83・私は夫と約束したのだから

「ヒャハハハハハ。こいつ処女だぜ」

「くっそー。俺が先にやればよかった」

「慌てるな。みんなで順番に可愛がってやれ」

 どうして?

 どうしてこんなことに?

「なあ、あの魔法の宝玉、使ってみねえか」

「ああ、心を見ることのできる宝玉か。そいつはいい」

「ふへへへへ。こいつ、なに考えてんのかな?」

 この私がこんな汚らわしい奴らに。

 わたしを誰だと思ってるの!

 リリア・カーティスよ!

 ヒロインよ!

 聖女よ!

「誰だよ、女は犯されて喜ぶっていったやつ。嫌がってるだけじゃねえか。まあ、これもいいけどな。嫌がる女を犯すのはたまんねえぜ」

「しっかし、なんだこいつ? ヒロインとか 聖女とか、わけわかんねぇこと考えてるぜ」

「犯されて頭がおかしくなったんだろ。ヒャハハハッ」

 あの女のせいで。

 クリスティーナ・アーネスト。

 おまえが生きてるから。

 おまえが大人しく死んでないからこんなことに!

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ! こいつ、自分が殺した女がまだ生きてて陥れたと思ってやがる」

「おい、俺たちだって知ってるぜ。王子の婚約者になるために、恋敵を陥れて処刑したこと」

「国中で噂になったからな。生きてるわけねえだろ。竜の谷だぞ」

「あんな深い谷に落とされて生きていられるわけないって。万が一 生き延びても、竜のエサだ」

「そんなこともわかんなくなっちまったか。ま、当然だな。おまえ、政治に口出しして滅茶苦茶やったそうだからな」

「なんか貧しい民を救うとか言って金をばら撒いたそうだけどよ、その金はどっから来てると思ってんだ?」

「救うとか言った貧乏人から吸い上げてんだよ」

「おかげで俺たちの商売もあがったりだ。みんな金を税金で取られて懐に硬貨一枚入っちゃいねえ」

「それに犯罪者になるかもしれないっておまえが言った連中、オタクだったか? そいつらを収容所に入れたり」

「この国の産業だった小説とか演劇も次々、廃止にしたそうだな。犯罪の原因になるとかって理由で」

「だけどよ、俺たち頭の悪い馬鹿だから本だとか演劇、見たことねえんだよな」

「でも俺たち立派な犯罪者だ。ヒャハハハハハ!」

「犯罪を考えただけでも収容所に入れるそうだぜ」

「じゃあこの国の人間、全員 収容所送りだ。気に入らねえ奴をぶん殴りたいなんて誰だって考えるに決まってる」

「ま、おまえは国をめちゃめちゃにしただけだな。ヒャハハハハハ」



 何時間 経ったの?

 もう、感覚がない。

 その頃になって、汚い男どもはやっとやめた。

「ふー。久しぶり若い女とやれてすっきりしたぜ」

「しかも処女だったしなぁ」

「牢屋に閉じ込めてある女は年増だしよ」

「それにもうあきてきたしな」

「これで当分、楽しめるぜ」

「ヒャハハハハハ」

 牢屋に閉じ込めてある女?

 わたしの他に誰かもう一人いるの?

「ところであの噂、聞いたか?」

「なんの話だ?」

「最近、とある冒険者があちこちで活躍してるってよ」

「冒険者?」

「ああ、ラムール王朝の白剣歯虎ホワイトサーベルタイガーを倒したり、コルトガ共和国の吸血鬼ヴァンパイアを倒したり。アドラ王国の建国祭で歌姫になれるかどうかまでいったとか、殺人事件を解決したとか。他にも色々」

「へえ、いいじゃねえか。魔物が死んでくれれば、俺たちも安全になる」

「馬鹿、冒険者が相手にするのは、魔物だけじゃねえんだぞ。俺たちみたいな野盗も討伐対象に入ってるんだ」

「じゃあ、そいつらが、この国に来たら」

「俺たちもやられるかもな」

「まあ、注意しとこうぜ」

「だけどよ、冒険者ってだけじゃ、大雑把すぎてわかんねえだろ。なんか特徴はねえのかよ」

「あー、聞いた話だと、五人組らしい。聖堂騎士テンプルナイト筋肉派マッスルセクトが二人。闇の魔力を持っている奴が一人。良いとこのお嬢様みたいなやつが一人。あと一人が、なんか分身体ドッペルゲンガーを作るとかって」

「分身体? なんだそりゃ?」

「いや、俺も意味わかんねえけどよ」

 分身体ドッペルゲンガー

 それって、鏡水の剣シュピーゲル?

 クリスティーナだわ。

 やっぱりあの女、わたしを陥れてヒロインになる方法を思いついたんだわ。

 闇の魔力を持っている人ってラーズのことね。

 あの女はラーズを騙して一緒に旅してる。

 だからおまけキャラのラーズが現れなかったのよ。

 なんとかして早くラーズの目を覚まさせなくちゃ。



 わたしは家の奥にあった牢に入れられた。

 ドレスは破かれて私は裸のまま。

 牢の中に一枚、薄くてぼろぼろの毛布があったから、それで体を包むけど、全然温かくない。

 それにこの毛布、変な臭いがする。

 これ、洗ってないんじゃ。

 わたしは毛布を隅に捨てた。

 首輪をはずそうとしてみるけど、鍵がかかってて外れない。

 もう、どうすればいいのよ!?

「ねえ、大丈夫?」

 隣の牢に誰かいる。

 壁で遮られて見えないけど、女の人の声だ。

「貴女もあいつらに襲われたの?」

 ええ、そうなの。

 そういう、貴女は?

「私も一緒。夫と行商人をしてたのだけど、あいつらに襲われて」

 そうなの。

 旦那さまは?

「……殺されたわ」

 まあ、気の毒に。

「それより、そっちの牢にはなにかない? 逃げ出す道具になりそうな物とか」

 いいえ、汚い毛布があるだけ。

「そう。名前、まだ言ってなかったわね。私はローレス。貴女は?」

 リリア・カーティスよ。

「良い名前ね」

 ありがとう。

 お互い名前は知ったけど、顔が分からない。

 こんな状況じゃ見ることもできない。

 同じ境遇の仲間なのに。

 こんな状態でわたし、助かるの?

「大丈夫、私たちはきっと助かる。いいえ、絶対に助かってみせる。私は夫と約束したのだから」

 約束?

「ええ。あいつらに襲われた時、どんなことがあっても最後まで生き延びるって、夫と約束したの。夫は殺されてしまったけど、私は諦めない。ここから必ず脱出して助かってみせるわ。あいつらになにをされても、私は絶対に諦めない。だから貴方も諦めないで。どんなことをされても耐えて脱出のチャンスを窺うの」

 わかったわ。

 わたしも貴女を見習う。

 絶対に諦めない。

「ええ、諦めないで、チャンスを窺うのよ」

 わかった。

 約束しましょう。

 二人で必ずここから脱出するって。

「約束するわ。二人で必ず助かりましょう」

 足音が聞こえてきた。

「静かに。あいつらが来たんだわ」



「なに喋ってやがる。黙ってろ。おら、飯だ」

 スープの入った皿が牢に入れられた。

 一日以上なにも食べてなかったから、ホントに死にそうだったわ。

 これで、少しはおなかも膨れる。

 そう思って、わたしはスープを飲もうとしたけど、止めた。

 スープの表面に小さな羽虫が数匹、浮いてる。

 ちょっと、これ虫が入ってるわよ。

「ああ? だからなんだ? いいから黙って食え」

 虫の入ったスープを飲めっていうの!?

「知るか! 食いたくなきゃ勝手にしろ!」

 そういって男は出て行ってしまった。

 こんなものを口にするなんて。

 隣の牢のローレスが、

「我慢して食べて。食べないと体力が持たないわ」

 うう、仕方ないわね。

 私は虫を指で取ると、眼を閉じて、スープを喉に流し込んだ。

 これ、変な味がする。

 気持ち悪い。

 吐きそう。

 でも、がまんしなくちゃ。

 脱出する前に飢え死にしちゃう。

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