたが、ベースコーチャーから言われたのは“初球盗塁”だった。
畜生裏切ったな、と思ったが走らなければ給料がないので走るしかない、俺は投手がフォームに入った瞬間、一気に走った
投手は[クイックをしていなかった]のと、[緩い変化球だった]こともありキャッチャーのミットの音がすると同時に二塁を陥れた。
ベースコーチャーとノブさんが拍手をしたが、他の味方は誰も興味がなさそうだった。
(まあ、無理もないか)と思ったが、
ベースコーチャーは
もう一度盗塁のサインを出した
…ここまでくると、約束を守らなさすぎて逆に笑えてくる
俺は投手がセットポジションについた時、スタートを切った
…牽制されていたことにも気付かずに
「よっしゃ!」という声が聞こえてくる、虚しいことではあるが、次のベースまで走り抜くことしかできない。
そのままアウトになる
は ず だ っ た
セカンドがボールを投げた時、ほんの少しだけ、ほんの少しだけではあるが高かったのだ。その誤差としては0.1秒の差である。その誤差が、俺の暴走を好走に変えてくれた。
塁審は横に手を広げ、投手の顔は落胆に変わり、球場にナイスランと煌々と照らされる電光掲示板。そして、空虚な声がライトスタンドからこだました。
その後、相手がエラーをしてくれたお陰で俺は生還し、45イニングぶりに得点が入った
連敗を13で止めた今期22度目の勝利である。
ヒロインには俺が呼ばれた、慣れておらずたどたどしくなってしまったが、初めてのヒロインは嬉しく思えた。
その後、向田さんからこう言われた。
「ハッピーかい?おれはお前よりも多分ハッピーだよ」
翌日の一面に雄弁に語る監督の姿があった、あたかも、〈おれの采配で勝てたんだ〉と言わんばかりに。
その後は怪我などで二軍に落とされたが、正直、ウイニングボールよりも嬉しいものを感じた。
颯爽と駆けるリリーパー 課長ニッキー @nicky
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