颯爽と駆けるリリーパー

課長ニッキー

第1球 弱小チームの無駄試合

 無死1、3塁。この形が「点が入りやすい理想形」と誰かが言っていたような気がする。

 たしかに、ダブルスチールで振らなくても得点が可能なことや、サードランナーも無理に走らなくても大丈夫など様々な要因があるが、一番は併殺に打ち取っても、得点になってしまうということだと思う。

 一点差にこんな形になったらもう目も当てられない、大抵の場合一点を取られてしまい、逆転されることだろう。

 この状況で一番ありがたいのは三振、せめて四球にして満塁勝負にすることの方がまだ得点確率としては低くなる。

 6回表、俺、〈平尾正信ひらお まさのぶ〉はそんな場面で登板した。

 =27歳、年俸は1000万である=

 普通の心境なら抑えないとまずい、と思うかもしれないが……俺はなぜか安心していた。

 …いや、安心したわけではない、[またか]という思いの方が強かった。

 なぜなら、俺のチームは8-0で負けていたからである。


(ピンチ、でも、適当)そんな気持ちだろう


 正直こんなことには慣れてる、むしろこんなことの方が多い。

 たしかに俺はもともと投手だったが、高校、大学時代から万年ベンチにいたので投げていない、社会人の時ですら俺はコンバートをして外野手でプレーしてたのである。

 それなのにうちの球団、陸奥クラレネックスにドラ6で入団したのである。[投手]として

 俺みたいなやつを拾ってくれたのは嬉しい、嬉しいがなんで投手で取ったとつっこみたくなる。もちろん俺に投手としての才能なんてものはなく防御率も7点台となっているが、

 俺は敗戦処理リリーフとして投げていた。


 …無理もない、情けない話ではあるが、の選手がこの球団にはゴロゴロいたからだ。

 2点台のエースが1人はいたが、まともなリリーフが抑えのライトニングだけであとは5点台あればローテ投手レベルだった。

 溜め息をつきながら俺はキャッチャーミットに向かって投げた。緩やかなフォームから143キロのストレートを綺麗に打ち返された

 …俺に向かって。

 綺麗なピッチャー返しだったが、俺のミットの中に吸い込まれた

 ちょうど一塁が少し飛び出しており、すぐに投げて併殺になった。後続も打ち取り俺は無失点で終わった。

 いつもこんな感じだ、1、2点差の時だけ炎上、大差の時だけ無失点で抑える。


 ___我ながら情けなく感じてならない

 情けなくてたまらないが、起用されている限りやるしかないのである。

 だが俺の気持ちも堪える所があった、社会人の時はもともと楽しかった、足が速くある程度守備できたのでそこそこ出来ることが誇らしかった。[戦力外になって普通に会社に勤めよう]そう思えてしまうほどだった。


 結局俺のチームは得点が変わらず負けてしまった。

 監督は「選手が悪い、俺は悪くない」と言わんばかりのコメントで正直、やる気もなくなってしまった。

 いや、〈俺を含めて、みんなやる気がないのだろうか〉そう思えるほどだった。

 うちの打線は投手陣よりもさらにひどく、一試合に1点、入るか入らないかという感じだった。

 データによると8月の時点でチームの三振数、最長無安打記録を毎年のように更新し続けていた。

 その証拠に今年のノーヒットノーラン達成人数は15人だった。

 そんなうちのチームで唯一の救いが助監督である、向田健伸むこうだ たけのぶだけがまともだったというところだ。

 とは言っても、監督がワンマンで助言などは聞かず、吹けば飛ばされるような立ち位置だった。




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