第四話 十年磨剣
「おい兄さん、あれはお前さんの客か?」
「……そのようだな」
いったいどこから仕入れたのか。
商人達も頭に血が上り、売り物だろう
一刀斎は「これはいかんな」と手に取った
「仲間連れでお
「……! 来やがったな……!」
「てめえ、昨日はよくもやりやがったな!!」
無頼達は現われた一刀斎を見て、今まで
その目は血走っており、腕に浮き出た
よほど血の気が多いのだろう。まるで
どうやら、少し適当にやりすぎた。
ならば、今度こそ。
「この後に用がある。あまり付き合ってられんから、さっさと終わらせるぞ」
さっさと終わらせる。一際身体が大きい無頼の頭がその一言で頭に血を上らせて、まるで赤鬼のように顔を赤らめた。
頭が「やっちまえ」と腕を掲げた直後、後ろにいた仲間が一刀斎を囲う。数は昨日の倍、十二人。
「掛かれ!!」
頭の
突きに袈裟に振り下ろし、四方から異なる軌道で迫る
「食らえ――」
「食らわんが」
だがしかし、棒はただ空を
一刀斎のいた場所に、その
「なっ」
声のなる方へ振り向こうとした瞬間、男の眼前は暗く染まる。
「馬鹿な、どうして……!」
続いて反応した男もまた顎を打ち上げられた。
そして。
「ぐごぁ……!」
「ぼうぇ!」
伸びた男を踏みつけて、横薙ぎ一閃振るわれた剣が残る二人を同時に払う。
「くたばれ!!」
「
背後から一足飛びに
くの字に曲がってガラ空きになった襟首を掴み、続いて迫った男に投げつけた。
「この野郎!!」
その間にやってきた男の、雑な高段から振り下ろされる一撃を、
「ちくしょう……!」
背中を向ける一刀斎の脳天目掛けて、鉄の石突を突き出す
しかしその刺突は、振り向き様に放たれた柄によって払いのけられ、そのまま胸を
なんということだろうか。
先程まで暴れていた十二人の無頼達。それがもう既に、半数まで減らされた。
何事かと港を見下ろせば、昨日の剣士、トダイットウサイが男達に囲まれていた。
男達は見るからに武士ではない。
「おやおや、なにやら問題が起きたらしいな?」
十官の隣に立ったのは、彼をこの島へと連れてきた商人である。いつもは隠す
商人の様子を見るに、どうやら一枚噛んでいるらしい。
恐らく、昨日の
情報を仕入れて相手が求めるものを
「それにしても
十官は、その
腰に納めた刀の柄を握りしめ、しかと
――昨日、イットウサイは己の腕を見ていたはず。ならばこちらも、見せて貰おう。
奴が振るう、その術理を、その理合を。
「こいつ……どうなってやがる……!?」
無頼達がいくら奇襲を仕掛けても、視覚の外から狙っても、正直に真正面から
――いや、まるで、炎を
一刀斎は確かにそこに存在している。にもかかわらず無頼達の攻撃は、透過しているかのように当たらない。
それはもはや
一刀斎は、気配に
一刀斎の炎が如き
だがしかし一刀斎は、この
一刀斎の気配を読む力は、
感じる全てに意識を巡らせてしまえば、真に相対すべきものを見失う。
こちらに向けられた全てのものに、対応する必要などない。
真に相対すべきは一つだけ、
「じ、冗談じゃねえぞ!」
天狗なんぞに
しかしその三つの打撃を一刀斎は足を
これで残るは、あと一人。
昨日庭先まで転がした、無頼の頭らしい男である。
「ぐ、ぬう……」
野太い棒を構えたまま、頭は一歩も動かない。鼻と頬骨の間にある
決した
鼻の穴と歯の間から漏れ出た空気が伸びっぱなしの髭を揺らしている。
一刀斎が一歩近付けば、ジリと一歩後ろに下がった。
完全に、怯えている。だがしかしよほど
頭に血が集まって、まるで破裂しそうなほどに頬が膨れあがった。
「ぐ、がぁああああああぁああああああ!!」
意味も意義も込められていない、
担ぐように振りかぶった棒はその
自覚してか無自覚か。どちらにしても
「シネ――」
「
だから、先に一撃加えた。
メキリ、と、
バキリ、と、
そしてビキリ、と。
「………………しまった」
刃の真ん中に、
刀身を見れば反りが深く、しかしどこか
……見た目には
平打ち峰打ちを多用しすぎた。借り物だというのに、駄目にしてしまった。
いやまずは、それよりも。
「…………ここに、貸せる刀はあるか」
そう商人達に
中にはあからさまに箱を隠す者もいて、さっきまで刀を握っていた者もなにも答えず、ある者に限っては隠しもせずにないと言う。
当然だろう。いま正に刀一本駄目にした男に
まさに
「お
高い声につられて見れば、黒い舶来の商船から、一人の男が下りてきた。
ニコリと優しげに笑うのは、大陸から渡った十官の主。
「いやしかしながら……ふむ、その
「武器は
商人の誘いを、一刀斎は一刀両断斬り捨てた。
「アラそうですか」と、
……一刀斎はいくら気配を読むのを止めたと言っても、相対した者の感情の色ぐらいは読める。
あのやけに質が良く、十余りもの揃いの鋲打ち棒。どうやらあの無頼達は、この男の差し金らしい。理由はサッパリ、分からんが。
商人に続き、十官が
その腰には
この商人が貸す武器とやらが、馴染みのある武器である可能性は低い。
「買う」ならともかく「貸す」であれば、上等なものを出されることも期待できない。
――――ならば。
「これを使わせてもらう」
「……………………は?」
一刀斎が袂から出したそれを見て、商人はその細い糸目を見開いた。
船から港に下り立った十官も、その
一刀斎が、取りだしたのは。
「
遠い昔十年前、ある女から譲られた、黒い骨を持つ
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