120・誰がさせるものか!

 六本の腕の篭手から剣が伸び、ラドゥは私に攻撃を繰り出す。

「クッ! このっ!」

 六本の剣の連続攻撃という、手数で攻めてくるラドゥに、私は防御一辺倒に回ってしまった。

 剣を溶かし折ってしまいたいけど、一度それをやったから、ラドゥも警戒して、剣が触れたらすぐに引いて、別の剣で攻撃して、鍔迫り合いを避けている。

 このままじゃ押されっぱなしだ。

 胸部の銃砲を向ける。

 近距離で撃ち込んでやる。

「ヌンッ!」

 発砲する前にラドゥが銃砲を破壊した。

「同じ手は何度も喰わぬ!」

 じゃあ、これはどう!

 魔神の頭部の額が開き、光の筋が走る。

「オオォッ!」

 ラドゥの右腕を一本切断し、右側の剣二本を溶かし切った。

 光線レーザー攻撃よ。

 攻撃力が高すぎるから使いたくなかったけど、

「殺しはしません! しかし手足の二三本は覚悟してください!」

「ほざくな!」

 まだ残っている右側の二本の腕の剣が再生した。

 でも、画面にはラドゥの魔力が低下していることが表示されていた。

 これはきっと、剣の修復に自分の魔力を使っているからだ。

 無限に再生できるわけじゃない。

 それに修復できるのはラドゥだけじゃない。

 私は剣を振り下ろし、ラドゥが二本の剣で受け止めた所を、左手でラドゥの腕を一本掴んで抑えた。

 ラドゥが自由に動かせる腕は左右に一本ずつ残っている。

 その腕の剣を魔神の胴部に突き刺してきた。

 私はそれを避けずに、そのまま刺さる。

「仕留めたぞ!」

「いいえ! 引っかかったのよ!」

 私は胸部の銃砲の修復に動力源を回した。

「なに!?」

 数秒で修復した銃砲から、光の矢を連続砲撃。

「グオオオオオ!!」

 近距離から胸に受けたラドゥが苦悶の雄叫び。

 でも私は腕を掴み続けて逃がさない。

 画面に動力源が半分まで低下したことを警告する表示が出た。

 早く倒れなさい!

「ウォオオ!」

 ラドゥが胴部から剣を引き抜くと、銃砲に剣を突き刺した。

 光の矢の連撃が止まってしまう。

 さらにラドゥは、魔神の光の剣を持つ右腕を斬り落とすと、間合いを取った。

 私は損傷を受けた個所の修復に動力源を回す。

 先ずは腹部。

「させん!」

 ラドゥは再び間合いを詰めてきた。

 左腕と銃砲の修復がまだ終わっていない。

 私は魔神の肩から推進弾頭ミサイルを発射した。

 ラドゥはそれを爆発する前に空中で斬り落とす。

 右腕の修復が終わった。

 でも動力源の残量が三割を切っている。

 早く決着を付けないと。

 私は光の剣を横一線。

 左側の二本の剣で受け止めるラドゥは、右側から攻撃。

 私は魔神の盾で受け止め、額の光線を放射。

 ラドゥの右側の腕を二本切り落とす。

 だけどラドゥは残った一本の剣の切っ先を私がいる操縦席に向けた。

「これで終わりだ!」

「このっ!」

 私は魔神の体を強引に動かして、操縦席から剣筋を外す。

 耳障りな金属音が響き、私の体に触れる寸前の所を、剣が貫通する。

 私は魔神の額から光線を放射しようとした。

 しかし、ラドゥはそれより早く操縦席に刺した剣を抜き、額に叩きつける。

「貴様の攻撃手段はこれでなくなったぞ!」

 いいえ! まだあるわ!

 これは動力源を大量消費するから使いたくなかったけど、こうなったら一か八かよ!

「死ぬんじゃないわよ!」

「なに!?」

 魔神の背中から無数の翅を出す。

 さならが昆虫の翅のようなそれから、私は攻撃を繰り出した。

電磁波ガンマ光線レイ爆発バースト!」

 魔神を中心に、見えない光の波が爆発した。



 魔神の動力源が尽きたことが、画面に表示された。

 同時に、ラドゥの体が仰向けに倒れて行く。

 地響きを上げて地面に倒れ、動かなくなったラドゥが、元の姿に戻って行った。

 勝った。

 私、一人で勝った。

 やがて魔神がバラバラに分解され、部品が地面に散らばっていく。

 動力源を完全に失った魔神は、もう二度と使うことはできない。

 私は地面に降りると、完全回復薬の瓶を三つ出し、ラドゥの体の上へ投げ、風の矢ウィンドボルトで瓶を割った。

 中身の完全回復薬がラドゥの体に振りかかる。

 巨人の身体じゃ量が少ないから怪我は全部治らないけど、これで死ぬことはない。

「グゥ……なんだと? 我を殺さないのか?」

 意識を取り戻したラドゥが体を起こし、私に問いかける。

「言ったはずです。殺すことはしないと」

 腕は切り落としたけど。

「さて、私の勝利です。これで約束通り、私たちが魔王バルザックと和平会談を行っている間、軍を停止していただけますね」

「……」

 ラドゥはしばらくの沈黙の後、

「おまえは、我が人間などとの約束を守ると思っているのか」

「信じます。貴方の武人としての信条を」

「ヌゥッ……」

 言葉に詰まったようなラドゥは、しばらくしてから、

「いいだろう。おまえたちが魔王様と会談している間、軍の進攻を停止していよう」



 カナワ神国港にて私たちは船に乗る。

 行き先は魔王城のある最東の島。

 カナワ陛下が見送りに来ていた。

「これが我が国の使節団の紋章だ。これを身につけておれば、魔王バルザックも話だけは聞くはず。

 しかし、それから先はそち衆しだい。朕はそち衆の健闘を祈っておる。頼んだぞ」

「はい。任せてください。必ず、バルザックと和平を結んで見せます」

「うむ。良い返事だ」

「ところでカスティエルさまは?」

「知らぬ。一方的に話をするだけして、姿を消すのはいつもの事だ。それに……」

「それに?」

「キャスからの助言は期待せぬ方が良いぞ。少なくとも、過去である今はな」

 過去である今?

「なんですか? その変な言葉は」

「その時が来れば分かるであろう。今の朕からはなにもできぬ」

「よくわかりませんが、わかりました」

「ところで、成功報酬についてまだ話をしてなかったな。金銭の他に、なにか求める物はあるか」

 求める物!?

「アマラちゃんさまをまた抱っこして頭撫で撫でしてほっぺたすりすりしてもいいですか!?」

「たわけ! 誰がさせるものか! というかそちはまた朕の事をその様に呼んだな!」

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