121・死んでるくらいでなに黙ってるのよ

 最東の島へ向かうための船は、プラグスタ島へ向かう時に使った物と似たような船で、魔力を動力源としており、ラーズさまが船に魔力を供給している。

 船に揺られながら、セルジオさまが大地の剣ディフェンダーを手にして眺めている。

「ふーむ、これが大地の剣ディフェンダー。見事な業物」

 一騎打ちで、私が巨人ラドゥに勝ったことで、大地の剣ディフェンダーを手に入れることができた。

 十メートルの大きさだった大地の剣は、今は二メートルまで小さくなっている。

「大地の剣ディフェンダーは持ち主によって大きさが変化するのです。そして、通常の状態では剣として。魔武アーマー装着セッティングすれば鎧として使える剣です」

 そしてこの剣も、やはりラーズさまの魔力には耐えられなかった。

「ですがセルジオさまには最適なのではないでしょうか。大地の剣ディフェンダーは持ち主によって大きさが変わります。つまり、私たちの中では最も体の大きいセルジオさまが、最も大きな状態で使えると言うことですから」

 キャシーさんが、

「それに、いざという時に鎧になるなら、防御主体で戦うダーリンなら特性を活かせるんじゃないかしら」

「では、吾輩がこの剣を使うということでよろしいかな。ラーズ殿下」

「俺が戦ったわけじゃないから、決めるのはクレアだ」

「ではセルジオさまが使ってください」

「分かり申した」

「ところでスファルさま、酔い止め薬は効きましたか?」

 船べりで力無く座り込んでいるスファルさまに聞いてみた。

「……ダメだ。あのチッコイ帝がくれた薬、全然効果ない。気持ち悪い。吐きそう。っていうか、吐く。オボロロロロロ」

 と、海に向かって見たくない聞きたくない嗅ぎたくない物を吐きだし始めた。

 ゲームで言えばクライマックスの直前だと言うのに、この人って。



 魔王城のある島に上陸した際、使節団の紋章を無視されて魔物と戦闘になった場合は、私たちは逃げるか倒した後、そのまま隠密で魔王城に潜入することになる。

 そのために、魔王城のマップは私が憶えている限りの部分を作成しておいた。

 隠し通路や、隠し部屋も。

 これは私一人の力ではなく、ミサキチのネタバレトークによるところが大きい。

 これでバルザックが攻略本を読まないタイプだったら、魔物との戦闘を大きく回避することができる。

 上手くいけば、魔王バルザックと直接会うまで、魔物との戦いを全て避けられるかもしれない。

「ミサキチがいなかったら、もっと苦労していたでしょうね」

 操舵しているラーズさまは怪訝に、

「ミサキチというのは何者なんだ? 君に未来の事を教えたのは、その人物なのか?」

「ある意味そうとも言えます。あの子、自分の知ったことをひけらかすくせがあって、私が楽しみにしているのに、それを先に言っちゃうんですよ。でも、そのおかげで魔王殿の中も詳しく分かるのですけど」

「そのミサキチという人物は、未来の事を知って、それを君に教えたと言うことなのか? ではその人物こそが、神託を受けた聖女ということになるのではないのか?」

「あははは、それはないです」

 私は一頻り笑うと、みんなに説明を始めた。

 ここまで旅をしてきた仲間だ。

 少しくらい話をしても問題ないだろう。

「カスティエルさまの話で、もう気付いているのでしょう。私が前世の記憶を持っていることを。私が知っているのは、その前世で読んだ物語」

 私はゲームの物語を簡略に話した。

 ゲームそのものの説明は困難なので、小説だと翻案して。

「では、君やミサキチは、前世で神託を受けたのではないのか?」

「それだと、あの物語を読んだ人はみんな神託を受けたと言うことになってしまいます。あの話を読んだ人は結構多いですから。

 そして、バルザックもそのうちの一人。あの物語が神託なら、バルザックも神託を受けたと言うことになります」

「では、なぜ前世で読んだ物語が、未来である現在に、実際に起こっているんだ?」

「それは分かりません。仮説ならいくらでも立てることはできますが、立証することは不可能です。

 あの物語を前世で読んだ時は、ただの作り話にすぎない。そう思っていました。それが普通で当然のはずです。

 でも、前世の記憶を思い出して、その架空の物語が現実に起きていると気付いた時は、一体何事かと思いました。

 きっと、バルザックも私と同じ思いだったのでしょう。そしてバルザックは、物語が現実になることを知って、その未来を変えようとしているんです。

 あの物語は、聖女と勇者たちが、魔王と魔物を倒して、世界を救う物語。でも、見方を変えれば、魔物が人間に虐殺され、絶滅に追いやられる物語。

 バルザックはその未来を変えようとしている。

 私もその未来を変えたいと思います。そのためには彼女を、魔王バルザックをなんとしてでも説き伏せなければなりません。でも、どうやればいいのか、どんな言葉を用いればいいのか、まだ見当もつきませんが」

 ミサキチならどうしただろうか?



 ふー。

 やっと舟を手に入れた。

 それにしてもほんと貧相な舟ね。

 この聖女リリア・カーティスには相応しくないけど、まあ寛大な心で許してあげるわ。

 感謝してよね。

 って、返事ないわね。

 死んでるくらいでなに黙ってるのよ。

 ほら、喋りなさいよ。

 ありがとうございますくらい言えないの?

 まったく。

 ビンボーな漁民は礼儀も知らないのね。

 まあいいわ。

 時間が無いんだから早く行かなくちゃ。

 魔王城のある最東の島まで急がないと。

 悪役令嬢クリスティーナ・アーネストより先に、魔王城に着かなくっちゃ。

 そこで待ち構えて、ラーズにわたしの清らかな心を見せて、光の魔力に目覚めさせるのよ。

 うふふふ。

 もうすぐよ。

 待っててね、ラーズ。

 聖女のわたしが真実の愛を教えてあげて、勇者にしてあげる。

 そして二人で一緒に悪役令嬢を倒して、魔王をやっつけましょ。

 それから二人は永遠の愛で結ばれるのよ。

 ラーズ、二人の愛で世界中のみんなを幸せにしましょうね。

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