7・やればできる

 私はラーズさまを鏡水の剣シュピーゲルの場所へ先導する。

 竜の谷の底にある河の下流に向かって進む私たち。

 不意にラーズさまが質問してきた。

「ところで、君が使ったあの魔法はなんだ? あの魔法を見て駆け付けたのだが、炎を纏った竜巻など見たことも聞いたこともない」

 私は説明するべきかどうか逡巡したが、しかし命の恩人に黙っているわけにもいかない。

「あれは私が開発した、合成魔法です。風の魔法、竜巻トルネードと、火の魔法、火炎円柱フレイムコラムを合成させたのです」

 ラーズさまは確かに驚いた顔をした。

「そんな方法、聞いたことがないぞ」

「まあ、普通はできないでしょうから」

 ゲーム、ドキラブ学園2では、合成魔法というものがある。

 二人が同時に魔法を使用し合成することで、二つの属性を持ち、なおかつ威力の高い魔法を行使可能となるバトルシステム。

 それを私は、一人で行使した。

 普通の魔法使いにはできないこと。

 これは私が特殊な才能に恵まれたからだ。

 ゲームでは悪役令嬢クリスティーナの魔力についてなんの説明もなかったが、私は前世の記憶を思い出してから、自分の素質について研鑽してきた。

 ファンタジーな世界で魔法とくれば修行せずしてどうするというのか。

 だって燃えるじゃん。

 この世界で魔力の属性は 地 水 火 風 光 闇 の六つ。

 レベルは初級、中級、上級、達人級、伝説級。ゲームでは神話級、創世級というのもあった。

 そして私は、普通なら一つの属性しか持たない魔力を、地水火風の四つを保有しているという、珍しいことが判明した。

 属性が多いということは、その分、魔法を使うことにおいて有利に思える。

 しかし実際はそうでもない。

 複数の属性を持つ者、特有の現象として、低級の魔法にしか達しないということが上げられる。

 複数の属性魔法を使える代わりに、なぜかレベルが低いものしか使えないのだ。

 器用貧乏と言ったところか。

 保有する魔力が複数に分散されてしまうからだと言われているが、まだ解明されてはいない。

 当然のように、一般的には高レベルに達する可能性を持つ、一つの属性だけの者の方が良いとされる。

 だが、私にはゲームの知識があった。

 合成魔法の存在。

 阿吽の呼吸、一心同体の状態でなければ使えないという設定になっている、合成魔法。

 キャラクターたちは多くの戦闘を経験することによって、チームワークが鍛え上げられ、それを可能にするということになっている。

 まあゲームシステム上では、組合せ可能な魔法がほぼ同時に行使された場合、発動されるという、偶然要素が強い魔法だ。

 しかし、発動されれば威力は一段上がる。

 初級魔法の合成なら、中級に。中級魔法の合成なら、上級に。

 そして四つの属性を持つ私は、他の人の力を必要とせずに合成魔法を発動できるのではないだろうかと考え、練習の末、二つだけだが体得した。

 その一つが、初級魔法の風の矢ウィンドボルト石の矢ストーンボルトを合成させた、飛礫突風ストーンブラスト

 もう一つが、火炎竜巻フレイムトルネード。中級魔法の火炎円柱フレイムコラム竜巻トルネードの合成魔法。

 私はラーズさまに、ゲームのことはなんとか避けながら説明した。

「驚いた。よく、発動できるまで練習したものだ。考えた者ならば他にもいただろうが、発動できた者などいないのではないのか?」

「そうかもしれません」

「途中で止めようとは思わなかったのか? 考え付いたとはいえ、成功する保証はなかっただろう。失敗したら、時間を無駄にする結果に終わった」

「人間、やればできる、とだけ言っておきましょう」



 そんなことを話しているうちに、やがて夕暮れとなり、その場所に到着した。

 竜の谷の一角にある大滝。

 膨大な水が落ちていくそのさまを私たちは見下ろす。

「この滝の脇の崖に、滝裏の洞窟につながる穴があります。そこから洞窟に入ればいいのです。そして、その洞窟の最深部に鏡水の剣シュピーゲルと、それを持つ四天王の一人がいます」

「なるほど、これは空を飛べなければ、かなり手こずるな」

 崖は水で湿り苔が生しているので、岩壁登りロッククライミングは危険すぎる。

 ゲームでも魔法を使わなければ到達できない場所として設定されていた。

「どうしますか? 洞窟の中は光の無い暗闇。灯りがなければ探索も不可能でしょう。それにもうすぐ夜になります。一旦戻って、装備と戦力を整えるべきでは」

「明かりなら持っている」

 腰袋から手の平ほどの大きさの水晶を取り出した。

 研磨されていないゴツゴツとした肌触りらしき結晶体。

光明ライト

 ラーズさまが呪文を一声唱えると、水晶が光を放つ。

 光明ライト魔法が付加エンチャントされた魔法具マジックアイテムか。

「これでいいだろう。さあ、行こう」

「しかたありませんね。ですが、いいですか、あくまで今回は偵察するだけにとどめておいてください。何度も申し上げますが、剣を守っているのは、魔王四天王の一角。けして一人で戦おうなどと思わないように」

「わかっている」

「では、参ります。空中浮遊レビテーション

 私たちは浮遊し、滝の脇をゆっくりと降りていく。

 そして滝の脇にある岸壁に人が一人通れるほどの横穴を見つける。

 そこから私たちは洞窟に入る。

 中は外の光は届かないが、ラーズさまの持つ魔法具で光源には事欠かない。

「君はここで待っていろ。後は俺一人で進む」

「なにを言っているのですか。私をこんなところに置いて行かないでください」

「しかし、もし戦いになったら、君に危険がある」

 何気に戦うことを想定している。

「だから戦おうなどと思わないでください。それに、この洞窟は少々複雑に入り組んでおり、ちょっとした迷路のようになっています。私の案内なしで迷わず、魔物に見つからず、到着できるはずがありません」

「わかった」

 本当にわかっているのだろうか?

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