詩・夏が来るなら

矢野昴・飴也通重松

第1話

[蛍石]

草臥れた

紫鼠のソフト帽

夏めく風が 吹き込んだ

 一朶の貰った紫陽花を

アイスクリンのように

そっと載せてみた

夜半に煌めく

甘い毒



[碧色のびいだま]

乾ききった横断歩道を

君と二人

上履きのまま駆け抜ける


もっともっと走るんだ

東へゆけば間に合うかもしれん

夏はまだ胡座をかいて

そこに座っているかもしれん




[嗚呼、アンタレス]

夏雲色の恋文を

犬歯で千切って飲み込んだ

明日にはきっと消えるだろう

蠍の周りをぐるぐる回る 

星の子供になるだろう


昨日のお空は あなたの瞳

真昼の夢の藍風鈴

泳ぐ魚は琥珀のインク

便箋泳ぐ想いの魚


星の子供が走るのは

赤いお星がほしいから

彼の心臓が欲しいから

つるつる

くるくる

走るのだ



[感動の唄]

モルヒネの瓶を見てゐる

見てるだけ

手に取ろうとは思わない

離れる気だって起こらない


そのうち小さな褐色の

玻璃の小瓶が独りでに

つるり

ころころ

転がって

ぴしゃん

そのまま割れるだけ


それを黙ってただ見てる

茶色の小瓶はどこから落ちて

一体何処へ還るのか

只々

きらきら

睡るだけ


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