サスペンダーシンバル

囲会多マッキー

第1話

サスペンダーシンバル。「なんだそれ」って思う人が多いはずだ。私は現物を見てすらわからなかったぐらいだから当たり前である。特に、吹奏楽の知識がなければ知る必要もないものだ。だからこそ、私はこれを選ぶことにする。


実はこれ、意外と大きな音を出せる楽器だ。クラッシュシンバルや、オーケストラシンバルに引けを取らない大きさまで引き上げることができる。そして、シンバルと大きく異なるのは、余韻を長く持たせることが出来ることが一つ。さらに、クレッシェンドというだんだん音の大きさを大きくしていくことがほかのシンバルに比べ長い。


私の吹奏楽部はパーカッションと呼ばれる打楽器専門のパート……グループみたいなのが三人しかいなかった。なので私は木琴シロフォン鉄琴グロッケン、さらにウインドチャイムなどをあちこちすることになる。最初は移動だけで手いっぱいだったのが少しずつできたときは本当にうれしかった。


私は高校から吹奏楽部に入部している、初心者である。だから、これが最初のコンクールだ。なのに、その最初のコンクールで八分の六拍子が出てきたのだ。しかも、その二拍目で出るところだらけで、それが出来ずに夜中まで残ったことも多い。


地区予選まで残り一週間になった頃の、期末テストは地獄と言ってよかったと思う。正直、それどころではなかった。何とかテスト前に覚えることが出来たが、心配で仕方ない。


そしてコンクール当日になってしまった。私は会場に来ても全く緊張しない体質である。過去に卓球部であった時の緊張感に比べれば、こちらのほうが数倍ましだった。しかし、ステージ横にたった瞬間に「自分が失敗したらどうしよう」という心配で緊張してきた。この緊張感は、卓球のような個人戦が基本のスポーツでは味わえない緊張感である。


そして、ステージに立った瞬間に見たのは、最高の景色だった。出演者側、演奏者側でないと立てないなんとも言えないこの景色はずっと忘れないだろう。


「このままこの景色を見続けたい」


そう思っていたのかもしれない。そして、演奏が始まったが借用のシロフォンの最低音が一オクターブ(ドからシまでのことを一オクターブという)私の練習していた場所とずれていた。同じリズムの音が何回かあるこの曲だが、最初に合わせるべきなのか、それとも正しい音に戻すべきなのか。もちろん演奏中に聞くことはできない。私は賭けをした。これで地区予選を突破できなかったら、私のせいであると。


私は、最初と同じ音を選んだ。この選択が吉と出るかはわからない。しかし、バランスを考えての判断だった。結果は、予選突破。私は夢だと思っていた。まさか、最初のコンクールで……。しかも、とある審査員からのコメントにはほぼすべて自分の担当した楽器のことが書かれていて、夢だと本当に思っていた。


夏休みの合宿も終わらせ、全道コンクール当日。私は、地区予選のときの最高の演奏を思い出していた。さぁ、「最高の目覚め」を体験してみようじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サスペンダーシンバル 囲会多マッキー @makky20030217

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ