第10話 俺と佳苗
ケースケの『元カノ』という言葉に俺は無意識のうちに反応していた。
俺と佳苗の関係を簡単にわかりやすく説明すると『元恋人同士』という関係が一番適切だ。
俺が17歳のときに人生で初めて出来た恋人が佳苗だった。
地方の山に囲まれた小さな町で生まれ育った俺と佳苗。佳苗はうちの隣に住んでいて物心の付く前から俺たちはよく二人で遊んでいた。小学校も中学校も俺たちの家からはかなり離れた場所に通っていたから、少なくとも高校に上がるまで近所の同年代の子供は佳苗くらいしかいなかったのだ。
思春期の俺たちにとって二つという年齢の差は、数字よりも大きく感じていた。佳苗は俺のことを兄として、俺は佳苗のことを本当の妹のように接していたと思う。
そんな俺達の関係が一気に変化したのは高校二年生になったばかりの春のことだった。
『わたし、リョウ兄のこともっと知りたい』
『知りたいって……これまでずっと一緒だったじゃないか』
幼い頃から通っていた小さな公園。公園といっても錆びた滑り台が一つぽつんとあるだけで、雑草もあちこちに生え散らかっており、どちらかというと空き地のようなものだった。
小さい頃はボールで遊んだり、錆びた滑り台も立派な遊具として機能していたものだが、この頃はここに来ても遊ぶというより小さなベンチに並んで座って他愛のない話ばかりをするだけだ。
春風は強く、当時は長かった佳苗の髪が激しく揺れていたことを覚えている。
『もっと、男の子のリョウ兄を知りたいってことだよ』
佳苗は不服そうに言った。
そうは言われてもこれまで俺は佳苗のことを女の子として認識していたというよりも、まさに家族、妹のように感じていた。正直なところ佳苗の言葉はかなり意外だった。
俺のこと、男として見てるってこと……?
そう尋ねるよりも先に佳苗の唇が触れていた。――俺の唇に。
「おいおーい、思い出に浸るなよー」
ケースケの言葉で俺は過ぎ去った思い出から今へと引き戻される。
「ひ、浸ってないよ……」
図星を疲れた俺は戸惑ってしまう。
佳苗との思い出は俺の中ではとても大きいものだった。いい意味でも悪い意味でも。俺が未だに佳苗と別れてから次の恋愛を経験していないのも、佳苗との経験による影響が大きい。
「というか話を聞く限りそのリサさんって人と付き合ってはないみたいだけど……お前的にはどうなのよ」
どうなの、とは……?
「付き合わないのか?」
「えぇっ!?」
思わず大きな声を出してしまった。
リサさんと付き合う。
言葉を浮かべるだけでもなんだかおかしいことのように思えてしまう。少なくとも今の俺にとってありえない選択肢だ。
「んーリサさんはそういうんじゃないというか……」
「馬鹿野郎、そう言っている奴に限って後から付き合ったりしてるもんなんだよ」
「えぇ……そういうもんかね」
「そういうもんだよ」
そもそも同年代の恋愛がどういうものなのかすらわからないのだ。
俺ににとっての恋愛という概念の時間は佳苗に振られたあの時から止まったままだ。
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