第12話 リサさんとのクリスマス 1

「ただいまー」

 買い物を済ませて家に帰ると、

「いや、まって! そこは射線切れてるでしょ! うわ今のあたってるじゃん! 残像撃つゲームじゃないんだからさあー」

 リビングでひとり声を上げながらゲームに勤しむリサさんの姿があった。

 今日も今日とてリサさんの意識は電脳世界の中の戦場に入り込んでいる。

「ただいま、です。リサさん」

 彼女のゲームが一段落した頃かなと思い、後ろから肩を叩く。前にキリの悪い時に話しかけたらめちゃくちゃ怒られたことがあったので、それ以来声を掛ける前に俺もゲームの状況を把握するようになった。

「あ、おかえりなさーい」

 振り向くと笑顔になるリサさん。

 ゲームをしている時は喜怒哀楽が全開のリサさんだけれど、基本的には優しいお姉さんであることに変わりはない。

「今日はクリスマスですね」

「クリスマス! 魔界でも耳馴染みのある行事ね!」

「そうなんですか?」

 魔界にもキリスト教が布教されているとは思えないけれど。それとも似たような祭りがあるのだろうか。

「私の家の書庫に確か伝承が残っていたんだけれど、その昔ニコライというおじさんが魔界に降りてきてね。それでそのおじさんは人間だったんだけれど、魔族に偏見も抱かないどころか魔界の子供たちにプレゼントを配って回って行ったというの。そのおじさんがプレゼントを配った日が12月の25日の夜だからその日が魔界のクリスマスイヴとされているわ。人間界とは一日ズレているけれど」

「ニコライって聖ニコライっていうかサンタクロースじゃないですか!?」

 あのひげもじゃのおじさんは人間界だけでなく、魔界でも大活躍していたらしい。魔界でもトナカイに乗っていたのか……? しかも人間界の翌日に魔界に出向くとはとんだブラック営業だな。

「ていうかサンタさんっていたんだ……」

 俺は小学五年生の頃、両親にサンタに頼むプレゼントをクリスマス当日まで内緒にしていたら欲しい物と全く違う物が送られてきて以来サンタの存在に疑問を呈していたんだが……。

 もしかしたらニコライおじさんの風習を後世の人たちが受け継いだのだろうか。

 そんなサンタの伝説の追加エピソードに感心していると。

「それでプレゼントは!?」

「え?」

 リサさんがまるで小学四年生までの俺と同じような目の輝きを見せている。

「プ、レ、ゼ、ン、ト! リョウ君のその手に握られているドンキの袋はおそらくただの買い物袋ではないわよね!?」

 バレてしまった。

 しかしこれはプレゼントというよりもケースケの頼み事と言ったほうが正しい。 

 俺からのプレゼントはコートのポケットの中にしまわれている。

「まあ……半分はあたりですよ。正直プレゼントというかパーティグッズみたいなものなので……本命は別ですが……」

 とりあえず袋を手渡す。

 リサさんは跳ねるようにそれを受け取って、中身をすぐに取り出した。

「――サンタだぁ!」

 期待に膨らんだ笑顔がさらに弾ける。

 リサさんはサンタコスチュームの入ったビニール袋を抱きしめてぴょんぴょん飛び跳ねた。

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家に帰るとえっちなヴァンパイアのお姉さんが住み着いていた話 西梨アキ @aki0419

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