これが正夢なら、わたしはあと10年戦える

御剣ひかる

小さな子を持つ親あるある

 今日もクタクタだ。


 魔の二歳児も、なぜなに四歳児(勝手に命名)もとっくに過ぎたわんぱくな息子を相手に毎日怒りっぱなし。


 まず、朝起きない。無理やり起こして朝ごはん食べさせて、おしりをたたくようにせかして学校の支度をさせて、送り出す前に「がっこういきたくない」とぐずってるのを励まして……。


 帰ってきたと思ったら学校の宿題を放り出して遊びに行っては約束の時間になっても帰ってこない。迎えに行ったら「まだあそぶ」と駄々をこねる。最初は言い聞かせ、無理なら引きずって帰る。


 ご飯の時間までに宿題を終わらせなさいと言っているのにテレビ見てるし、おもちゃで遊んでる。


 宿題はまだ低学年だから簡単だけど、要領が悪くておまけに頑固な息子はなかなか進めることができない。

 ひらがなの練習なんて、納得いく字が書けない、と何度も消しゴムで消して、ノートがボロボロになって破れて、先生に怒られると泣き出す。


 だから学校から帰ってからすぐ、それができないなら遊びから帰った後すぐにやり始めればいいのに。


 そんな感じだからお風呂も遅くなる。寝るのも遅くなる。


 やんちゃ坊主が寝た後の部屋は、おもちゃと勉強道具が散乱している戦場跡。


 きれいに片付けるとママがやってくれるものだと思わせてしまうので足の踏み場だけ作って放置。


 以下、毎日無限ループ。

 週末はパパがいるから少しだけマシなだけ。


 今夜も居間の歩行可能スペースを確保して、食器とかの片づけもして、終わったと思ったら遅く帰ってきた旦那のご飯の支度と片付けもして。


 布団に入るころにはもう日が変わってる。学校が給食で本当によかったと思うわ。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 そんなこともあったなぁ。

 今ではすっかり息子は大きくなって、家のことも当たり前のように手伝ってくれる。


「母さん、今日仕事の帰り遅い?」


 さわやかスマイルを浮かべた高校生の息子の問いに、今日は六時には帰るよ、と答えたら、なんと今晩は息子がご飯を作ってくれると言う。


「今日は父さんも早めだって言ってたからみんなで食べよう」


 そう言って登校の支度をしている息子の部屋は、きれいとは言えないが片付いている。


 なんか最近機嫌いい息子は、もしかしたらカノジョでもできたか?

 そんなことを考えるとニヤニヤしちゃう。


 今日、何作ってくれるのかな。

 なんて幸せなんだろう。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 目が覚めた。

 あぁ、夢だったんだ。


 高校生になった息子、かっこよかったなぁ。優しかったし。

 高校生になってカノジョできた息子とか今は全然想像できなくて、笑っちゃう。


 あれが将来の息子そのものだなんて思わない。

 でも、これから次第で、ああなってくれるかもしれないんだ。


「おはよう」

「おはよう、なんかいいことあった?」


 旦那に指摘された。


「いい夢見ちゃった。あれが正夢なら、わたし、あと十年は戦えるわ」

「そりゃよかった」

「ところでさ、パートに出ていい?」

「えっ? なんで?」


 わたしは夢の話と、起きて感じたことを旦那に伝えた。


 今のわたしって、すごく息子べったりだから、たとえ家に一人でいる間でもあの子のやることなすこと気になって、帰ってきた息子に頭ごなしにガミガミ言って委縮させていたんだって気づいた。


「そんなに長い時間じゃなくていい。毎日じゃなくていい。少しだけ家から離れる余裕がほしい」


 旦那はちょっと考えたあと、うなずいた。


「そうか、判った。いいところが見つかるといいね」

「ありがとう。……さぁ、今日も頑張りますかぁ!」


 わたしはにこにこの笑顔で、息子を起こしに行った。


(了)

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