恋雨ーKOISAMEー

結城 佑

恋雨

何か悲しいことでもあったのだろうか。

見上げると鉛色のモコモコとした生き物が空一面を覆い大粒の泪を流していた。

今朝の天気予報では1日お日様が顔を出しているはずなのに少しも見えない。


(諦めて濡れて帰るしかないのかなぁ。)


家の者に迎えを頼もうにも、同じ学校に通っている世話係を呼ぼうにも、不運なことに携帯電話を家に忘れてきてしまった。

空は一向に泣き止む気配がない。


(諦めて帰ろう。)


決心して昇降口の扉に手をかけると、後ろから聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。


凪絆なずな様」


振り返るとそこには世話係の青年が立っていた。


「是枝·····?どうしてここに。私は生徒会の仕事があるし、あなたは図書室で調べたいことがあるって·····」


彼は靴を履き替え私の前まで来ると、私に折り畳み傘を渡してきた。


「ふと外を見たら雨が降っており、天気予報で晴れと言っていたので、傘をお持ちでないのではないかと思いまして。」


微笑みながらそう言う彼の姿を見て、少し心が痛たんだ気がした。


「でも、調べたいことは調べられたの?·····いつも私の世話でしたいことさせてあげられないのに。」


私が続けて『ごめんなさい』と言おうと口を開こうとした瞬間、彼の両手が私の顔を挟んだ。


「その続きは結構です。私にとって何より優先すべきは、凪絆あなた様ですから。」


ドキリとした。『私にとって』の前には【凪絆わたしの世話係である】という単語がつくと分かっていてもその言葉はとても嬉しくて、心拍数がドクドクと上がり顔が熱くなってくる 。《顔を挟んでいる両手から彼にこの熱が伝わりませんように。》なんておもっていたら、彼の手は私の頬から離れた。


「さて、帰りましょう。」


そう言って彼が昇降口の扉を開けたので、私もそれに続く。傘は私に渡した1本だけだったらしく、彼はスクールバッグを頭にのせ雨の中を歩き出した。私は「待って」と彼の制服の裾を掴んだ。


「是枝!!一緒に入っていきなさい!」


彼が眉間に皺を寄せ困った顔でこっちを見るので「風邪をひかれたら誰が私の面倒を見るの」なんて思ってもない台詞を吐いて半ば無理やり傘に入れる。

いつか無理やりじゃなくて自然にこうして2人で帰りたいし、『凪絆わたしの世話係』じゃなくて『彼氏』として私の傍にいて欲しい。私を貴方の一番にして欲しい。···なんて今の関係を壊したくないから、絶対に言わないけれど。

そんな私に同情するかのように空は淀み雨足は刻一刻と強まって行った。


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恋雨ーKOISAMEー 結城 佑 @yuiki1014tasku

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