84・一緒に理想を実現させましょう

 それから わたしたちは一日おきに 交互に犯された。

 牢から出された時なら、隣の牢のローレスの顔が見れると思ったけど、間取りや角度の関係で、ローレスを見ることはできなかった。

 そして、男たちの相手をさせられるときは、必ず一人だった。

 二人一緒に出してくれれば、ローレスに首輪を外してもらうチャンスもあるかもしれないのに。

「たぶん、あいつらもそのことを考えて、私たちを一緒にはさせないのだと思う」

 下劣で汚らわしいくせに、そういう悪知恵は働くのね。



 そんな毎日が続き、わたしはローレスと色々お話をした。

 どうやって脱出するかだけではなく、身の上話も。

「そう、貴女、貴族なの」

 そうよ。

 王子と婚約してた。

 あなたはわたしのこと知らないの?

「この国には初めてきたから。他の国で噂は聞いてたけど、名前までは知らなかったわ」

 そうなの。

 オルドレン王国は初めてだったのね。

 ごめんなさい。

「どうして貴女が謝るの?」

 こんなことがおきないように、わたしは一生懸命頑張って考えて、犯罪撲滅のための政策を実施してきたのに、わたしの力不足で貴女のような犯罪の被害者が生まれてしまった。

 本当にごめんなさい。

「謝らなくていいのよ。貴女は自分の信念に基づいて努力をしたのでしょう。それだけで立派よ」

 本当?

「ええ。貴女は信念の人よ。理想を実現するために努力を惜しまなかった。多くの人は理想を口にしても、実際に行動に移すことは少ないわ。実行しただけでも、貴女は優れている。きっと、多くの犯罪の被害者が生まれるのを、貴女は阻止することができたはず。みんなが貴女に感謝してるわ」

 あ、ありがとう……ヒック……ヒック……

「どうしたの? 泣いてるの?」

 なんだか、嬉しくて……



「私たちはいつか街商人になることが夢だったの。拠り所の無い行商人じゃなくて、落ち着いた生活のできる街商人になる事が。そうすれば、子供も産める。たくさん産んで、育てることができる」

 素敵な夢ね、

「貴女がこのまま王子と結婚して、王子妃になっていたら、きっと安心して生活できたでしょうね。誰もが安心して暮らせる犯罪のない理想の国」

 あのね、わたしが実施した政策って他にもあるの。

 わたしは年金制度や生活保護の事を話した。

「まあ、なんて素晴らしいの。みんなが飢えることなく、豊かな生活を送れるわ」

 そうでしょう。

 ……でも、ダメだった。

「どうして?」

 反乱が起きたの。

 わたしの政策に反対する人も多くて、その人たちがみんなを騙して、反乱を起こしたの。

 その中には、わたしが信じてた人もいた。

 政策に賛成しているふりをして、裏じゃ反乱の準備をしてた。

 反乱が起きたのはわたしがここの男たちに捕まった日よ。

 大勢 殺されたみたい。

「まあ、なんて酷い」

 わたしは貧しい人を救いたかっただけなのに。

 みんなが犯罪に怯えず、安心して暮らせる国したかっただけなのに。

「気を強く持ちなさい。望みはあるわ。ここから脱出して、他の国に助けを求めるの。必ず貴女の信念に共感して、理想の実現に協力してくれる人たちがいる」

 本当?

「そうよ。だから、必ず二人で一緒にここから脱出しましょう。その時は、私も貴女の旅に付いて行ってあげる」

 一緒に来てくれるの?

 でも行商はどうするの?

 街商人になるのが夢なんでしょう?

「もう、あの人が死んでしまったから意味はないわ。それよりもっと意義のある事がしたい」

 じゃあ、本当にわたしに付いて来てくれるの?

「ええ。貴女の素晴らしい理想を実現する手伝いをさせて頂戴」

 わかった。

 一緒に理想を実現させましょう。



 今日もわたしは男たちに犯されている。

 何日経ったのか、時間の感覚がなくなってきている。

「おい、これがなんだかわかるか?」

 男の一人が私の目の前に、鍵をぶら下げてきた。

「へへへ、おまえに付けた首輪の鍵だ。これがあれば首輪を外すことができるぜ」

 わたしは無意識にそれを取ろうと手を伸ばしたけど、他の男がわたしの手を押さえつける。

「ふへへへ、鍵が欲しいか。ほら、頑張って見ろ」

 わたしを犯しながら、嘲笑する男たち。

 鍵が欲しい。

 でも、男たちに押さえつけられて身動きが取れない。

 そんな状態で、男たちは鍵を見せつけてくる。

 わたしを悔しがらせるために。

「おい、もういいだろ。首輪を外されたら大変だぜ」

「ああ、そうだな」

 男たちはそんなことを言いながら、鍵をしまった。

 右側の壁にある戸棚の一番左の引き出しの中。

 あの中の鍵を手に入れることさえできれば。

「あー、しっかし、無理やり犯すのもあきてきたな」

「ああ、まったくだ。たまには自分から誘ってくる淫乱女とやってみたいぜ」

 誘ってくる淫乱女?

 わたしは作戦をひらめいた。

 単純だけど、この方法なら。

 でも、どうやって?

 鍵はあの引き出しの中。

 ローレスに頼むしかない。



 男どもに散々玩ばれて、夜遅くになって、牢に戻された。

 わたしは疲れ切って、体は麻痺しているみたいに感覚が無いけど、ローレスに作戦を話さなくちゃ。

 ローレス、起きてる?

「起きているわ。どうしたの?」

 聞いて。

 わたしの首輪を外す鍵の場所が分かったの。

 向かって右側の壁にある戸棚の一番左の引き出しの中。

「じゃあ、あとはチャンスを窺って、それを取れば、貴女の首輪をはずすことができるわね」

 そして、魔法が使えるようになる。

「わかったわ。あいつらの相手をさせられるときに、なんとか隙を窺いましょう」

 いいえ、無理よ。

 いつもと同じように我慢してるだけじゃ、あいつらから鍵を奪うことなんてできない。

 でもね、作戦があるの。

「どんな作戦なの?」

 あなたにお願いがあるの。

 あの男たちを誘惑して欲しいの。

「……どうしてそんなことを……」

 あいつら、わたしたちを無理やり犯すのにあきてきてるみたいなの。

 自分から誘ってくるような淫乱な女としたいって言ってたわ。

 だから、誘惑してあいつらの油断を誘えば、隙ができて鍵を取ることができるはずよ。

 お願い。

 旦那さまを殺した男たちに犯されるだけでも拷問なのに、その上、自分から誘惑するなんて、気が狂いそうになるかもしれない。

 でも、あなたにしかできないの。

 だって わたしは男を誘惑する方法なんて知らないもの。

 わたし、あいつらに犯されるまで処女だった。

 男を喜ばせる方法なんて見当もつかない。

 そんなわたしが誘惑したって、すぐに見抜かれちゃう。

 でも、あなたは結婚もしていたし、旦那さまとの夜の生活だってあったでしょう。

 お願い!

 あいつらを旦那さまの時の様に誘って欲しいの。

「……」

 ローレスは長い時間、沈黙していた。

 だけど、次に声が聞こえた時、わたしのお願いを聞いてくれた。

「分かった。やるわ。必ず鍵を手に入れるわ」

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