139・そんなことさせるものですか!
わたしはミューレン・ゼオランドに罰を下した。
わたしに偽りの愛の言葉を囁いた男。
わたしが与える幸せを拒んだ男。
だが、この男だけで終わらせてはならない。
この国の全ての人間に神罰を下さなければならない。
わたしが与えた幸せを拒絶した人間全てに。
女神の裁きを受けよ。
膨大な雷がオルドレン王国に降り注いだ。
まだ。
まだだ。
まだまだ。
この国だけではない。
世界中に。
世界の全ての人間に神罰を与えなければ。
わたしが与える幸せこそが本当の幸福。
それを拒むことは罪。
わたしが与えた幸せを拒絶したことは万死に値する。
いいえ、死すら生ぬるい。
この世界を地獄に変えなければ。
永遠に続く地獄に。
「そんなことさせるものですか!」
クリスティーナ・アーネスト?
悪役令嬢。
断罪され処刑されなければならなかった女。
まだ生きていたのか。
しぶとさだけは害虫並みの女。
この女が生きているから。
悪役令嬢が生きて存在していること自体おかしいのだ。
今度こそ。
今度こそ確実な死を与えなければ。
女神の裁きを受けよ!
私は空間転移が終了すると同時に、啖呵を切って飛び出した。
リリア・カーティスが勝手なこと言ってるけど、そんなことどうでもいい。
力を増幅する宝玉が使えるのは一回だけ。
一回きりの勝負。
その一回に全てを賭ける。
「みなさん! やりますよ!」
私は宝玉を地面に叩きつけて割った。
宝玉から力を取り込み、私の力が増幅する。
「やってください!」
私の合図とともに、皆の魔力が私に集中する。
「ぐう!」
物凄い力が私の身体の中で奔流する。
それを私は制御し合成しなければならない。
一瞬だけ私は、この力を制御できるのか不安がよぎった。
もし、できなかったら?
いいえ。
できるのか? じゃない。
やるのよ!
「あああああ!」
みんなの魔力量に私の身体が耐えきれず、毛細血管が破裂して、耳鼻目から血が流れ始めた。
でも、みんなは魔力を止めなかった。
なぜか?
私を信頼しているからだ。
私が必ず成功すると信じているからだ。
だから私は必ず成功する!
みんなが信じてくれているからこそ私はやり遂げられる!
「
宇宙開闢!
クリスティーナ・アーネストがこの魔法まで使うとは。
だが、それも無駄だ。
破滅の剣ベルゼブブの前にはどんな力も無意味。
全て吸収し、わたしの力となる。
さあ、やってみなさい。
おまえに絶望を与えよう。
極限の光。
無限の闇。
そして世界を構成する四つの要素。
六つの属性が合成され邪神へと放たれた。
きゅ、吸収できない!?
魔法が、力が、破滅の剣ベルゼブブで吸収できない!
このままでは!
このままじゃ!
あ、あ、あ……
あああああ!!
私たちの合成魔法、宇宙開闢がリリア・カーティスに直撃した。
今だ!
私は全力で疾走し、業炎の剣ピュリファイアを抜剣。
破滅の剣ベルゼブブを持つリリア・カーティスの右手を切り落とした。
「イヤァアアア!」
悲鳴を上げるリリア・カーティスから破滅の剣ベルゼブブを奪うと、彼女の右肩に破滅の剣ベルゼブブを突き刺し、力を吸収する。
「ギャアアアアア!」
膨大な力が破滅の剣ベルゼブブを通して私に流れ込む。
それを共にリリア・カーティスの力がどんどん弱まっていく。
まだだ。
まだまだ。
この女からは全ての力を奪わないと。
でないとまた同じことが繰り返されてしまう。
「やめて! やめてぇえ! わたしの力! わたしの力を取らないでぇえええ!!」
「誰が止めるものですか!
貴女が今までなにをしてきのか!
みんなの幸せと言ってどれだけ多くの人を不幸に陥れたのか!
力を得るためにどれだけ大勢の人から命を奪ったのか!
同じことは繰り返させない!
あんたはこれで終わりよ!」
リリア・カーティスから力を全て奪い取った。
「カスティエルさま! 私たちを戻してください!」
空間に穴が開き、私たちはその穴に吸い込まれた。
キース・リグルドは事が終わっても、事態に付いて行けずに茫然としていた。
リリア・カーティスが邪神となって戻ってきた。
ミューレン・ゼオランドが邪神に殺された。
そして処刑されたはずのクリスティーナ・アーネストが、邪神となったリリア・カーティスを滅ぼした。
いったい、なにが、どうなっているのだ?
魔王城の玉座の間に戻った私たちは、ミサキチの下へ。
「ミサキチ!」
完全に意識を失っているミサキチの上から、クキエルが離れた。
さあ、早く彼女に力を戻すのだ。もう時間がない。
「はい」
ミサキチの手に破滅の剣ベルゼブブを握らせ、私の手に、甲から剣の先端が少し突き出る程度に刺した。
そして私の中にある膨大な力が、ミサキチへと流れて行く。
少しずつミサキチの顔に生気が戻っていく。
「……あ……」
ミサキチが目を覚ました。
「……妾は……どうなったのだ?」
カスティエルさまが私の手から破滅の剣ベルゼブブを抜く。
「もう大丈夫。彼女は助かったよ」
「ミサキチィ…」
私はミサキチを抱きしめた。
「……そうか……妾は助かったのか。おまえが、助けてくれたのだな」
「私だけじゃないわ。みんなも、私の仲間もミサキチを助けたのよ」
「そうか」
ミサキチはまだ力が入らないみたいだけど、自力で立ち上がり、ラーズさまたちに淑女の感謝の礼を取った。
「そなたたちに感謝を」
そう言った途端、ミサキチの身体が傾き倒れそうになった。
「ミサキチ!」
私が支えるより早く、ヴィラハドラがミサキチを支えた。
「椅子にお座りください、魔王様。まだ身体が本調子ではないのです」
そしてヴィラハドラは彼女を玉座まで支えた。
玉座に座ったミサキチ、魔王バルザックは自分の掌を見つめる。
「力が、以前ほどではない。力を奪われる前より弱くなっている」
「まだ力を完全に取り戻してないのね。なら、もう一回私から力を吸収すれば」
「いや、そうではないのだろう。あの新たな邪神になった者が使った分の力が消費されてしまっているのだ。これ以上、力を吸収してしまえば、おまえが死んでしまう。それに力を取り戻すこともないだろう」
バルザックは自虐的な笑みを浮かべた。
「これで、妾は魔王の資格を失ったな。間違いを犯し、敗北し、力もない者など、王として認められぬ」
ヴィラハドラがバルザックの前に片膝をついた。
「いいえ。貴女は我らの王に相応しいお方。たとえ力を失ったとしても、貴女は我らの王です」
「しかし、妾は間違いを犯してしまったのだ。そして負けた。それに、民を守る力どころか、自分の身を守る力も失ってしまった。魔王を名乗る資格はない」
「一度も間違いを犯さない者などおりませぬ。一度も敗北せぬ者などおりませぬ。
そして、たとえ力が戻らなくとも、その力の全てを失ったとしても、貴女は私にとって魔王。
人間に例えれば、貴女は民草を救う聖女なのです。
私は貴女に己の全てを捧げます」
「だが、もしまた妾が間違いを犯すことがあれば」
「その時は、私が過ちを正します。この身を引き換えにしてでも。
私はなにがあろうと、貴女をお守りいたします」
ヴィラハドラは魔王バルザックの手を取り永遠の忠誠を誓った。
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