85・貴女は聖女なの?

 次の日、ローレスが犯されるために牢から出された。

 そしていつもより長くかかっている。

 きっとわたしが言った通りにやってるんだわ。

 お願いローレス。

 必ず鍵を手に入れて。

「へへへ、今日はずいぶん積極的だったな」

「……ええ」

 ローレスが戻ってきた。

「ねえ、私まだ足りないの。せっかく二人っきりになったんだから、ここでしましょう」

「ふへへへへへ。なんだぁ? おまえ本性は淫乱かぁ?」

「そうなの。あの人は私を満足してくれなかったの。でも、ここにきてからは毎日すごくて。女の喜びを知ったわ」

「そうかそうか。いいぜぇ。楽しませてやるよ」

「そうだ。あの娘にも見せてあげたら。私が隣の娘のお手本になってあげるわ」

「ああ、そいつはいい」

 男とローレスがわたしの牢の前に来た。

 そしてローレスの顔を初めて見た。

 茶色の波打つ長い髪はぼろぼろになっていて、眼は虚ろ。

 それでも気丈に気力を振り絞って、男を誘っている。

「おい、男を喜ばせる手本を見せてやるってよ。良く見ておけ」

 ローレスを牢の鉄格子に掴ませると後ろから犯し始めた。

 そしてローレスの手には、鍵があった。

 ローレスがその手を牢の中に入れる。

 わたしは男に気付かれないよう、その鍵を受け取ると、首輪の鍵を外し始めた。

 でも鍵穴の位置が見えないから上手くいかない。

「ああぁー、たまんねえ。おい、リリア、ちゃんと見てるか? こうやって男を喜ばせるんだ」

 男はわたしが首輪の鍵を外そうとしていることにまだ気付いていない。

 早くしないと。

「おい、返事しろ」

「ねえん、そんなことよりもっと動いてぇ。こんなんじゃ私、気持ち良くなれないわぁ」

「そうかそうか。それならこれでどうだ!?」

「ああん! 素敵ぃ!」

 その調子よローレス。

 わたしから注意を逸らして。

「おおお! イクぞ!」

「え? 待って! まだイかないでぇ!」

「あああ! もう我慢できねぇ! うお!」

 男が声を上げるとローレスから離れた。

「ふー、スッキリしたぜ。どうだ? 満足したか?」

 ローレスは歯を食いしばってとてつもない苦痛に耐えているかのような表情。

「……ううぅ……い、いいえ、まだよ。もっと出来るでしょう」

「おいおい、俺はもう限界だぜ。明後日にまたしてやるからそれまで我慢しろ。明日はその若い方の番だしな」

 と、わたしを見てしまった。

 そして眼の色を変えた。

「おい! おまえなにしてる!」

 男が叫ぶ。

 早く外さないと。

「ねえ! そんな娘に構ってないで私としましょう!」

「おまえ騙してやがったな!」

「グッ!」

 男はローレスを殴りつけると、牢の鍵を取りだして、鍵を開けた。

 あともう少しなのに!

「その鍵を返せ!」

 ピンッ。

 首輪の鍵が外れた!

「しまった!」

 わたしは首輪を投げ捨てると、魔法を使う。

 雷光電撃ライントニングボルト

「グギャアアア!」

 男は一撃で動かなくなった。

 やった!

 さあ、ローレス、早くここから逃げましょう!

「分かったわ」



 わたしたちは牢屋の扉を開けて、廊下を走った。

 だけど、男の悲鳴を聞きつけて、他の男たちが前に立ちふさがる。

 まだ十人はいるけど、こんなの魔法が使えるわたしの敵じゃない。

 雷光電撃!

 ……あれ?

 魔法が出ない。

「危ねえ、危ねえ。これがなかったらやられるところだったぜ」

 男は腕輪を見せてきた。

「こいつがなんだかわかるか。これも魔法具さ。音声遮断サイレントの効果がある」

 音声遮断!?

「これでおまえは魔法が使えなくなった」

「お頭! 牢で一人やられてますぜ!」

「ちくしょう。よくもやりやがったな。こうなりゃ二人とも死ぬまで犯してやる」

 そんな……

 やっと首輪を外せたのに。

 ここから出られると思ったのに。

 どうして、こんなことに。

 ごめんなさい、ローレス。

 わたしに力がないせいで。

 わたしに力があれば。

 わたしにもっと力があればあなたを助けられたのに。



 貴女は力が欲しいですか?

 ……え?

 貴女は力を望みますか?

 誰?

 貴方は力を求めますか?

 なにを言ってるの?

 力を求め望み欲するのなら……

 いったい誰なの!?

 与えます!!



 わたしの体が光り輝き、体内で熱が弾けたのが分かった。

 錯覚なのかどうかわからないけど、なにが起きたのかは分かった。

 そう、わたしはこれを始めから知っていた。

「なんだぁ!?」

 パキンッ、と音を立てて男が持っている魔法具が壊れた。

 音声遮断が解除された。

「おおお頭! なにが起きたんですか!?」

「うろたえるな! とにかくそいつをぶっ殺せ!」

 男たちが武器を手に迫って来るけど、わたしは慌てなかった。

 今のわたしは、さっきまでのわたしと違う。

 こんなに強い力を感じる。

 わたしは男たちに向けて魔法を放つ。

 雷光放電ライトニングプラズマ

 光の上級魔法。広範囲に効果のあるそれは男たちを全て巻き込む。

「「「グギャアアアアア!!!」」」

 男たちは全員、一撃で死んだ。



 ローレスがわたしを呆然と見ている。

「貴女、いったい?」

 ああ、ローレス。

 神託よ。

 わたしは今、神託を受けた。

 女神から力を授けられたの。

「女神から……それじゃあ、貴女は聖女なの?」

 そうよ。

 わたしは 聖女 リリア・カーティス。

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