119・貴方に勝負を申し込みます!
私たちは沿岸部で、カナワ神国軍と魔王軍が睨み合いをしている、真中にいる。
私たちはカナワ神国軍側に、そして魔王軍側には四天王ラドゥを筆頭とした魔王八巨衆。
開戦前の話し合いの場として、この場所が選ばれ、そして私たちに全権委任された。
でもこれは、開戦前の駆け引きではなく、休戦の申し込み。
それにしても、大きい。
巨人の体は三メートル以上あると、本で読んだことはあるけど、目の前にいる八巨衆は五メートルから八メートルはある。
特に巨大なのは、四天王ラドゥと、その両側にいる二人。
十メートル以上はある。
臆するな。
威圧されるな。
圧倒されたら、それを見抜かれて、休戦の申し込みを承諾しなくなる。
ラドゥは背に刃渡り十メートルはある大剣を担いでいる。
あれが大地の剣ディフェンダー。
私はできるだけ大きな声で話す。
「魔王四天王ラドゥ。話し合いに応じていただき、感謝します」
「ふん。話を聞いてやるくらいのことはしてやる。だが、丸めこめるとは思うな」
私は二つの要点を直接的に伝えた。
私たちが魔王バルザックの所に赴き、和平交渉を行うこと。
その会談が終わるまで、軍を動かさないで欲しいこと。
「それが嘘ではない証拠は? 我らが軍を停止している間に奇襲しない保証は?」
「まず、人質を返還いたします」
「人質だと?」
私は右手を上げて、後方に控えている軍に合図を送った。
馬車が三台、こちらに向かってくる。
到着し、そこに乗っているのは、縄で縛られた
「彼らを殺すことはしませんでした。彼らを貴方達に返します。これで私たちが無用な殺傷はしないと理解していただけますか?」
「我らを油断させる策かもしれん」
「もう一つあります。あなたは魔王バルザックから魔神の事は聞かされているはず」
「魔神か」
「はい。これを貴方に渡します。これを渡せば、貴方達を倒すのは困難になる。これを渡すことを条件に、休戦に応じていただきたいのです」
ラドゥはしばらくの沈黙の後、
「我からの返答はこうだ。大人しく降伏し、魔王様の支配を受け入れれば、魔王様の庇護のもと、命の保証はしてやる」
「要求を拒否すると言うことですか」
「当然だ。貴様ら邪悪な人間と取引することなどありえぬ。さあ、降伏するか、否か?」
「魔神と戦って勝つ自信があると?」
「ふん。魔王様は未来を知っておられる。魔神の事も当然 知っておられた。そのための対策も我に伝えられた。魔神だと? 人間如きが作った偽りの神など、我が粉砕してくれるわ!」
交渉は決裂だ。
もう、戦は避けられない。
でも、全軍が激突すれば、大勢の死傷者が。
なにか手を考えないと。
考えるのよ、クレア。
「……では、貴方に勝負を申し込みます!」
「なに?」
「私と貴方で一騎打ちです! 貴方が勝てばカナワ神国は全面降伏します! しかし、私が勝てば、先程の条件の下、軍を停止してもらいます!」
「面白い。いいだろう! その勝負、受けて立つ!」
ラドゥは配下に、
「他の者は動くな! 我がこの者と戦っている間 けして手を出すな! これは戦士 同士の一騎打ちである!」
戦いの前に、その場から少し離れて、みんなと話をする。
「お嬢さん、大丈夫か? 俺が代わりに戦おうか?」
とスファルさま。
「いいえ。私が言いだしたことです。私が責任を持って戦います。大丈夫。私には魔神があります」
「でも、クレアちゃん。あの天使が言ってたけど、実際の敵って、貴女が知ってるよりも強いんでしょ。ラドゥもどれくらいの強さなのか」
「わかっています。ですが、魔神は八巨衆全員と戦っても勝てるほどの物でした。だから勝算はあります」
セルジオさまが、
「それだといいのであるのだが、あの巨人、凄まじい力を感じる。筋肉だけではない。魔力も並々ならぬものを感じる」
四天王ラドゥのランクはSのはず。
それを今回は私一人で戦うことになる。
ラーズさまが、
「大丈夫だ、みんな。クレアが勝てると言っているんだ。なら、クレアは必ず勝つ」
「その通りです、ラーズさま。私は絶対に勝ちます」
私は請け負った。
私はラドゥと相対する。
「話は済んだか?」
「話しと言うほどのものではありません」
「小さき者よ。魔王様と同郷であるという話だが、そうであっても手加減はせんぞ」
「分かっています」
「遺言を残しておかなければ、後悔することになるぞ」
「遺言など必要ありません。私は貴方に勝ちますから」
「小さな体で大した自信だ。では、そろそろ始めるとするか」
「ええ、始めましょう」
私は胸のペンダントに触れた。
「
ペンダントが質量保存の法則を無視して膨張し始めた。
それは無数の機械の部品となり、操縦席に私を乗せた状態で、組み上がっていく。
魔神の正体。
それは、一言で言えば巨大ロボットだ。
巨人族はその体の大きさから物理耐性が強い。
そこで対巨人戦を想定して作られたのが、全長十メートルのロボット。
魔法の核が操縦者の精神に同調し、自分の体を動かすのと変わりなく意のままに操ることができる。
「ふん。それが魔神か。その醜悪な姿、まさに人間が造った偽りの神。我の敵ではない!」
ラドゥは背負っていた刃渡り十メートルの大剣を手にした。
「
大地の剣ディフェンダーの刃が分解され、ラドゥの体に装着されていく。
鎧に変化する剣。
それが大地の剣ディフェンダー。
「いくぞ!」
ラドゥがストレートパンチを繰り出してきた。
私は魔神の左腕に装着されている盾でそれを受け止めた。
凄まじい激突音。
私は腰に差してある柄を手にする。
そこには柄だけしかないが、しかし意識すれば、そこから光の刃が発生する。
前世での超有名映画、星戦争に登場した、光の剣と似たようなもの。
刃渡り五メートルの光の刃を、私はラドゥの腕を狙って振り下ろす。
ラドゥは拳を引いて回避。
距離を取るラドゥに向けて、私は胸部の銃砲を向けた。
光の攻撃魔法、
ラドゥは腕を正面に組んで、その光の矢を受け止める。
「ヌゥウウウウウン!!」
砂埃が舞い、それが収まると、平気な顔で立っているラドゥ。
「ふん! これきしの攻撃、我には雨風にも及ばぬ!」
大丈夫。
ハッタリだ。
その証拠に鎧に変化して装着されている大地の剣が少しへこんでいる。
小さい攻撃だけど、それを何十発も受けたのだ。
ダメージは蓄積しているはず。
「さて、次は我の番だ」
ラドゥの両篭手から剣が伸びる。
刃渡り三メートル以上の剣。
ラドゥは魔神の頭部と胴部を狙って同時に袈裟切り。
私は胴部への攻撃を盾で防御し、頭部への攻撃を剣で受け止めた。
「ヌウウウ!」
ラドゥは力任せに押し込んで、斬り倒そうとして来る。
でも、頭部を攻撃しているラドゥの剣と、私の光の剣が接触している部分が、赤銅色に変わっていった。
「なに!?」
ラドゥの剣が融解して折れた。
力が行き場を無くして、ラドゥの腕が振り下ろされ、無防備な瞬間を狙い、私は剣の柄でラドゥの頭を強打。
続けて腹部に拳をめり込ませる。
「グゥッ!」
苦痛の呻き声を上げて、距離を取るラドゥ。
そこに私は再び光の矢を連発。
「ヌアアア!!」
腕で防御できずに打たれるがままになっているラドゥ。
私はそこに魔神の肩から二発の
「グヌッ! ガアッ!」
ラドゥは爆発に煽られる。
行ける。
勝てる。
私は操縦席の画面表示を確認した。
魔神の動力源残量はまだまだ残っている。
ラドゥの能力なども
残りダメージはあと半分くらい。
ランクはS。
フェニックスさまや
これなら私一人でも魔神があれば問題なく勝てる。
ラドゥのダメージが三割を切ったところで、私は一旦攻撃を中止した。
片膝を付いているラドゥに私は、
「降伏してください。貴方を殺したくはありません。貴方を殺してしまったら、魔王バルザックと和平条約を結ぶのが困難になってしまいますから」
「むうぅ。魔神がこれほどの物だったとは。やむを得ん」
「降伏していただけるのですね」
「否! 我は降伏などせぬ!」
降伏しない?
「魔王様に頂いたこれは、一度しか使えぬ物。だが、しかたあるまい。我は負けるわけにはゆかぬのだ」
なにか奥の手があるの?!
ラドゥは左腕の篭手を解除した。
その中指に宝玉が付いた指輪が嵌められている。
「ヌウゥウン」
ラドゥは力任せに握り、その指輪の宝玉を握力で破壊した。
同時に膨大な力が発動し、それがラドゥの体に吸収されていく。
「なにをしたの!?」
「これが魔王様から頂いた、魔神の対策法。一時的に自らの力を高める秘宝だ」
ラドゥの体が変化していく。
腕が六本。
頭部の両側にも顔が現れる。
三面六臂の姿。
画面の表示を見るとダメージが八割まで回復し、ランクがSSと表示されていた。
「どうだ! 今の我に貴様一人で太刀打ちできるか!?」
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