6・剣を使わない最強の剣士
ラーズ・セルヴィス・アスカルト。
ゲームクリア後の特典で登場する おまけキャラ。
前世の記憶において、知らないとも 知っているともいえるキャラ。
つまりはミサキチが聞いてもいないのにペラペラ喋ったということなんだけど。
そのミサキチのネタバレトークによれば、攻略対象を全員クリアし、なおかつハーレムエンドと言う、ご都合主義満載のエンディングも見なければラーズは登場しないそうだ。
卒業してから二ヶ月後、オルドレン王国との交易国の一つであるアスカルト帝国。
その皇室から親善大使として訪問したラーズと、リリア・カーティスとの新しい恋の始まり。
ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子においては、彼の魔力の属性は闇だそうだ。
闇の魔力は魔物が多く持っていることから、闇の魔力を持つ人間もまた、魔物と同類のように見られるという偏見がある。
その闇の力を、ラーズが保有していることで、多くの者が彼を恐れ忌み嫌い避けていたため、彼は孤独だった。
それをリリア・カーティスが真実の愛によってラーズの孤独を癒し、彼は呪われた闇の魔力を自ら封印し、そして神々に祝福された光の魔力に目覚める、という展開だそうだ。
うん。
実にご都合主義。
甘ったるくて吐き気がする。
第一、それ以前に攻略した運命の王子たちのことはどうなるのだ。
ミサキチはなぜかそのシーンが好きで、聞いてもいないのにむやみやたらに熱く語っていたけど。
まあ、そんなことはどうでもいいとして、問題なのはどうしておまけキャラ、ラーズ・セルヴィス・アスカルトがここにいるのかってことだ。
ドキラブ学園とは一見無関係なようで、しかし重要な場所である、ここにいるのか?
「あの、どうしてあなたの様な方が、こんな危険な場所にいるのでしょうか?」
「ちょっと、探し物をしていてな」
探し物?
攻略対象が竜の谷で探し物って言ったら、まさか……
「鏡水の剣シュピーゲル」
彼は驚いた瞳を向けた。
「知っているのか?!」
知ってはいる。
でも、彼らがそれを手にするのは今じゃない。
もっと後になってからのはず。
そう、ドキラブ学園の続編、ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス2・聖なる乙女と五人の勇者の物語が始まって、中盤を越えなければ入手できない武器だ。
ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子は、宣伝効果が高かったのか売れ行きだけは良かった。
でも蓋を開けてみればクソゲーだった。
でも一部のマニアには人気があって、そういうコアなファンと販売数を受けて続編が作られた。
それが、ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス2・聖なる乙女と五人の勇者。
前作が恋愛シミュレーションゲームだったのに対し、続編はアクションRPGに変更された。
物語は前作、ドキラブ学園の卒業式の一年後から始まる。
封印されていた魔王バルザックが復活し、魔物の軍勢を従えて、世界制覇に乗り出した。
そしてリリア・カーティスは女神から神託を受けた聖女となり、おまけキャラのラーズを含めた五人の攻略対象と共に、魔王討伐の旅に出る。
実に王道なストーリー。
これもミサキチの勧めでプレイした。
そして、前作よりも遥かに面白かった。
前作をほとんど知らなくても楽しめる内容になっていたし、それに私はアクションが好きだったこともあり、二回もクリアした。
魔法学園、関係ないじゃんと思ったけど。
ともかく、鏡水の剣シュピーゲルはそのゲームで登場する武器だ。
聖なる乙女と五人の勇者は、かなり本格的なファンタジーアクションゲームで、通常の武器防具には耐久度というものがあり、攻撃したり、攻撃を受けたりすると、耐久度が下がっていき、ゼロになると壊れてしまうというシビアな設定になっている。
そして、その設定に私は逆に燃えたものだった。
しかし、一部の武器防具には耐久度無限のものがあり、その一つが竜の谷で入手する鏡水の剣シュピーゲル。
でも入手する時期は、リリア・カーティスが学園を卒業してから、少なくとも一年以上経過してからのはず。
それなのに、どうしてラーズが今、探しているの?
「そうか。君は彼が言っていた……」
「彼?」
「あ、いや。なんでもない。それよりも……」
ラーズは話を変えて、
「なぜ俺が鏡水の剣シュピーゲルを探しているのかわかったのか知らないが、もし所在を知っているなら教えてもらえないだろうか? この竜の谷は広くて敵わない」
確かに、別名大峡谷と呼ばれるこの地域から、一本の剣を捜すのは難しいだろう。
だが、私は前世の知識から、その正確な所在地を知っている。
「はい、確かに私はその剣を知っています。しかし、今はそれを入手するのは無理だと思います」
「なぜだ?」
「単純に戦力の問題です。鏡水の剣シュピーゲルは魔王の配下、四天王と呼ばれる者たちの一人が持っています。その者を倒さなければ手に入れることができないのですが、あなた一人では倒すのは不可能としか思えません」
ゲームでは六人がかりで、鏡水の剣シュピーゲルを持つ中ボスを倒した。
まだゲームが始まってさえいない状態のラーズでは、倒すのは不可能。
私の言葉はラーズ……いつまでも呼び捨てはよくないわね。
私の言葉はラーズさまの
「なぜ、倒せないと思うんだ。俺のことを知っているのなら、俺の強さも知っているはずだ」
そうだ、確かに彼は強い。
アスカルト帝国武闘祭に十四歳で出場。
その賞歴から若くして最強の剣士と謳われた。
そして、現在十九歳の彼は、武闘祭に出場することをやめ、それどころか皇族でありながら、魔物退治の仕事を請け負う冒険者になった。
しかも仕事に武器を使用しない。
彼は無手で魔物を屠るのだ。
剣を使わない最強の剣士。
それが、ラーズ・セルヴィス・アスカルト。
「あなたの武勇伝は存じております。しかし、相手は魔王四天王の一角。いくらなんでも一人で倒すのは無理としか思えません」
ラーズさまは私の言葉を思案していたようだが、やがて、
「では、場所だけでも教えてもらえないだろうか。敵の正体を知らなければ、倒す方法も考えつかないだろう」
困った。
ここで、所在地を教えることは簡単だ。
でも、それだとゲーム的にはレベルが低い状態のラーズさまは、死亡確実。
それは、取りも直さずドキラブ学園2の物語にラーズさまが参戦しないということになり、魔王バルザックをリリア・カーティスが倒すのが困難になると言うこと。
もし魔王バルザックが倒されなかったら、世界は魔王に支配されてしまう。
あの女、リリア・カーティスに有利に働くことをしなければならないのは癪だが、事は世界の命運がかかっている。
早いところ、あの女と接触してもらって、光の力に目覚めてもらわなければ。
そのためには、ここで死んでもらっては困る。
「わかりました。私も付いていきます」
「いや、君まで来る必要はないだろう。場所さえ教えてもらえればいい。君を一度、家に帰りつくまで護衛してやるから、あとは自分一人で探す」
「
空中浮遊は風の初級魔法に属する。
現在のラーズさまの魔力が闇だろうと光だろうと、空中浮遊に類する魔法は、闇、光、共に存在しない。
空中浮遊は風属性の魔法だ。
「いや、使えない」
「あの場所は断崖絶壁。
「だが、君のような女性が、いつまでもこんな危険な場所にいるわけには……」
「では、他に方法があるとでも?」
ラーズさまは沈黙した。
「私を竜の谷から無事抜け出すまで護衛してくださるかわりに、私があなたを鏡水の剣シュピーゲルの場所まで案内いたします。これでどうですか?」
しばらくして、ラーズさまは承諾の意を示した。
「わかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます