最高を求めて
秋月創苑
本編
俺は今、最高の目覚めについて考えている。
何故って、そいつがお題だからさ。
まあ、最高の目覚めなんてモンを体験出来るってんなら、一度くらいは真剣に考えてみるのも悪くない。
最高にハッピーな目覚め、ってヤツさ。
最高の目覚めを体験するんなら、何たって最高の眠りから考えなきゃダメだ。
そいつ抜きで話を進めるなんざ、肉も無いのにステーキを喰おうとする様なモンだ。
だから、俺は最高の眠りについて考える。
すでに、最高のベッドは最高のインテリアチェーン、ニヴェアで購入してるから問題は無い。
四回寝返り打っても転げ落ちない、最高のキングサイズだ。
もちろん最高のシーツは最高のシルクだし、最高の掛け布団も最高の羽毛入りだ。
最高の寝間着は全裸に限るから、こいつも問題無い。
ただし、最高のお手入れはしとかないとな。
さて、そうなってくるとだ。
当然必要なモノがあるよな。あんたには分かるかい?
グレートだ。
最高の美女が隣に寝てなきゃ話にならねえよな?
最高の肢体と、最高のプラチナブロンドを持った、最高の美女。
ジェーンでもキャシーでも良いが、ここはあえて最高のドミニクでいこう。
最高の美女と添い寝だ。全裸で。
最高だろう?
そこで俺は気の利いた最高のセリフでも吐くさ。
「恋は距離の二乗に反比例する」って言ったのは、どこの誰だったかな。
忘れたけど、俺だって負けちゃいない。
「鯉は意外と骨が多い。食べる時には気をつけな。」
一度こいつをキャバクラで嬢にキメたんだが、その子ポカーンとしちまったぜ。
お嬢ちゃんにはちと少し早かったかな。
そして、最高の美女による、最高のキスで目覚める。
……完璧だ。
だが、こいつには実は落とし穴がある。
あんたには分かるかい?
…グレートだ。
そう、最高の美女が起きる前に、最高の俺が目覚めちまう可能性だ。
俺が最高の美女に最高のキスをキメて目を覚まさせるのも最高にロマンチックだが、それでは俺の最高の目覚めにはならない。
そこで、だ。
俺にはこいつが必要になるわけだ。
…グレートだ。
そう、最高の目覚まし時計さ。
最高の鳴り心地をバイブスさせる、最高の時計が必要だ。
時計の絵柄は最高のミッキーが欲しいな。
世界で最も有名なキャラクターだ。
だが、本当にそれだけで足りるのか?
そうさ。
次は最高の電池が必要になるだろう?
実はすでに手を打ってある。
最高の俺に手抜かりなど無い。
最高のダクテンショップで最高のリチウムイオン電池を購入済みだ。
こいつは最高のリチウムイオンを産み出す為に、最高のグラファイトと最高のリチウム……え? くどいって?
たしかに、あまり語りすぎるのも無粋だ。
とにかく、電池に関してはノープロブレムだ。
さて。
いよいよ最高の眠りにあと一手でチェックメイトだ。
おっと。もちろん、最高のシャワーや最高のシャンプー、最高のアロマなんかは盛り込み済みだ。
その上であと一手。
……グレート、いやグレーテストだ。
そう、最高の酒と最高の夕食さ。最高の美女とな?
そこで俺は最高のドミニクと行ったんだ。
最高の肉を喰わせる、最高のレストラン。
ビッグリスタル・ボーイ。
最高のワインに、最高のハンバーグと最高のマッシュルーム乗せ最高サラダ。
****
「……で?」
最高のアーマロイドベビィ、通称ベビィが俺の顔を覗き込みながら聞く。
「そのマッシュルームが貴方の記憶を奪って、今まで記憶喪失だった、と?」
「そうさ、ベビィ。
きっと俺の命を狙ってる海賊ギルドのヤツらの仕業さ。」
俺は左腕に仕込まれたサイコウ・ガンを抜き出し、ベビィに言う。
「この俺、海賊ゼブラはあいつらの宿敵だからな。」
「……貴方の海賊妄想は相変わらずのようね、ゼブラ。間違いなく貴方が本物のゼブラだって、はっきり分かったわ。
いい?
何度も言うけど、貴方はしがない貿易会社のサラリーマン。
宇宙を股に掛ける、一営業職よ?」
「ハハッ、相変わらずベビィのジョークはキツいな。
海賊ギルドのヤツらなんざ、この俺のサイコウ・ガンでヘッドショットキメてやるぜ。」
「サイコウ・ガンって、それただの黒い大きなちくわじゃない。」
「よせよ、ベビィ。
こいつはただのちくわじゃない。
惑星シマネの名産ちくわだぜ?」
「覚えてるじゃないの。」
というわけで今回は最高の目覚めにお目に掛かる事は出来なかった。
何しろ覚えてないからな。
だが、次こそは必ず。
俺は宇宙を股に掛ける賞金首、海賊ゼブラだ。
俺が手に入れられないモノなど、この世には無いんだからな。
最高を求めて 秋月創苑 @nobueasy
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