夢と現実

卯野ましろ

夢と現実

 もう二時か、いい加減寝よう……。


 物語を夢中になって書いていた。それにより、眠りにつく時間が遅くなった。夜更かしは体に悪いけれど……私は何回も、こんなことになっている。




 ジリリリリリリリ……!

 パッ!


「……あと五分……」




 その結果、こうなった。


「あーっ! 遅刻!」


 私は二度寝した自分を恨んだ。


 あのとき、ちゃんと目を覚ましたのに。

 そのまま起きていれば、こんなことにはならなかったのに。

 ……寝坊で遅刻なんて、これまでにどれだけ夜更かししても、一度もなかったのに~っ!




「……はっ!」


 私は、すぐに時計を見た。朝の六時だった。


「……なーんだ。夢だったんだ~」


 私はホッとした。

 本当に夢で良かった。

 そして、これ以上に最高の目覚めはないな、と心の底から思った。


 だって寝坊が夢だったなんて……寝起きの自分にとっては、これ以上ラッキーなことはないよ!




「……な~んてこと思ったんだけど……よく考えたら、大体は何時に起きても大丈夫なヤツだったよ私」

「へー、よく考えたんだー。自分のことなのに、すぐには分からなかったんだー」

「いやいや寝起きだったんだから、そこは多目に見てよ亜美サン」

「はいはい」


 ただいま、一番の親友とケーキバイキング中。甘いものを口に運びながら、私が今朝に見た夢の話で盛り上がっていた。


「でもさー……私、本当に美郷がうらやましい。だって朝早く起きなくてもOKでしょ?」

「おー、さすが面倒くさがりの亜美サン! 他の人と比べて目の付け所が、ひと味違いますねぇ」

「夜中に小説を書いていて寝るのが遅いくせに、学生時代は絶対に遅刻しなかった……。そして提出物もテスト勉強も基本的にギリギリだった、真面目系クズ予備軍の美郷サン!」


 二人で毒づき合い、お互い爆笑した。


「でも本当に小説家になっちゃうなんてね~。あんたが書いたやつ全部おもしろいけど、まさか高校在学中にデビューするとは思わなかった!」

「うん、それは私もビックリした。くじけないで、ずっと頑張っていて、本当に良かったよ」

「それで学生時代から忙しくて、卒業後は専業作家とか……。高二で既に進路が決まっちゃったよね。それもうらやましかったわ」

「亜美だって結構早く進路決まっちゃったじゃん。受験勉強が嫌だから、推薦入試で第一志望の大学に合格とか……」

「面倒なことは嫌いだからね」

「それだけで、あんなに難しいところに入れたなんて……突き抜けているな~」

「夢叶えたあんたが、それ言う?」

「え?」

「面倒くさいってだけで動いていた私より、一つのことに、ずっと夢中になっていた美郷の方が突き抜けているよ」

「……」


 そうだ……。

 私、夢を叶えたんだよね……。


「……こうして小説家になっていることも、まさか夢じゃないよね……」

「ふーん。じゃ、確かめてあげるよ」

「痛い痛い痛い!」

「ふふっ。現実で良かったね!」


 亜美が笑いながら、むにゅーって引っ張っていた私の頬からパッと手を離した。


「夢の次は……恋だっ!」

「出た出た。既婚者の先輩面」

「あんたラブばっか書いているのに、そういう話ちっとも聞かないんだもん」

「それは言わない約束っ」

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