第11話 ケースケの思惑

「まあお前の頼みはわかったよ」

 ケースケはどうやら俺の申し出を前向きに検討してくれるらしい。なんともありがたいやつだ。

 もちろんタダってわけにもいかないから、何かお礼をしないとな。

 いやこいつの場合美女と数日でも暮らせるんだからむしろ頼み自体がご褒美なのか?

 なんてことを考えていると、ケースケは徐にこちらに顔を近づけてきた。

「うお、どした」

「いや報酬はともかくだな――」

 相変わらずこっちの考えを見透かしてくる。感心というかなんというか。俺はともかくとして、普通なら多少気味が悪く思われるぞ?

「写真、見せろよ」

「写真?」

「そうだよ。そのリサさんの写真だよ。有るんだろう? どうせ○メ撮りとまではいかなくとも、ちょっとしたグラビアとかさあ」

 下衆い笑みを浮かべつつケースケは体を揺さぶっている。

 俺は首をぶんぶんと横に振った。

「だからリサさんとは……!」

「そういう関係じゃないって言ったって、美人コスプレイヤーだろ? プロフィール写真くらい持ってないのか?」

 うぅ……ここにきてレイヤーと紹介した弊害が出てきた。

 確かにコスプレイヤーなら自分からプロフィール代わりの写真を提出してきてもなんら不自然じゃない。俺が隠し撮りなんてするようなやつじゃないことはケースケも理解している。それでも写真を求めてきたってことは、そもそも俺がリサさんの画像を持っている前提で話しているということだ。

「そ、それが……自分のコスプレ姿を身内にはあまり見せたがらなくて……」

「ふぅん? それじゃあハンドルネームみたいなものも知らないのか? お前が美人って言うくらいなら、ググればすぐに出てきそうなもんだけどな」

「まるで俺を理想が高いみたいに言うなよ」

 佳苗の件以降あまり女の子をかわいいと表立って口にすることは少なくなった。

 そういう部分では俺とケースケは対照的かもしれない。

「ハンドルネームもまだ知らないから、正直リサさんの活動に関しては俺はほぼ把握していないようなもんなんだ」

 とりあえずの言葉を紡いで俺は場をつなぐ。

 ここまで嘘を連ねてしまうと風呂敷を広げすぎたような気もするが、別に俺とリサさんが面倒なことに巻き込まれたくないだけで、ケースケを騙して得をしようってわけでもない。

 この場の嘘には目をつむるしか無い。

「じゃあ写真撮ってきてくれよ」

 するとケースケはとんでもないことを口走った。

「俺が!?」

「そりゃそうだろ。別にいいじゃんか。俺が匿うんだし、顔くらいは知っておきたいよ」

「……お前のめちゃくちゃタイプな子だったら?」

「お前に許可を得られれば手を出そうと思う」

 素直なのかクズなのかわからない。

「絶対許可は出さんからな」

 いくら親友といえども同居人に手を出されては困る。

「まあそれはともかく、まずは写真だな」

「世話になる以上断れない、かあ」

「せっかくならなんかコスチューム着てもらえよ」

 軽々しく言うがリサさんは元々の服装がコスみたいなものだったし、人間界の服もだいたい派手なものが多いからなあ。今更何を着せればいいのやら。ていうか着てくれるんだろうか……?

「簡単に言うなあ」

「そのかわり報酬はそれでいいぞ。なんならその子の飯代も負担してやるから」

「本当にか?」

「その代わりちゃんと俺の納得できる写真持ってこいよ。大丈夫無理に過激なやつを頼むわけじゃないからさ」

 ケースケは普段はクズだが、別に人に優しくないわけじゃない。写真だってリサさん本人が嫌がれば断ることもできるだろうし、そのときは別のお礼を用意すればいい話だ。

 しかしまあ食費まで負担してくれるというくらいだ。彼の頼みに応えてあげたい気持ちはある。

「善処はするよ……」

「お、いいねえ! もうすぐクリスマスだし、王道だけどサンタコスなんかがいいなあ!」

 早速リクエストを飛ばしてくるケースケ。お調子者め。

「サンタコス……」

 季節はもう年の変わり目が近づいてくる頃だ。クリスマスまでもう少し。サンタ服を手に入れるのだってなんら苦労しないだろう。

「…………がんばります」

「おうっ! じゃあまた何か連絡があれば追々伝えてくれよ!」

「わかった」

 俺は立ち上がり、店を出る準備に取り掛かる。

 それから会計を済ませて、店の外へ踏み出すと冷え切った空気が頬を撫でた。

 吐く息は白い。

 今年のクリスマスはリサさんと過ごすことになるんだろうなあ。なんて当たり前の予想を立てながら、俺はケースケと一緒に歩く。

 少しずつだけどリサさんとの生活にも馴染んでいる。だんだんと彼女のことを理解できるようになっている。

 まさかそんな折に佳苗から連絡が届くなんて思いもしなかった。

 去年までの俺なら怖がって、会うことを拒んでいたかもしれない。でもなんだかわからないけれど今は違う気がする。まだ自分の感情に自信を持てないけれども。

 少なくとも今の心配は佳苗のことよりも、サンタコスチュームを買って帰らなきゃってことで、値段はいくらなのかとか、いくらパーティグッズとして売られていても店員から変な目で見られないかなとかそんなことばかりだ。


「それじゃあ俺、ドンキに寄ってくから」

 そう言ってケースケに手を振る。

「おう、またな」

「またね」

 リサさんと過ごすクリスマス。

 サンタ服以外にもなにかプレゼントでも買っておこうかな。

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