忠犬勇者が放つ最後の一撃

ちびまるフォイ

村ッシュ…ぼくもう疲れたよ…なんだかとっても眠いんだ…

「実は、あなたの強力な力を見込んでお願いがあります」


「フフフ。お目が高いですね、村長。何でも言ってください」


「実は最近魔物が湧いてきて困っているんです。

 その最前線に3日ほど行ってはくれませんか?」


「いいでしょう。軽く捻り潰してやりますよ」


「いえいえ、捻り潰さずに監視してください。

 村に目をつけられて復讐されたらたまらない」


「なるほど」


「しかし、あなたの目が光っていれば、もう襲ってこれない。

 そのうちこの村を襲うことも諦めるでしょうからいいんです」


「わかりました。3日ですね。

 お礼には村の美人な娘をたくさんそろえてください」


「要求がヤマタノオロチ級ですね……」


男は指定通り、村からしばらく歩いた場所にやってきた。

周囲にはなにもなく、地平線が遠くに見える平坦な場所だった。


「よし、と。ここで俺が待っていれば良いんだな」


男は腰掛けると、プレッシャーをかけるように殺気を放った。

周りにいた小動物は逃げ出し、大気は止まり、草木が枯れるほどの力だった。



それから3日が過ぎた。



「……もう戻って良いのだろうか」


男は持ち込んでいた連絡端末で村長に連絡をした。


「私だ。もう3日経ちましたが?」


『はい、しかし、もう少し待っていただけませんか?』


「なにか問題があったんですか?」


『いいえ、むしろ、その逆です。

 あなたが底にとどまっていることで魔物は襲って来なくなりました。

 ですから、もう少し待っていてもらえませんか』


「……まあ、いいでしょう。これも力持つものの役目です」


男はどっしりと腰を落ち着けてまた目を光らせた。

村長も言っていたように、自分がいることで敵も手出しできないのだろう。


ここで抑止力としてじっと耐えてみせる。



数日が過ぎた。



「ああ……もう腹減ったな……」


特別な力で生理現象を最小限にして生存だけに力を使っていたが

それでも限界はとうに過ぎていた。


魔物は男が弱り始めたのを感じ取ったのか徐々に姿を見せ始め、

それでも手が出せないのかにらみ合いが続いている。


我慢ができなくなった男はまた村長に連絡をした。


「私だ。いったいいつまでこうしていればいい!?」


『――』


「おい、聞いているのか!!」


『――』


「くそ!! つながらない!! どうなってる!!」


実はもう魔物に奇襲されてしまったのだろうか。

それとも単に連絡がつかないだけか。


それから何度も時間を分けて男は連絡したが

その1度たりとも村長が答えることはもうなかった。


「やっぱり、もう死んでしまっているのか……」


男の頭の中で悪いイメージばかりが浮かんでは消えていく。


しかし、ここを動いて村の様子を見に行ってしまえば、

好機とばかりに魔物が攻め込んでくるだろう。ここを動くわけにはいかない。



また数日が過ぎた。


視界が歪み、体は動かなくなってしまう。

もう力を使って村へ連絡することもできない。


「俺が……俺が守るんだ……」


うわ言のように男はつぶやき続けた。

男が存命である限り魔物はけして近づけない。


はずだったが、近づく足音に男は顔をあげた。


「誰だ……お前は……」


「はじめまして、魔物部隊師団長のものです。

 実はあなたと交渉したいと思いまして」


「交渉……?」


「それだけ弱っていてもあなたの力は強力です。

 あなたの力であれば、我々などあっという間に全滅するでしょう」


「よくわかってるじゃないか……」


「ですが、あなたはもうすでに限界。虫の息です。

 このまま餓死してしまえば元も子もない」


「……何が言いたい」


「よろしければ魔物側に入ってはくれませんか?

 あなたに食事も用意しましょう。

 抵抗はあるでしょうが、あなたが死んでしまえば結果は同じ。

 あなたが死んで魔物が攻め込むか、

 あなたが生きて魔物が攻め込むかの違いだけです」


「……」


「悪い話じゃないはずでしょう。

 あなたが承諾するだけでいいんです。

 あなたを避難する村の奴らなど全滅しますから大丈夫です」


「断る!!」


「どうしてですか、悪い話じゃないでしょう?」


「俺は自分の誇りを捨てて生き残るくらいなら、

 命を捨ててでも自分が誇れる人生を送りたい!」


「理解できませんね、まったく……」


師団長は去ってしまった。

魔物たちは男を取り囲むようにしたままのにらみ合いが続く。



翌日、ついに生命活動の臨界点が迫った。


「あ……ああ……もうだめだ……」


衰弱した男はもう座ることもできず、寝そべっていた。

師団長の申し出を受けていればと何度も後悔した。


魔物たちは消えかかる命の火の行方をじっと伺う。


男は魔物たちをけん制しながらずっと考えていた。


(どうして……魔物たちを倒してはいけないんだ……)


村長は復讐が怖いと言っていた。


でも、復讐する相手を根絶やしにすればどうだろうか。

そもそも復讐されようがないし、そっちのほうがずっと安全だ。


こんなに回りくどいことをしなくてもずっと……。



男はゆっくりと立ち上がると、目には失われた生気が宿っていた。


「最初から、言うことなんて聞かずに

 こうすればよかったんだ!!」


男は魔物たちを一網打尽にふっとばし、消し炭にした。

二度と復讐できないよう根城もろとも消し飛ばした。


やがて、フラフラになりながらも男は村に戻ってきた。


「やりましたよ……アイツら全部消してやりました……。

 これで村も襲われることはない……完全無欠の安全です……。

 ……あれ? ところで村長はどこに……?」


男が村の人に尋ねると、村の人は青ざめて答えた。




「村長は……村長は数日におよぶ協議が実って、

 ついに魔物たちとの平和条約を結びにいったところです」

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